第5話
次の日の朝。思ったほど悪酔いしなく、案外スッキリと目が覚めた。
そう言えば途中から酒の味が薄くなったように感じたが、気のせいだろうか。
まさか、マスター。酒樽が空にとか言っていたが・・・。
まあ、深読みはしないでおこう。
さて、王に謁見と言うが流石にそこまで顔パスというわけにはいかない。
一度申請して、実際に謁見が叶うのに何日かかるか。
そしてその期間がルーシーの口から証明を聞き出せる最後のチャンスだ。
狭い部屋なので、ベッドに腰掛ける他にやりようがない。
先に起きていたらしいルーシーは部屋にはいなかった。
一応の身仕度を整えて思案していると、ルーシーが食事を運んできてくれた。
「軽いものがいいと思ってスープと食パンにしてもらったけど。」
「ありがとう。ちょうど良かったよ。」
「下は凄い騒ぎだったみたいね。」
「そうなのか?俺達が居なくなっても?」
「ま、騒げれば何でもいいんでしょ。今までずっと抑圧されてたんだし。それも仕方ないけどね。」
「そうか、何でも良かったのか。それもちょっとショックだな。」
「嘆かないの。私が慰めてあげるから。」
「い、いや。また今度。」
ベッドに皿を並べて食事をする俺達。
「ねえ。私達夫婦みたいじゃない?」
「こんな夫婦いるか。」
などと馬鹿な会話をしていると、部屋の外からドカドカと靴の音が聞こえてきた。他の部屋の客かと思ったが、どうやらこの部屋の前に立ち止まっているようだ。
ノックがなる。
「開いてるよ。どうぞ。」
俺はいう。
がチャリとドアが開き、神官の服を着た少女が入ってきた。
後ろには衛兵が立ち並び、整列をしている。
少女は深々と一礼をして。
「お休みのところ申し訳ありません。私神官長の娘、神官見習いのフラウと申します。不躾で御座いますが。本日は国王陛下からの伝言をお伝えに上がりました。」
意外な訪問者にベッドに皿を広げたままそのままの姿勢で固まる俺達。
「国王からの伝言?」
「はい。本日正午に勇者殿とそのお連れの方をアルビオン城にお招きしたいとのことです。」
今日か。願ってもないが、やけに早急だな。
まさか国王が使いの者をこんな場所にまで仕向けてくるとは予想していなかった。
昨日あれだけ騒いでいたからには、情報も早かったのか。
「日時にご都合がおありでしたら、」
「いや、本日正午にうかがうとしよう。そう伝えてくれ。」
「ありがとうございます。正午前にここへ馬車でお迎えにあがります。それでは失礼させてもらいます。」
来たとき同様深い一礼をして出ていこうとする少女。
「ちょっと待って。」
それをルーシーが呼び止める。
「なんでしょうか。何かご質問でも。」
「いや、国王の使いとしてじゃなくて、あなた自信に質問なんだけど。」
「はい?」
「神官見習いって、ヒーラーとして立ち回れるの?」
「え?ええ、一応の術は心得ていますが、なにせ見習いですので、実戦の経験は御座いません。」
「まあ、誰だって最初は実戦経験なんて無いしねぇ。んん、ありがとう。」
なんでそんな事を聞いているのかはわからなかった。
フラウはドアから出て再び一礼すると、ドアを丁寧に閉めて来たとき同様ドカドカと足音を響かせて出ていった。
今後ろの衛兵達は必要だったのだろうか。
まあ、こういうのはハッタリで優位を保ったりするし有無を言わせない雰囲気作りに有効なのだろう。
それにしても困ったことになった。数日猶予があると踏んでいたので、まだルーシーの証明が出来ていない。
今国王の元に出ても、この人が魔王を倒したと言っていますが証明できません。と言うしか他ない。
最悪、王を謀ったとして、本当に引っ捕らえられかねん。
時間もないし単刀直入にあの時の情景の仔細を聞いてみるしかないか。
「ブースターにも草あげてこなきゃ。」
食事を済ませたルーシーがベッドから立ち上がる。
「ルーシー。」
呼び止める俺。
「なあに?」
ベッドに座り直すルーシー。向こう向きに背を向けている俺の背中に、ピッタリと背中を着ける。
