第2話 同盟組もーぜ!

 いつもの帰り道……ではない。

 針先はりせんに住所の紙渡されたけど、絶対ここだよな。

 キラキラとした白い壁に、高級感を感じさせるレンガの造り……って違う違う。


いおりって書いてるし、この家か」


 ピンポーン

 インターホンを鳴らすと、ダッダッダッと2階から降りてくる音がする。

 そしてガチャっと扉が開けられた――


「……え、宇治乃くん!?」

「……え、誰!?」

 俺の名前を呼んだのは、確かにエセ王子だった。だが胸元を見ると、おかしい。

 すごい……膨らんでいる。

「な、なんで宇治乃くんが来たの!?」

「いやいやファイル届けにだけど……お前誰だよ!!」

「え、なんで……ってあっ」


 自分の胸元を確認したエセ王子は、顔を赤くして腕で胸を隠した。

 そして泣きながら2階へ戻って行った。

「……おっぱい……おっぱい……」

「家の前でおっぱいって言わないでー!」

 2階から遠距離で怒られた。

 するとまたもやダッダッダッと降りてくる。そしてある事に気づいた。

「お、おっぱい消えた!?」

「元々なかったのだよ! 僕は王子だからね!」

「いや無理あんだろ」

「で、ですよねー……」


 なんだ? 学校とはまるっきりオーラが違う。学校ではまんま王子様ってオーラだったのに、今完全にフツーの女じゃねーか。

「お前色々と意味わかんねぇけど、早く帰りてぇからじゃーな」

「え」

 俺はファイルを手渡し、即チャリンコに乗っかった。

 その瞬間、ギュッと制服が引っ張られた。


「う、宇治乃くん……」

「んだよ、巨乳がコンプレックスなんだろ? 誰にも言わねーから――


「公園でちょっと話そう!」

 ……は?

 唐突の提案に、舌が出てしまった。

 絶対やだね、コイツと一緒にいることがストレスなのに。

 でも……なんか、ほっとけねぇのが俺だ。




「とりあえずー、ブランコ座るか」

「ごめんね、忙しいのに付き合わせちゃって」

「……お前なんか、プラベだと超女だな」

「え!?」

 エセ王子はとっさに胸を隠し、俺を睨んできた。いやそういうことじゃねぇよ! 襲う気ねぇからな!?


「んー……で、話ってなんだよ?」

「いやあの、どうやったら男らしくなれるのか教えて欲しくて」

「あ〜?」

 教室の時と同じだ。

 こいつは男になりたいのか?

 にしてはなんだか……。


「私は王子様になりたい! どこを直せば完璧に王子様になれるかな!?」

「いやなんで俺に聞くんだよ?」

「いやだって、君は……見た目はものすごく可愛くて、お人形さんみたいなのに」

「お前喧嘩売ってん――


「すごく、男らしいじゃないか」


 その言葉に、俺はつい黙ってしまった。

 初めてかもしれない、誰かにそんなことを言われたのは。

「お……おう」

「なんで舌出してるの?」

「がー!? く、癖だっての!」

「ははは!」

 こんな風に笑うのか、とつい思ってしまった。そのエセ王子の顔は、学校とは違い、すごく美人だった。

「そーいや、女だもんな」

「え、え!?」


「よし、エセ王子! 俺が男らしくなる方法を教えてやるぜ」

「や、やったー! ……って、エセ王子!?」

「おう、てめーはエセ王子だ」

「それは勘弁してくれ……ひ、姫那ひなと呼んでくれ……」

 早速、クールな男になるための訓練を始めた。男に必要なのは度胸! 度胸を鍛えてやろう!!

「スケボー乗ったことあるか?」

「乗ったことないです!」

「よし、男はスケボー乗ってこそクールだ!!」


 俺はチャリの横にくっ付けてあるスケボーを取り、姫那に乗らせてみようとした。

「コツは教えてやっから、乗ってみろよ」

「う、うん!」

「そーそー。でそのまま……地面を蹴って進め!!」

「おりゃああ!」


 ギュイイイイイン!!

 姫那は超スピードで公園を一周して帰ってきた。

「お、おお……つ、次はオーリー!」

「はい!」

「弾いて擦って三角形!!」

「おりゃああ!」

 カッ、スルッ、ガコッ!

 めちゃくちゃ綺麗に飛んだ。

 まずい……こいつ運動神経バケモンだ。


「んー……次は……キックフリップ……」

「おりゃああ!!」




 ダメだこいつ、なんでも出来るかもしれない。そうして俺らはまたブランコへ戻った。

「一瞬でスケボー出来んなら、もうできないもんないぜ」

「そうかな?」

「……じゃあこのブランコの最高到達点から、ジャンプしよーぜ。完全に度胸試しだけどなー」

「やってみよ!」


 ギーコ、ギーコ、ギーコとブランコを漕いだ。そろそろかな……超高いところに来た、そこで俺はスーパージャンプを決めた。


「とらっ!!」

 ダッ!

