第4話 ラブコメ成立クラブよ
昨日、なんとなく友達ができた。
吉村 仁。人気アニメ、ヒロガイルのオタクだ。陰キャ寄りの彼だが、ものすごく……話すのが楽しかった……のである。
「ね? いい人だったでしょ!」
「まぁ、う〜ん……」
「どうしたの?」
「いや俺さ、オタクに嫌悪感抱いてたからな〜……すげぇ良い奴で申し訳ねーっていうか」
断片的なイメージで、オタクという存在を嫌っていた。
そんな俺には、内面を見る力がなかったんだなと、自分のエゴさに思わされてしまっていた。
「人は内面だよ。それに気づけたんだからさ、結果オーライさ!」
「……ギャハハ! それもそーだな!!」
少し元気づけられた気がした今日だった。
すると、姫那の制服が変わっていることに気づいた。
「そーいや制服、女子のじゃねーか」
「う、うん……昨日君が言ってたじゃないか、少しずつ見た目を変えていけば自然だって」
「あぁ、でもなんか……変な感じだな。おめーが男子の着てねーの」
そう、昨日俺はある提案を姫那にした。
髪を切っても、数日経てばみんな慣れるだろ? その原理を使って徐々に見た目を変えてみよーぜ、って。
だが、やはり違和感が……。
「まぁ、そのうち慣れるさ! っと、そろそろ校門に着くから、宇治乃くん下ろすね」
「へいへーい……あれ、2ケツ登校が自然になってね?」
するとすかさず、姫那のファンがドサーっとやってきた。
悔しいが、俺は独りで校門へ向かっ――
「「宇治乃様ー!! お待ちしておりました!」」
「あ、えぇ? んだよこれ」
「「宇治乃様にレッドカーペットをご用意しました! どうぞお渡り下さい!」」
俺の前に現れたのは、宇治乃LOVEと書かれたTシャツを着る、男の軍団だった。
そしてレッドカーペットの横には、たくさんの花が置かれていた。
「まてまて、急になんで!?」
「「宇治乃様〜!! ははぁ〜!」」
あ、なんかいい気分だな。
恐らくタイムラグで俺のファンクラブが出来たのか……だけど、女の子が良かった……。
「……えっとなぁ。ホームルームを始めるが、宇治乃、
「え〜? 俺ぁ知らねーよ、カンケーねぇ!!」
「彼女らにも悪気はないんです!」
「確かにな……」
「おぉ〜、分かってくれましたか〜」
「あ、ありがとうござ――
「お前ら放課後、補習な」
俺ら2人は補習が決定したようだ。
まじで俺らのせいじゃねぇのによぉ……。
すると
「よし。今日のホームルームはな、部活動紹介を見てもらう」
「は〜い、せんせー」
「……なんだよ宇治乃」
「おれ部活入んないんで寝てていいっすか?」
するとビュンッ!と俺の横を何かが通り過ぎた。後ろを振り向くと……壁にチョークが突き刺さっていた。
「……ぜ、全然見ます……」
「よかった……あと舌出すな」
テレビには、様々な部活動の紹介動画が流れた。バスケ部、サッカー部、野球部、吹奏楽部、生徒同行特別相談部……はぁ!?
「な、なぁカシラ!」
「どうした?」
「この部の部長……俺ん幼馴染!!」
「え、えぇ。こんなかわいい子が?」
そう、生徒同行特別相談部……とかいう変な部活の部長は、俺の幼馴染の滝沢 レオンなのだ。
清楚な見た目で昔からモテるが、俺はアイツの裏を知っている……まともな女じゃないのを知っている……。
「飯食おうぜ、東寺!」
「おぉ……吉村ー! おめーも飯食おうぜ!」
「え、吉村?」
俺は、独りで弁当箱を開けていた吉村を呼んだ。すると吉村は、嬉しそうな顔でこっちに来た。
「東寺くんありがとね? またまたヒロガイルの話するんだけどさ、八条隊長が捕まって骨峰くんが――
「吉村くん、ヒロガイル好きなの!?」
「……え、あっうん。か、かしらくんも好きなの……?」
「おう! 漫画全巻持ってるぜ!」
なんだ、カシラもヒロガイル見てるのか。
じゃあ、吉村とも趣味合いそうだな!
