姫♂と王子♀のラブコメなんて成立しない!〜学校1カワイイ男と、学校1カッコイイ女の恋愛事情〜

でんじ

第1話 なんだそれ、ラブコメかよ

 絵本に出てくるような、お姫様、王子様に憧れていた。俺達もなろうな! そう約束した覚えが幼稚園の頃にある。

 そして現在、その夢は見事叶った。


 お姫様として、だが。





 白華高等学校、美男美女の多い高校として有名だ。まぁまぁ頭は良いが、俺は面食いなので、猛勉強してこの学校へ辿り着いた。


 だが、それにしても大きいな。

 設備も綺麗だし、何より通学路に美少女がいっぱいいる! 

 この学校で彼女作れっかな……


「ねぇ、金髪の君!」

「……?」

 振り向くと、明らかに俺より背の高い、青髪短髪のちゃらそうなやつがいた。

 こういう類の人間は嫌いなので、とりあえずガン無視を決め込むことにした。


「俺2年の峰岸 涼太っていうんだけど、君1年だよね?」

「……」

「かわいいね! 名前なんて言うの?」

「……」

 俺が無視を決め込んでいると、後ろから殺気立ったオーラがやってきた。

 先輩は怒りを押し殺すように、また質問をしてくる。

「リ、リンスタとかやってる……?」

「……」

「なぁ……少しくらい……」

 雲行きが怪しくなってきた。

 ま、不味い。喧嘩になるかもしれない。


「……あの――


「少しくれぇ喋れやァァ!!」


 俺の視界には、ゴツゴツとした拳が見えた。鬼のようなスピードで殺意満々だった。

 だが、俺はその拳を避け、ガシッと掴んだ。

「うおっ!?」

 そのまま強くひっぱると、先輩は思いっきりよれた。

 顔が真後ろにきたところで、左足で後ろ蹴りをし、顔面ヒット。

 顎に当たったのか、相手がぶっ倒れてKOだ。


 チリーン、チリーン!!


 審判のベルが鳴った。

 するとグイっと肩を掴まれた。

 振り向くと、チャリに乗ったいかにも鬼瓦って感じの先生がいた。

「あっ……チャリのベルん音でしたね……」

「お前ら、まじで職員室来い」


「「強すぎだろあの女!?」」

 周りの野次馬が一斉にそう叫んだ。

 そこで俺はパンチラインをかましてやった。


「俺ぁ、男だ!!」

 周りがザワついた。

 金髪ウルフ、色白で長いまつ毛に大きな涙袋。くっきりした鼻筋とピンクの唇も相まってか、俺は昔から お姫様 と呼ばれている。

 男だが女に見られる、俺の目標は――


 周りから男として見られること、だ。




 やっと説教が終わった。(峰岸は保健室)

 せっかくの入学初日なのに、ホームルームに遅れてしまう。

 友達作ろう! そう意気込んで俺は扉を開けた。そして瞬間に察した。

 先輩ぼこした奴だ、関わらんとこ〜 って思ってそう……。


 ((先輩ぼこした奴だ、関わらんとこ〜))


 気まづい空気の中、俺は引き攣った笑みを浮かべて挨拶をした。

「お、おはぁ……クシュッ!!」

「「かわいい!!」」

 すると黒板側の扉が、ガララと開かれた。

 そこには先程の顔面鬼教師がいた。

「座れ〜ホームルームやるぞ」

「先生、僕の隣の いおり さんがいません」

「問題児じゃん!」

「宇治乃は早く座れ!!」


 俺は1番後ろの左列の席に座った。

 すると気づく、前の席が空いていることに。

 つまりはこの席が庵ってやつのか。

「庵は頭痛で遅れるらしい。とりあえず新クラスだし、出席代わりにあいさつしてってくれ。1番!」

「はい! えーと青木です!」

 あいさつが始まった。今のところ俺の印象は超最悪だと思うから、あいさつで巻き返さなくちゃならない。なんだろう……アニメの話?いやー、オタクとか嫌いだからしなくていっか。


「はいありがとねー。じゃあ……5番」

「はーい。えっと」

「ど、どうした宇治乃。なんでお前舌出してんだ?」

「へ?」

 やべぇ! 無意識に舌が出ていた。

 は、恥ずかしい〜!!

