第3部 第15話

「うおおぉぉ!」

「うわっ、ビックリした!」

俺は叫んだ、叫んでいる。

「西原(さいばら)先生!患者さん、目覚めましたよ!」

「じゃ、じゃが傷は?あの刺し傷はどうじゃ?なあ望月君、痛みはないか?」

俺は担架に乗せられて運ばれていたようだ。

「痛み、、、?」

確か通り魔に腹を刺されて、、、

「い、痛くない、痛くないです、、、」

「そ、そんなバカな。腹を見せてみい!」

西原と呼ばれていた年寄りの医師が俺のシャツをめくる。

「き、傷が治っておる!これは、奇跡じゃ!この子は奇跡の子じゃ、、、!」


俺は大事をとって病院の一室で入院することになった。西原先生曰く、俺は自然治癒力が普通の人よりずば抜けて高いらしい。だが、その事実は公表せず、その場に居合わせた人間だけの秘密にされることとなった。それは俺の身を案じてのことだったらしい。確かにこんな特異体質、一般に公開したら悪いことを企む人間に利用されてしまうだろう。


「、、、」

「?望月さん、食べないんですか?」

食事を取らないことを若いナースに心配された。

「何か、何か大事なことを忘れているような気がするんです」

「大事なこと、ですか?もしかして犯人に関することでしょうか!」

「犯人、犯人、、、」

俺を刺した人物のことはよく覚えていない、突然刺されたわけだしな。


俺はこれからのことを考えながら、病院の中にある公園を散歩していた。保険金もほとんど使い果たしたし、生活保護で生きていくしかないか。そんなことを思いながら歩いていると、、、

「、、、ウサギ?」

近くの木の影にあるベンチに座っていた少女、初めて見るはずなのに、俺は彼女のことを知っている。ここで、俺の記憶の蓋が開く、異世界で経験した、かけがえのない日々、、、

「ウサギー!!」

「わっ、、、」

気がつくと、俺はウサギに抱きついていた。

「な、何ですか、あなた、突然!変態ですか!?」

「あ、ご、ごめん。知り合いに似てたもんで、つい、、、」

少女は俺を不審そうに覗き込む。

「私は羽崎櫻(うさきさくら)、、、あなた、どうして私の昔のあだ名を知っているんですか?『ウサギ』は私の幼少期のあだ名です。あなた、私の知り合いでしたっけ?」

「俺は望月純平(じゅんぺい)だ。お前とよく似た少女の知り合いでな。ちなみに俺は通り魔に刺されて入院中だ」

「私は一年近く意識がなくて、最近やっと目覚めたんです」

俺は決心をする。バカにされてもいい、変に思われてもいい、だが、これは伝えておきたい。

「なあ、羽崎、俺の話を聞いてくれるか?少し長くなるかもしれないが、、、」

「良いですよ、ここで会ったのも何かの縁ですし」

「じゃあ、、、これはとある少年の異世界での暮らしの物語なんだが、、、」

俺は羽崎に異世界での話の一部を聞かせる。恐る恐る彼女の表情を見ると、、、

「、、、!」

とても生き生きと、活力に満ちた顔をしていた。

「あ、あの、望月さん!そのお話、面白いです!もっと詳しく聞かせてください!」

「ああ、いいぞ!」

彼女に異世界での記憶はない様子だった。本当に他人の空似なのかも知れない。だが彼女はとても興味深そうに俺の話を聞いてくれた。

「へえ、私に似た女の子は強かったんですね!」

「ああ、化身っていう存在から力を託されたんだ。すごい奴だったぞ!」

「望月さん、なんだか本当に異世界にいた、みたいな話し方をするんですね」

「、、、そう、、、だな」

「大丈夫ですか?顔色が悪いですが、、、」

俺は自分で気づかなかった。きっと寂しいのだろう。

「き、気にするな、、、」

「櫻ー!時間よー!」

遠くで女性の声が聞こえる。

「あ、お母さんに呼ばれちゃいました。それじゃあ、行きますね」

「な、なあ、羽崎。また、、、会えるよな、、、?」

「はい!この空は繋がってますからね!」

俺たちは別れた。羽崎とはそれ以来会っていない。

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