 無地着地した。

 姫那の方は……めっちゃ高い。

「そ、そろそろ行くよー!」

「おう、飛んでみろ」

「おりゃああ!」

 姫那は飛んだ――

 その姿はまるで、白鳥のように綺麗だった……。

 ってあれ、なんかバランスが崩れて行って。


「あ!? う、宇治乃くん!!」

 その声に、俺は瞬発的に体が動いた。

 姫那の落ちてくるところにめがけ、スライディングした。

 そして……キャッチ!!

 ザザザと砂を削った。

「おい、大丈夫か?」

「ご、ごめんよ宇治乃くん」

「んだよ急にバランス崩して……」


 俺がそう言うと、姫那は顔を赤くさせ、恥ずかしそうにこう言った。

「む、胸を小さく見せるブラを付けていて……飛ぶ時に急に胸が締められちゃって……はは」

 苦笑いをし、姫那はそう言った。

 だが、俺はさすがに耐えきれず、つい聞いてしまった……。


「お前、無理して王子やってんだろ?」


 俺がそう言うと、姫那はハッと顔を変えた。恐らく、図星だったんだろーか。

「な、なんでだい……?」

「ずっと気になってたよ……お前焦ったり俺の前だと、私って言ってるだろ? 女の自分を無理やり隠してんじゃねーのか?」

「そ、それは違くて……」


「しかも付けたくもねぇよーなブラ付けてるじゃねぇか。お前は王子になりたいのか?」

「わ、私は……私が王子になったらみんなが幸せだと思うから――


「お前は、王子になりたいのか?」


 俺が問いただすと、姫那は涙を浮かべた。

 段々と震え始め、ズズズと鼻を吸う。

 そんな姫那を、俺はベンチまで運んだ……。




「1回、私の話をするね」

「おうよ」


 私は小学校の頃からずっと王子様って呼ばれていた。私はそれが嫌だったから、ずっと女の子らしいことをして、女の子として見られたかったんだ。


 おままごととか、ピアノを弾いたりとか……それで小学校6年生の時に、とある女の子に告白されて、私は女の子を恋愛として見れなかったから、もし私が男子だったら付き合ってたよ!と言ってしまった。


 そしたらその子に、姫那ちゃんが男の子だったら私もみんなも幸せだったのに! と言われて、私は不幸を運んでしまったんだ……と心に傷が残ってしまったんだ。


 その日から私は、みんなが求めるような王子様になる為、髪を短くして、胸を隠して、王子様として生活していたんだよね……。



「ってそういうわけ! おかしいよね、私」

「あぁおかしい、そんなクソな周りのやつらなんてよぉ、ボコボコにしちまえって!」

 そう言うと、姫那はこっちを向き、はははと笑いだした。

 こんなこと言われたのは、初めてだったのだろう。俺もさっきそんな顔してたのかな。


「確かに、宇治乃君くらいのメンタルがあればボコボコにしてたね!」

「そーそー、俺を見習うべし」

「はは、じゃあ君の話も聞いていいかな?」

「俺〜? まじで何もねぇよ?」

「いいよいいよ!」


 ん〜……。

 俺ずっとお姫様って呼ばれてて、ムカついたから全員ボコしたら、中学では1回も言われなくなったな。


「うん、ありがと」

 姫那はそっと俺に肩を寄せ、ニコーっとした笑顔を見せてきた。

 周りからは王子様にしか見えないこいつの秘密……それは、俺しか知らないんだよな。


「やっぱ、女だもんな」

「さ、さっきからなんだよ〜」

「ちょ〜とだぜ? ちょ〜っと……可愛く見えるってだけだ。たったそんだけ」

 すると照れくさそうに、姫那は顔を隠した。なんだか、友達になれた感じがして、少し嬉しかった。

「私、本当は女の子として見られたい! 王子様は嫌だ!」

「王子様キャラなんてやんなくていーだろ、明日から女の子として生活しろよ」

「うん! 明日から頑張ってみる!!」


 この王子の秘密、それは女として見られたい、と言うこと。

 逆に俺は、男として見られたい。

 やっぱり悔しいが、結構接点があったな……。

「俺ん目標は、男に見られることだ! お前の目標はなんだ?」

「わ、私は……女の子に見られること……かな?」

「……ギャハハ、いい事思いついた……」



 ――同盟組もーぜ!



 黒髪のセンターパート、色白でキリッとした目に綺麗な二重。高い鼻と高身長も相まってか、姫那は昔から 王子様 と呼ばれている。

 女だが男に見られる。姫那の目標は……。


 周りから女として見られること、だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る