「さ、さーせん。緊張したり焦ったりすると舌出るクセあるんすよー」

「おう……舌出しながら言うなよ」

「えーと、宇治乃 東寺っす。ラップが好きです、見ての通りっす。なんてね、はは……あと俺男っす」


 すると一気に周りの反応が変わった。

 キラキラ輝いていた目は一気に困惑の形に変わっていた。

「え……あれで男子なの!? 今まで見た中で1番かわいいのに!?」

「い、今思ったら声男じゃん!? ハスキーで納得してたわ!!」

「恋が終わったああああ」


「お前ら静かにしろ!!(あれ……男だったんだ……)」

 流石の周りの反応に、思わずムカついてしまった。そしてバン!と机を叩き、こう言ってやった。

「男で悪ぃーか!? 一応言っとくけどウルフなのは、伸ばしてドレッドにしたいからで女装じゃねぇからな! あと制服男のだろ! 見りゃわかるっつーの!」

 そう吐き捨てて、ガタンッと椅子に座った。そして腕に顔を埋めた。


 何やってんだよ俺ええええ!! ピキっちゃうと絶対やっちゃうんだよ〜! あー終わった! 友達出来ない〜!!



 こうして1時間目が終わった。

 誰も話なんてかけに来ねぇよな……あんなの聞いてどんな物好きがこんなやつに――

「なぁ! 俺、かしらセイドウっていうんだけどさ、ダチ! なろーぜ!」

「……あ?」

 ニヤニヤしながら話しかけてきたのは、斜め隣の席のセイドウと言うやつらしい。赤髪で、短髪の男だ。


 そうか、物好きもいるもんだな。


 キーンコーンカーンコーン


 特に勉強もせず、遊びで4時間目まで終わった。さぁーて飯だ、岸田と中村……。

 あっ、岸田と中村いないじゃん。


「あぁ〜くそ! 飯食うダチがいねぇ〜!」

 周りに話しかけようと思ったが、なんだか皆、俺の事を怖がっている。

 それもそうか、先輩ぼこって、ホームルームで叫んだやつだもんな。

 ……いやまて、アイツがいるな。

「なー、カシラ」

「え? どうした?」

「えーとだな、うーん。飯食わね?」

「おぉ、いいよいいよ! 食お!」


 話しかけて良かった! カシラはフッ軽だな! 弁当を鞄から取りだし、机に置いた。

 パカッと開けると、エビチリに炒飯に竜田揚げが入っていた。

「東寺の弁当チョー中華じゃん! しかも謎の竜田揚げおもろw」

「竜田揚げだいすきなんだよ〜コッテリしてて全然女子じゃねぇだろ! ちなみに俺作!」

「まって……そのべーって顔、めちゃくちゃかわいかった……」

 俺はカシラの弁当からキウイを奪った。

 するとカシラがハッ!としたように話をしだした。


「そういえばさー、この学校に俺らとタメで、超絶イケメンが入ってくるらしいぜ」

「まじ〜? じゃあもうこの学校いんのかな」

「それはまだ分かんないけど……昼休みさ、顔見に行く??」

 まさかの神提案に俺はフッと笑い、突き出されたカシラの指を掴んだ。

 少し照れていた。


「あぁ、締めに行くか!」

「宇治乃さん!?」

 弁当を食い終わり、俺達は廊下へ駆け出た。俺はイケメン嫌いだから、かわいい子を取られる前に締めに行くつもりだ。

「ちなみにそいつの名前ってなんだ?」

「えーと、姫那ひなって名前だった気がする!」

「女みてーな名前だな! 一クラスずつ回ってくぞ」


 1組、大声で聞いてみるが、いないとの事。

 妙に男達の顔が赤かったのは気のせいか…?

