五、底へ底へ
私は水の中が苦手だ。あれは小学校の頃のプール教室で起きた事。その頃の私は泳ぐ事も水中に潜る事も出来ず、他の子達よりも授業が遅れていました。
「大きく息を吸って、鼻を指で抑えていれば大丈夫。」
先生のその指示に従い、思い切って水中に潜ってみる事に。水中に潜っていた時間はほんの5秒程の短い間だったが、潜る前に聞こえていた他の子達の楽しくも騒がしい声が消え、トンネルの中を走る車の音のような轟音が体中を駆け巡る。
息がもたなくなってきた為、水中から出ると先生が子供のようにはしゃぎながら手を叩いていた。
「出来たじゃないか!あとは潜る事に慣れれば、みんなと一緒に泳いで遊べるぞ!」
生徒の成功をあそこまで喜べる先生は今思えば、良い先生だったと思う。けど、その時の私は泳ぐ事など興味はなく、水中で聞く事が出来る轟音に興味をそそられていた。
その次の日、その日は遊ぶ事を優先して、生徒達が自由に泳いだり潜ったりする日だった。他の子達は泳ぎの練習や競争、中にはビート板を使って水に浮かんでいた子もいた。
そんな中、私はひたすら水中に潜ってあの轟音を永遠と聞き続けていた。潜る事が出来たとはいえ、未だ水中で目を開ける事が出来ず、視界は暗闇に包まれ、聞こえる轟音以外何も分からない。
すると、足の方に誰かの手の感触があった。友達のイタズラか?目を開けずにいる私を驚かそうとしているのだろう。もちろん驚いた私はすぐに水中から出ようと浮かぼうとした。
しかし、浮かぼうとすればするほど、足を掴む手は底へ底へと引きずり込んでくる。子供とはいえ、いくらなんでもイタズラの範囲を超えている!そう思っていた私でしたが、だんだんと息苦しくなってしまい、我慢できずに口、そして目を開いてしまった。
初めて水中で目を開けた為、視界が慣れていなかったが、視界に映ったのは友達が必死な顔をして私の体を引き上げようと潜ってきていた姿だった。
友達は私の体を掴んで水中から引き上げ、私は辛うじて溺れ死ぬ事無くすみました。
後日、あの時に誰が私の足を掴んでいたのか友達に聞いてみましたが、友達が言うには、あの時すでにみんなプールから出ており、たまたま水中を見た友達が溺れていた私を見つけた・・・という事らしい。
あの時、私の足を引っ張っていた手は一体誰のものだったんでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます