第5話 磨いてキラキラ

 ――あ、いる。


 オリエンテーションの時間、ケイトは視界に入ったウグイス色の後ろ頭にうっかり反応してしまった。寮の食堂でロビンソンと話したせいだ。考えるとモヤモヤすることが多くてイライラしてくる。


「ケイト、大丈夫か?」

「あいつと同室で眠れなかったとか?」

「いや、気付いたら普通に寝てた」


 ケイトはひょいと眉を上げ、クリスロードとジョーニォに答えた。

 ジョーニォの猫のような目が、ケイトから離れて話題の人物を捉える。

 ジュリオンとロビンソンは目立つ存在だ。社交場に出ている貴族で彼らを知らない人はいないだろう。常にたくさんの視線が、彼らに向けられている。


「あいつらだろ。アヲイと、オトモダチのナンパ野郎」

「ロゼ・ロビンソンね」

「周りのやつら、なんで話しかけないんだ?」


 ジョーニォがもっともな事を言うと、クリスロードが肩をすくめた。


「二人のオウルが眩しすぎて近寄れないんだよ」

「なんだそりゃ。同じ貴族だろ」

「彼らは社交界の華だから」

「花って、女子のことじゃないのか?」

「今日はこれで終わりだろ。行こうぜ」


 ケイトは注目の的に背を向け、ずんずん歩いた。

 用事があると言うクリスロードと別れ、ジョーニォと昼食を共にする。

 新入部員を獲得せんと、あちこちで部活動の勧誘が行われていた。


「ケートはクラブ、入るのか?」

「居合道に入ろうと思ってる」

「ああ、お前らはちっこい頃からやってるんだっけ」

「うん。ジョーは?」

「俺は入らねえ。師匠が口いてくれた人の所でトビ仕事習うから」

「そっか」


 ケイトがジョーニォと出会えたのは、オランジュ家が依頼した建築の仕事場にジョーニォがいたからだ。


「ジョーはオウルにも興味があったんだな」


 一般人で学問所に通う人はあまりいない。ジョーニォのように、トビになりたければトビに師事する。自分がやりたい事をやっている人の所で師事し、それを仕事にして生きていくのが主なのだ。


「使いこなせたら便利だろ。特に治癒」


 ジョーニォは眉を上げ、肩をすくめた。


「まぁ、そうだな」

「俺はちょっと感覚が鋭いんだ。それで現場の兄貴たちが、筋がいいから学んで来いって」


 オウルに関する知識が一般に開放されたのは最近のこと。それまで、古い血筋の貴族が独占していた。

 オウルは誰もが身に纏っているエネルギーであり、世界を構築しているエネルギーそのものである。知識があれば誰でも使いこなせるが、知識がなければ魔法のように感じられる。

 由緒正しき貴族のみが扱える特別な力。

 オウルは長らく、人々からそのように捉えられていた。


「だけどジョー、よくここに受かったな。一般から入るの大変だって聞いたけど」

「俺だってやればできんだよ。っつか、大変って言われてるのは、貴族の推薦がないと入れねえからだ」


 ジョーニォは、「これだからお坊ちゃんは……」と言いたげな顔をする。考えを巡らせていたケイトは、気にせずヘーゼルの瞳をじっと見詰めて、言葉を紡いだ。


「オウルの感覚を磨きたいなら、趣道しゅどうのクラブに入った方がいいと思う」

「なんで」


 キョトンとしたジョーニォに小さく笑った。


「趣道……剣や体術などは、身体の使い方や精神のコントロールを学ぶためにやるんだ。それは、オウルを使いこなすことに繋がる」

「なるほどな。趣道ってのは、単なる貴族の趣味ってわけじゃねえんだな」


 ケイトはコクリと頷いた。


「それなら、俺も何かやってみようかな。せっかくここに来たんだし」


 ジョーニォはケイトの肩に腕を回してニッと笑った。


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