「カシラ〜、てめーもヒロガイル好きとか知らなかったぜ?」
「いや俺大ファンだよ〜?」
「か、かしらくんは……誰が好きなの……?」
「俺は、やっぱりソードマンかな!」
なんだか楽しそうに話している2人を見ると、こっちまで楽しくなる。
良かった、吉村とダチになって。
「「宇治乃様〜!!」」
教室の前にいるコイツらは、最悪だが。
弁当の時間でも男の軍団がやってくる。
しかも姫那の軍団と睨み合っている。
「……東寺、ファンクラブ出来ちまったなw」
「なんで急に〜?」
「なんか昨日王子と緑那が広めたらしいぜ、お前が友達欲しがってるってな」
だから急にファンクラブが……。
友達が欲しーっていうのが広まったせいで、俺への警戒心が無くなった代わりに爆発的にファンクラブが出来ちまったってことか。
「み、みんな宇治乃くんと友達になりたいんだよ!」
「ありゃあ俺のオタクだ……だが、俺ぁまだ姫ってーアイツらに言われてねぇ」
「東寺それ言われんの嫌いだもんなー」
「俺の気持ちを踏まえた上で、ファンクラブやってんだ……オタクも悪くねーんだな」
以前とは違う、新しい環境に戸惑いつつも……人の中身についても考えられるようになったのかもしれない……。
キーンコーンカーンコーン
その後、特に何もなく学校が終わった。
早速俺らは帰る準備をしていた。
「よーし、カシラと吉村帰ろーぜぇ〜!」
「おっけー」
「え……うん!」
すると、トントンと後ろから肩を叩かれた。
何か……デジャヴを感じる……。
振り向くと、そこにはミドナがいた。
「お、おぉ〜! 針先かと思ったぜ!」
「宇治乃、お前補習あるだろーが」
「……へ?」
忘れてたああ!!
まじで行きたくねぇ〜!
べ、別にサボってもバレないよな??
「いやいや〜、俺ぁさぼるぜ」
「いやいや〜、姫那もう行ったし、お前も行けよ」
「ん〜……あっ! ミドナが今度デートしてくれるってんなら行くぜ――
「じゃあねー宇治乃ー」
ミドナはそそくさと教室から逃げて行った。ものすごく悔しいが、まぁ……なんとか帰れる。
「よーし! 帰ろーぜ!」
「あ? どこに帰るんだ? 宇治乃?」
「……ひぇ……針先……」
俺は結局、補習をさせられることになった。
補習する教室は、3年の多目的室だ。
ガララ、とドアを開けると、そこには姫那とレオンがい……レオンがいる!?
「や、やっと来たか、宇治乃く――
「なんでレオンがいんだよ!?」
「あらら、お姫様の東寺くんじゃないかしら? もしかして貴方も補習かしら」
清楚で黒髪ロング、大きな目と……大きなおっぱいでモテモテな高校3年生、滝沢 レオン。
まさかのこいつが、なぜ。
「え、カレン先輩……宇治乃くんとお友達ですか?」
「えぇ、小学校の頃仲が良くてね。歳は違うけども、幼馴染というものね」
「てめー……なんでこの教室いんだよぉ?」
「なんで? と言われてもね、生徒同行特別相談部は、この教室だもの」
えーと、はい。
つまりなんの仕事もない部活の部室を、補習の教室に使いやがったんですね、針先が。
「あぁ〜くそ……」
「あ、あはは。仲が良さそうですね〜」
「えぇ、とってもいいわ」
「とっても良くねぇわ……」
親同士の仲がいいこともあり、小学校の頃はよく遊んでいた。が、ある日喧嘩をして、それっきり合わなくなっていた。
しかし現在、アホな神のイタズラにより、偶然出会ってしまったのだ……。
「そもそもなんで、生徒なんとか部なんてやってんだよ? 誰も入んねぇだろ」
「いいえ? 入部者は4人いるわ」
「やっぱ全然いねぇじゃね〜か!」
「いえいえ、応募者はたくさんいたわ? その中から3人、私は厳選したのよ」
はぁ〜?
そんな意味の分かんねぇ部活に応募するやつなんて……いやいるな。
こんなボインボインの部長だもんな、いっぱいいるわ。
「……意味わかんねぇけど、まぁすげぇんだな」
「えぇすごいわ、この部活はたくさんの人を助けているのよ?」
「そうなんですか!? 是非お話を聞きたいです!」
「ふふ、いいわ姫那さん。私たちの部活はね……54組のカップルを成立させてるのよ」
「へ〜! それはすごい……え?」
え?
俺の頭と、恐らく姫那の頭はその2文字で埋まっただろう。54組のカップル? なんの関係があんだ?
「は? 何言ってんだてめー?」
「あら、そういえば入ってきたばっかですものね。知らないのも当然ね」
「だから何言ってんだ? この部活一体何やってんだよ」
「この部活はね、恋愛のできない男女を、カップリングする部活よ」
「……す、すみません。未だに意味が……」
「そうね、この部活には別名があるの。表上では生徒同行特別相談部……しかし本当の名前があるの」
「はぁ!? じゃあなんて名前なんだよ?」
レオンは姿勢を正し、斜め上を向いた。
そして一息し、こちらに目線を合わせ、こう言い放った……。
「ラブコメ成立クラブよ」
「え?」
俺の頭と姫那の頭はその2文字で埋まった。
姫♂と王子♀のラブコメなんて成立しない!〜学校1カワイイ男と、学校1カッコイイ女の恋愛事情〜 でんじ @denji_777
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