今更聞きづらい事ではあるのだが。
「俺はまだ君があの時魔王に止めをさした金髪の女だという確証は得ていない。」
背を向けあっているので、当然表情は見えない。
「もし、自分があの時の女だというなら、いろいろとあの時の情景を質問させてくれないか。」
ここで答えられなければ、または答えを拒否したら・・・。
そう思うと背筋が寒くなる。
今やっとこの質問を避けていたのは俺自身の拒否感が原因だと気付いた。
「そのことね。」
声のトーンが今までになく落ち込んでいるような気がして、思わず肩越しに振り向く。
ルーシーもこちらを肩越しに見ていて、視線がぶつかる。
「でも残念だけど、それは証明にはならないわね。」
ニヤリと笑うルーシー。
どういうことだ?ルーシーのとらえどころのない反応に戸惑う俺。
「今まで魔王の城に数百人以上の女が捕まって、大多数は行方不明。でも少なくとも20人くらいの女は外に出ている。その女達が魔王の姿や城の様子を知らないなんて事あると思う?」
確かにそうだ。彼女達のことを忘れていた。
「もし私が彼女達に魔王の容姿を聞き出していたら?確実じゃない以上、証明とは言えないんじゃないかしらねー。」
確かにそうだ。そうだが、何故自分の首を絞めるような事を言うんだ。
ただ、ここで魔王の姿を答えてくれれば、俺はあんたを信用できたかもしれないのに。
抜け道に気付かず、王に自信を持って本人だと告げられたかもしれないのに。
「ちなみに魔王は青い肌、白い短髪。赤い瞳。身長は2m以上。暗い大広間に椅子は1脚だけ置いて、暗がりから右手で雷撃の魔法を使ってきた。最初のセリフはよくぞここまできた。人間。どう?合ってる?」
まくし立てるように聞いてもいない事をベラベラと喋るルーシー。
それを先に言えぇぇっ!
自分の首を絞めてからじゃ、逆に怪しくなってるじゃないか。
ん?右手で雷撃と最初のセリフは女達には知りようが無いような気がするが。いかんせん死にそうだったので、逆に俺が覚えてない。
俺は肩を落とした。
決め手になると思っていた事が特に意味がなく、やはり証明できそうもないと知ったからだ。
この状態で王と謁見することになるのか。
中止を申し出るか。しかしもう数時間しかない。
それからの数時間は、そわそわした気分で浮き足立っていた。
この謁見で全てが決まる。そして終わる。
俺の心配をよそにルーシーは呑気にブースターの世話をしたり鼻歌を歌ったりしていた。
自分の立場をわかっているのか?
正午前。場末の酒場の表に豪勢な馬車が停まった。
二頭立ての大きな車で、入り口に王国のレリーフが描かれ、金箔を施した装飾が散りばめられた重厚な表層は一目で国王の所有とわかる。
遣いの者は朝のフラウではなかったが、慇懃丁寧な紳士であった。
乗り込む俺達。中の座席も広々としてビロードに覆われた乗り心地のよいものだった。
馬車は一旦大通りへと出て城へ直進する。
あの、昨日見たうねるような雑踏へと突き進むのだ。
国王の馬車に乗る俺を見た群衆が大騒ぎしないわけがなかった。
たちまち通りは凱旋パレードのようなお祭り騒ぎになった。
こんな混雑では馬も牛歩の速度でしか進む事はできない。
通りの左右で俺に手を振るったり、何かを叫んだりする群衆。
流石に無視もできずに、手を振り返したり頷いたり、それに応えるおれ。
いったいいつまで続くのかと辟易していたが、なるほど、最初から国王の狙いはこれだったのかと今更気付いた。
昨日酒場で俺に褒美を渡さずケチな王様だと言っていた人がいたが、あれはあの人の個人的な思いという訳ではなくて、国民全体のコンセンサスになっていたのではないか。
それを払拭するために、こういうデモンストレーションをわざわざ用意して、俺と王が和解し、手を握りあっているとの印象を国民に与えたかったのだろう。
もっとも、褒美を辞退したのは俺の意思なので、その事で不平を言われるのは筋違いで、たいへん申し訳ない事をした。
そういう事なら一肌脱いでこのパレードを精一杯盛り上げよう。