 2組、また大声で聞いてみるが、知らないと一言。何故か女子達が俺の事を危険視していたが……。

 4組、今度は誰かにひっそり聞くが、一気にこちらに注目がいき、リンスタの交換を一斉に求められる。



「はぁ……いねぇじゃんか」

「てか東寺、もしいるなら一目で分かるくね? 聞かなくて良かったよな?」

「お前、今言うなよばか」

 俺らが階段でため息をついていると、なんだかザワザワと聞こえてくる。

 なんだなんだと廊下の窓際へ向かうと、全員がとある超絶美青年を見ていた。

「もしかして……アイツか?」

「ああ、絶対そうだ」


 センター分けでサラサラな黒髪、キリッとした目に綺麗な鼻筋。

 窓越しでも分かる、ありゃ誰でも惚れる。

 あんな絵に書いたような王子様な男いるか?

「ありゃーまじの王子様だぜ」

「おう、お前が来た時と全く同じだ」

「は!? 俺の時もこんなんだったの!?」

「そうそう、みんな絵に書いたようなお姫様って言ってたよ」


 なんか……アイツと接点を感じてしまった。

 すると王子が玄関に着き、みんながザザっと1階へ向かった。

 俺より男前か、見極めてやろう!

「おはよ、女の子達」

「お、王子様だわ〜……」

「みんな僕のこと迎えに来てくれたんだね!」

「当たり前ですわぁ〜!!」


 なんだそれ、ラブコメかよ。

 くそ、間近で見ると……でけぇ……。

 180cmくらいか?俺と20cmも差あるのかよ!!

 てか待て、俺とカシラ以外周り全員女じゃねぇか!さすがにカッケーとこ見せねぇと。

「お嬢さん達も美しいよ――


「おいおいこらこら王子とやらよぉー!」


 俺が喧嘩を売りに行くと、王子は下民を見るかのように俺を見下しやがった。

「何よアンタ! ちょっと美少女だからって調子乗るんじゃないわよ!」

「っるせー! 俺ぁこいつと勝負するんだ!」

「ど、どうしたんだい? 僕に何か用でも?」

「テメェー! ちょ〜っと美青年だからって調子乗んじゃねぇぞ!」


 俺は見下すような目を跳ね返し、上を向き睨み返してやった。

 そしてこうかましてやった。

「俺がホントの男らしさってーのを教えてやっよ!!」

「……君……」

 男らしい俺に、さすがに怯んだらしい。

 ぼーっとした顔してやがる。

 おいおい、全然言葉が出て来てないぜ!

「んだよ!」

「……なんで舌出してるの?」

「ひゃあ?」


「「ハハハハハハ!!」」


 またクセで舌が出ていた!!

 めちゃくちゃ笑われてますけど!?思いっきり喧嘩売ったのに、思いっきり笑われた……。

「そもそも、君女の子だろ? どうやって男らしさを教えるんだい」

「あ〜? 俺ぁ女じゃねぇ、男だわ!」

「へ?」

 俺がそう言うと、へ?とマヌケな顔を浮かべた。ギャハハ!調子乗ってた王子様が今じゃこの通りだな!

 丁度昼休みも終わりそうなので、俺はカシラを引っ張って教室へ戻った。別に逃げてないからな。


「ハハ! ぶちかましたよ! どーだった?」

「……俺さ、ずっとお前の痛い発言聞きながら笑ってたよwww」

 俺はカシラの腹をパンチした。

 するとガラララ、扉が開かれた。

 黒板の方を向くと、鬼教師と……さっきの王子がいた!?

 周りが一気にざわつき始めた

「みんな静かに、遅刻で生徒が1人来ました」

「どうも、今日から3組へ仲間入りします!」

「軽く自己紹介も頼む」

「はい、僕は庵 姫那です。好きなことは……りょ、料理です! よろしくお願いします!」

「「キャーー!!」」


 嘘だろ……こいつが同じクラスだと!?

 全然俺の時と反応違うじゃねぇか!まじで完璧の王子――

「ちなみに、僕は女の子です!」


 ……は?

 また周りがざわめき出した。

 しかもこいつ、女なのか!?

 こんなどっからどう見ても美形のイケメンなのにか!?

「はいはいみんな静かにー(あれ……女だったんだ……)」

「でも、僕は王子と呼んでもらっても大丈夫だよ!」

「だ、だそうだ。じゃあ席に座ってくれ」

 待て……ということは、俺女に喧嘩売ってたのか!? 超だっせぇ〜!!

