第9話 (4) 引き立て役にしていた

 外出は、両親とおじ様と私とニアでだった。


 異国を巡っていることがほとんどのおじ様との食事は楽しくて、ついついたくさん話し込んでいた。


 自分が子供なのも忘れてこれからの流行のことなんかも話してしまったから、おじ様に随分と関心を寄せられて焦りもしたけど、ニアが少しだけ会話に混ざってくれたのは嬉しかった。


 おじ様とニアは、よく話していた。


 おじ様と話すニアは、リラックスした様子で時々笑顔も見れた。


 だからおじ様にはこのままニアの近くにいて欲しいと思ったけど、でも、すぐにまた他国へと旅立つと聞いた。


 上手くいかないものだ。


 とてもお忙しいようで、おじ様とは慌ただしくも、外出先でお別れとなった。


 次はいつ会えるのか。


 記憶の限りでも年に一回か二回ほどで、そう言えば私が結婚してからは会っていなかった。


 それはどうしてだったのか、気にもしていなかったから理由は思い出せない。


 おじ様の見送りが終わると、屋敷に戻って私達にはドレス選びが待っていたからそのことを深く考える時間はなかった。


 何回経験しても、新しいドレスの仕立てはワクワクするものだったけど、だけど、また、そこで私は思い出した事があった。



『ニアはそんな明るい色、似合わないわ!』



 広い部屋の隅で、ニアがドレスの生地を手にしたのを見た途端に、その声が脳裏に響いたのだ。


 時間が戻る前の私は、ニアは気が弱くて明るい色に負けてしまうだろうからと、灰色とか茶色のドレスを勧めていた


 でもそれは、無意識のうちに、ニアが引き立て役になるようにって、そんなことを考えていたんだ。


 とんでもない話だ。


「ニア、ピンクのガーベラが好きでしょ?貴女にこの色似合うと思うの」


 ニアを鏡の前に立たせると、グラデーションに見えるようにピンクの生地を重ねあわせてあげた。


「こんな、可愛い色……私には似合わないよ」


 鏡に映る自分の姿から、すぐにニアは視線を逸らしてしまう。


 私が今までずっとニアの自信を奪っていたから、こんな暗い表情をさせているんだって、そのことはすぐに理解した。


「そんなことはない!とても似合っているわ!だから、俯いたらダメ。自信を持って」


 今ならわかる。


 ニアは地味なんかじゃなくて、すごく落ち着いた印象を人に与えるんだ。


 クリクリっとした緑色の瞳は今は可愛らしいけど、成長するにつれて知的で、優しげな雰囲気を見せていた。


 だから、ちゃんと顔を上げさせて、俯かないようにさせなくちゃ。


 そもそも、その原因が私にあったのだけど。


「どう?ニア、これは気に入った?それとも別のものもあわせてみる?」


 私が急いで別の生地を手に取ろうとすると、それを止めたのはニア自身だった。


「これ……これがいい」


 ニアは控えめながらも、嬉しそうに口元を緩めて言った。


 本当に気に入ったようだ。


「ちょっと!ニアにそんな上等のドレスは勿体無いわ」


 せっかくニアが嬉しそうにしていたのに、お母様が余計な口を挟んできた。


 ニアが顔を強ばらせたから焦った。


「何を言っているの、お母様!私、ニアがこれを着られないのならパーティーなんか参加しない」


「貴女こそ何を言ってるのよ、エリアナ。誕生日パーティーよ?貴女だって、いつもニアにもっと目立たない色をすすめていたじゃない」


「それは私にセンスがなかったからよ。私は日々成長しているの。もう少し大人になったら、深い緑のドレスなんかがニアには似合うと思うけど、子供の私達にはこんな感じの可愛らしい色が似合うのよ!そうでしょう?仕立て屋さん」


「はい、さすがお嬢様です。とてもよいお考えをお持ちのようで。よくお似合いです」


「ほら!仕立て屋さん、ニアにはこのデザインのこの生地でお願いね!」


「ま、まぁ、エリアナがそんなに言うなら……」


 私の勢いに押されて、お母様も渋々と承諾していた。


 またお母様が余計なことを言わない内に、自分のデザインも決めて、その日はそれで早々に解散してもらった。


 仕立て屋が帰ってから部屋にニアと二人になると、遠慮がちながらもニアに声をかけられていた。


「エリアナ……ありがとう。素敵なドレスを選んでくれて」


「うん、すごくニアに似合うと思うよ。選ぶの楽しかった。楽しみだね」


 ドレスが出来上がって、ニアの喜ぶ顔が早く見たい。


「うん……エリアナ……私の好きな花を知っていたんだね」


「それはそうよ!」


 それくらいは時間が戻る前の私だって知っていた。


「じゃあ、あとはドレスが出来上がるのを待つだけだね。素敵な誕生日を過ごそうね」


「うん」


 私達双子の、13歳の誕生日パーティーにそのドレスを着る予定で、今回はニアには絶対に楽しく過ごしてもらうつもりだった。


 なのに、とんでもない事態になったのは、誕生日パーティーが開催される前日の事だった。

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