俺は身を乗り出して群衆に応えた。
ルーシーは流石に影に引っ込んで冷めた目で俺を見ている。
違うんだ、別にノリノリでやっているわけでは・・・。
よく見ると足元にズタ袋を持ち込んでいる。
思えば王は打算的な計算を非常に上手く使う人だった。
そもそも俺達が旅を始められたのも打算による所も大いにあったろう。
前にも言ったが、俺達の住んでいたベース村の襲撃事件は、それまで黒い霧が特定の場所にしかなく、壁による防衛が完結していた事態を一変させかねないものだった。
俺達が村を封鎖し、その一報をアルビオンに伝えに来る前から、その知らせは国王に届いていた。
国王の前で生き証人として現状の説明をした俺達は、その場で魔王退治の任務を俺達に与えてくれと進言した。
どこの馬の骨かわからない田舎者の俺達にそんな任務など、普通は与えてはくれないだろう。
しかしシナプス王は違った。
全面的なバックアップを約束してくれ、晴れて俺達は勇者と呼ばれるようになった。
事態の急変から防衛の兵力はむしろ減らすわけにはいかなかったろうし、魔王のこの更なるモンスターの脅威も、一刻の猶予もなく対処せねばならなかった。
それにどこの馬の骨が討伐に失敗してのたれ死のうが、国は何の責任も持たなくていいが、成功すれば国はスポンサーとして俺達を手懐けられるという寸法だ。
逆に言うと、俺達も事態の急変という隙をつき、上手く国からバックアップを引き出したと言えなくもないが。
雑踏を抜け、厳かなアルビオンの城門まで来た。
門を越え、堀にかかる跳ね橋を渡り、謁見の間の前の小部屋に通された。
俺は国王の前での帯刀を許可されていて、腰の剣はそのままの持ち込める。
しかしルーシーは肩の剣を係の者に預けなければならなかった。
携えたズタ袋も持って行かれようとしていたが、なにやら係官に耳打ちして持ち込みを許されたようだ。
ドアを開けると既にそこにはそうそうたる御歴々が集まっていた。
正面の玉座にはシナプス国王。その右に大神官のモズリー、左に大臣のモーリスが控えている。
広間には他に貴族の面々やら、各機関の主要人物などが、もちろん物々しい衛兵の警護の中で勢揃いしている。
今朝がた決まった謁見でこれだけの歴々をそろえるとは、一体どういう力の入れようだ。
俺は恭しく王の目前に片膝をつき、頭を垂れた。
ルーシーもそれに倣い、俺の横に並びかしずく。
「国王陛下。この度はアルビオンにお呼びいただき、誠にありがとうございます。」
「いやいや、よくぞアルビオンに戻られた。そなたを探しておったが、なかなか見つからんでな。そして、どこに居られたのかな。」
「申し訳ありません。そうとは知らず。とある村にて厄介になっておりました。」
「うむ。まあその話はまた次の機会にでも聞こう。本題だが、今日ここに呼んだのは他でもない。そなたに渡しそびれたものを渡すためだ。今度は受け取ってもらえるだろうな?」
褒美を俺に無条件でとらせるというのか。
俺にはまだ抵抗があるのだが。
「わたくしめに受け取る資格があるのでしょうか・・・?」
「もちろんだ。そなたが受け取らねばアーサー殿とアンナ殿にも渡せなくなるが・・・。」
そう来たか。最早ここで受け取らない事の方が失礼になるのだろう。
俺はわだかまりを飲み込み、受け取る事にした。
「ありがたく頂戴致します。」
俺は深々と頭を下げた。
「勇者殿。魔王討伐の任、誠に御苦労だった。そして、よく成し遂げた。
アルビオンの国王として、一人間として礼を言う。
まずは褒美として勇者殿一行3名にそれぞれ5000万ゴールドを進呈しよう。」
集まった歴々による拍手喝采が起こった。
褒美の内容は決まってなかったが、想像よりもかなり多額だ。
見に染み入る光栄とはこういう事をいうのか。
「ありがたき幸せ。」
拍手喝采が再び起きる。
やっと、俺の物語が終わった気がした。
もう、背負うものは何も無くなったのだと。
勝手に背負って無駄に迷惑をかけたのは申し訳なかった。
しばらくして城内が落ち着く。