 しかも、庵? じゃあこいつ……



「はい先生! 僕は宇治乃君と学級委員長になりたいです!」

 やっぱ俺ん席の前じゃねぇか〜!!

 でけぇし前見えね――

「なんだって?」

「いや宇治乃君、僕ら2人で学級委員長になろうよ!」

「んな事ぁ聞こえてるわ! なんで俺がそんなんやらなきゃいけねーんだよ!」

 俺は猛反対した。

 ただでさえめんどくさい仕事なのに、こいつと一緒とかまじでやってられない。

 すると王子が俺の手をガシッ!と掴んでこう言った。


「学級委員長は男女1人ずつだろう? 僕と君は似ているところがあると思うんだ!」

「いやいやいや!? 俺頭悪いし絶対やらねぇからな! しかもこれ挙手制だろ!?」


「いや宇治乃、学級委員長は推薦で決まる。庵は宇治乃を推薦したから、みんなの異議がなければ、庵と宇治乃が学級委員長になる」


 鬼教師の発言に思わずべ〜っと舌を出してしまった。だが周りが異議を申し立てれば俺は省かれる、よしお前ら! 学級委員長やりたいだろ!?

「庵と宇治乃で異議あるやついるか〜?」

「「異議な〜し」」


 お父さん、お母さん。

 俺から選んだこの学校ですが、初日からもうクラスの終わりが見えてきました。

 異議しかねぇです。


「じゃあ学級委員長は、庵と宇治乃で決まりだ。今日は放課後残って掃除の当番表書いといてくれ」

「はい!」

「……ぐぐ」




 キーンコーンカーンコーン


 5限が終わり、下校の時間となった。

 俺も帰りたい所だが、このエセ王子と仕事を終わらせなければいけない。

 今更だけど、まじでなんでだよ。

「宇治乃〜! なんで学級委員長なんかに……」

「カシラ、てめーも異議なしって言ってただろーが」

「バレたかw」


 俺はカシラのケツをキックした。

 カシラはすたこらと教室を出て行った。

 ……そしてシーンとした教室の中、いるのは俺とエセ王子だけ。

「宇治乃くん、君はこっちの所埋めといてくれるかな?」

「あ〜? 指示すんな! てめー俺を推薦してやり返したつもりかよ!」

「え? いやいや、そんなつもりは」

 俺はガシッと髪をかきあげ、目の前のエセ王子へと顔を向けた。

「じゃあなんで俺を推薦したんだ――

「……」


 ハッ!?と俺は一瞬で気づいた。

 普通の空気感じゃない、なんだこれ。なんでこいつ顔赤くしてんだ……まるで告白する時みたいな雰囲気。

 嘘だろ!? まさか

「う、宇治乃くん!!」

「へ!?」


俺は覚悟を決めた――


「僕に男らしさを教えてくれ!!」


 なんですと? 何言ってんの? てかなんでモジモジしてんの? 雰囲気完全に告白だったろ……。

 ってなに俺も期待しちゃってんの!

「いやいや……は? どゆこと?」

「あの、やっぱ……私帰る!!」

「ちょっ」

 ザザー! っとエセ王子は教室を飛び出して行った。あれ、そういえばアイツ「私」って言ってたか?

 にしても何だったんだあれ……。

 しかも仕事終わってなくね?

 書類に目を向けると、アイツのプリントの空白は全て埋まっていた。


「……どゆこと?」


 疑問をモヤモヤと残しながら、俺も教室を出て行った。

 するとトントン、と後ろから肩を叩かれた。

「宇治乃、仕事終わったか?」

「あ〜、なんか終わってましたぜ」

「ん? そうか」

 話しかけてきたのは鬼教師だった。

 名前の札を見ると……針山 コロシと書いてあった。普通に考えてカタギの名前じゃないね。

 まぁいっか、針山先生で針先はりせんって呼ぼーかな。

 そして針先は分厚いファイルを俺に手渡してきた。

「なんすか? これ」

「あのな、庵に渡すの忘れてたんだ」

「あ〜、1時間目いなかったすもんね」


「それでだが、宇治乃。このファイル庵の家に届けてくれないか?」

「……へ?」


 なんだそれ、ラブコメかよ……。

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