ここからが問題だ。
「さて、勇者殿。聞けば今連れているそちらの淑女はただのお仲間という訳ではないそうな。」
「はい。」
酒場で俺が言ったことももちろん伝わっているらしい。
魔王を倒したのがこの女だ、と。
「勇者殿も聞き及んでいると思うが、勇者殿が立ち去った後、すでに5人も魔王を倒したと名乗る金髪の女が名乗りを挙げている。」
「そのように聞いております。」
「真実ならば私も喜んで褒美を遣わしたい所だが、そうでない場合、困ったことになる。それでアーサー殿アンナ殿に魔王の容姿の特徴を教えてもらい、その女達にテストさせてもらっていた。」
アーサー達に?そんな事があったのか。
あいつらにも迷惑をかけたな。
「その結果も存じていようが、全て騙りであった。実に残念なことだ。」
しんと静まり返っている城内。さっきの雰囲気が嘘みたいな緊張感だ。
その中心で針のむしろに入るがごとく小さくなっている俺。
「勇者殿と一緒にいる以上、騙りであるはずもなかろうが、果たしてそれでも尚信用に足る証拠など有りはしないだろうか。」
俺自身のまだどこまで信用して良いのかわからないのだ。
提示できるはずもない。
「勇者殿と一緒にいる以上、魔王の容姿の確認もあまり意味もないであろうし、困ったことになった。」
なんという事だ!宿でルーシーが証拠能力はないと言っていたが、それ以前に俺の存在が容姿での証明を無力化していただなんて。
ここで言えるのは一つだけだ。
証拠はない。証明はできない。本人がそう言ってるだけ。
顔を覚えてない俺に断言は出来ない。
横で膝まずいているルーシーの横顔に目をやる。
頭を深々と下げたままで顔は見えない。
ここで梯子を外すような真似をするのは心苦しい。
だが、そう言う以外にない。
ない、のだが・・・。
しばしの沈黙。皆俺の発言に注目しているだろう。
俺は何も言えずにいる。
もう一度ルーシーを横目に見る。
今度は俺の視線に気付いたのか、顔をちらりと上げるルーシー。
俺の苦しそうな顔を見て、彼女は微笑んだ。
この微笑み・・・。
ルーシーは立ち上がった。
「国王陛下。お初に御目にかかります。わたくしルーシーと申します。以後お見知りおきを。」
深々と頭を下げるルーシー。
一体何を言いだすつもりなんだ。
「今話があった噂通り、このわたくしめが魔王に止めをさしました。間違い御座いません。しかしそれは褒美が目当てでやったことでは御座いません。ですので、特に証明をしていただく必要もないのです。ですが、どうしてもその証明をというのなら、これが唯一の証明になるでしょう。」
ルーシーは持って来ていたズタ袋を手にし、紐をほどこうとする。
そこには・・・。
城内にどよめきが起こった。
王は玉座から腰を浮かし、他の皆も一歩後ろにたじろいだ。衛兵には剣の柄に手をかけた者もいる。
俺もそれを目にして体が固まった。
考えてみればおかしくはない事だった。どこかに消えたものがどこに消えたのか。誰が持っていたのか。
ルーシーが袋から出したのは、魔王の首から上、持ち去られた魔王の頭部だった。
見間違えるはずはない。忘れるわけもない。
確かにあの時の対峙した魔王の顔だ。
傷口は一太刀で刈り取られ。血は出ていない。
目を閉じ口も閉じ。表情こそ穏やかだが、見る者に恐怖を与える威圧感だ。
魔王の頭部が消えていたことは俺達3人と切断した本人以外知らない。
当初国王にも報告していなかったが、アーサー達から容姿を聞き出した際、国王達は今は知っているだろう。
だが、騙りへのテストを安易に外に漏らすはずもない。
この頭部を持っていることは何よりの証明になると言ってもいいのではないか?
頭部の問題はハッタリとしてだが、最後の切り札になると考えていたが、むしろそれはルーシーにとっての切り札だったのだ。
「国王。魔王はまだ生きています。この袋に封印しておかなければ3ヶ月でもとの体に再生します。」
どよめきがまだ残る城内で更なるどよめきが起こる。
なんだって?
まだ生きてるだって?
耳を疑った。
「しかしご安心を。この袋に封印していれさえすれば、2年で自分にかけていた再生の施術は消え去り、塵へと還ります。」
頭部を袋に戻そうとするルーシー。
まさかとは思うが、その際魔王の目が一瞬見開き、俺をギョロリと一瞥したような気がした。
本当に生きてるというのか。気のせいだと思うが。
「国王わたくしは今日、この首をこの袋のまま、城の宝物庫にて厳重に管理して頂きたくお持ちしました。私が持っているといつ無くしてしまうかわかりませんので。
念のために捕捉しますが、この袋のままが重要なのであって、ボロボロだからといって他の箱やら袋などに入れ替えたりしませんように。この袋には再生の施術を妨害する効果があります。それが機能しなければ大変な事になりますゆえ。ご承知を。」
「な、なんと。よし、承ろう。衛兵!」
呆然と説明を聞いていた国王はハッとしたように配下に指示をした。
衛兵二人は顔を見合わせながらも、恐る恐るルーシーから袋を受け取り、奥の扉に消えた。
魔王の頭部が部屋から消えたことで、城内のざわめきも一応の収まりをみせた。
ルーシーは俺の横で左右に行ったり来たりウロウロしている。
「ここにいる皆様にはくれぐれもこの事はご内密にお願いしますよ。魔王がまだ生きていると言うこと。どうせ2年も待てば塵になるのですから。無用な混乱を招くことは控えて頂きたい。」
「皆の者、良いな?それは私からの命令でもある。他言は無用だ。家族、部下、同僚、親類、如何なる者への口外も禁ずる。2年後になってもこの命の効力は有効である。」
一同は頷いたり敬礼したり、一様に同意した様子だ。
「一応言っておきますが、魔王が生きているという下りから、この後の話まで証明を求められても出来かねますよ。そういう話だと思ってお聞き頂きたい。もっとも、魔王の頭部はあの袋から出して数日経てば、元の切り口より多少大きくなって、再生しているのがわかると思いますが。
しかし今完全に再生するのに3ヶ月と言いましたが、心臓が再生しさえすれば手足なんか無くとも動き出せるでしょうから、実質2ヶ月も放置させたら取り返しがつかなくなるので、やめた方が良いと思いますね。ところで、魔王が死んでから2ヶ月過ぎましたね。」
背筋がゾッとする。
ルーシーが言うことが本当なら、何も手段を講じなければ今まさに魔王が再生していたというのか。
やや最初の口調から随分砕けた態度で話だしているが、この場でルーシーに何かを言える人間はいないだろう。
一体君は何者なんだ?
なぜそんなことを知っている?
最初メイドの服を着ていた事から、他に魔王の城に捕まっていた女達の一人だと思っていたが、本当にそうなのか?
あの後捕まっていた他の女達に聞いたが、金髪の長い髪の女は居ないと言っていなかったか?
記憶を辿る。
いや、言ってはいない。首を横に振っただけだ。
今現在いないというだけなのか、そもそもそんな人は存在しないという事なのかはわからない。
ルーシーの投げた爆弾の威力が大きすぎて、最初の俺の褒美の話が文字通り吹っ飛んでしまった。
なぜ俺はここに座っているのか途中から忘れてしまっていたほどだ。
「国王陛下。わたくしは先程、褒美をもらうつもりはないと言いましたが、もし、功績をお認下さるなら、お願いが2つ程あります。」
ルーシーはまだ続ける。
俺を含めここにいる者全員が、彼女が次に何を言い出すのか、固唾を飲んで見守っている。
「なんだ。申してみよ。」
「そこに居られる大神官の娘。フラウを我々のパーティーに加えさせて頂きたい。勿論本人の承諾が得られればですが。」
突然名前を出された大神官は非常に狼狽えた。
皆の注目が集まる。
今朝がた伝令に来たあの子を俺達のパーティーに加えるだって?
そう言えばヒーラーとして立ち回れるかと質問していたが、そういう事だったのか。
しかし、何故?
「どうだ、大神官。」
国王が聞く。
「我々神官が冒険者の共になるなどとは、聞いたことがありません。」
「ですがまだ見習いであらせられる。」
ルーシーがすかさず突っ込む。
「う、む。やはり本人の承諾が無ければ何も言えません。」
「では、後に二人で相談していただこう。これで良いかな?」
「結構です。一応、冒険者である以上、身の危険はあると、認識した上での判断をお願いします。」
苦いものを噛み潰したような、渋い顔をする大神官。
「そして、2つ目の願いとは?」
「はい。この国は大陸中の情報が集まっております。各国の事件事故。不思議な現象。機密に関するもの。」
「それはわたしの立場からは何とも言えんが。それがなにかな?」
「我々にそういった情報を自由に見させて頂きたい。」
ざわつく城内。流石に国の機密に関するもの物まで見せろと言うのは過ぎた願いである。
「私が見たいのは事件事故、不思議な現象の部分ですので、ご安心を。」
「全部というわけにはいかないが、そのくらいの一部の情報と言うなら叶えられんでもないが、いったい何のために必要なのだ?」
「流石に冒険者といえど、歩いて回れる距離はたかが知れてます。大陸中の情報を得るにはこのアルビオンの情報網は必須。私はそういった情報の中から、少なくとも7人いる魔王の娘達の動向を読み取りたいのです。」
さらに静まり返る城内。
唖然としてルーシーを眺める。
何を言ったのか判断するのに時間がかかる。
娘?魔王の娘?
ルーシー、君はいったいいくつの爆弾を投げ込めば気が済むのか。
「魔王の娘達が今どこにいるのか。何をしているのか。魔王亡き今、その玉座を虎視眈々と狙っているのか。人に成り済まし平穏に生きているのか。それが私の知りたいことです。」
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