第11話 自分と罰

 八木さんの言葉に対して、俺はしばらく返答に困ってしまった。


 八木さんは黙ったままで俺のことを見ている。


 俺としても衝撃の発言に、完全に思考が止まってしまった。次に何を言えばいいのかまったくわからなかった。


「……どうして、俺のことが好きになったんですか?」


 そして、そんな状態の俺から出た言葉は、そんな疑問だった。と、八木さんはそんなことを聞かれると思わなかったのか、驚いた様子で俺を見る。


「さぁな……。気付いたら、その……好きになってた、っていうか……」


 恥ずかしそうに八木さんはそう言った。


「あ……。そうなんですか……」


「強いて言うなら……ずっと逃げないでいてくれた、からかもな」


「え……? 逃げないでいた……ですか?」


 俺が聞き返すと、八木さんは俺のことを見る。


「まぁ……。お前のことパシりにしてたし、普通にお前、俺にビビってたし、きっと、すぐに逃げ出すと思ってた。だけど……俺から離れないでいてくれたから……」


 恥ずかしそうにしながらも、八木さんは自分の気持ちを伝えてくる。


 俺は思った。気持ちを伝えてくれるのは嬉しい。とても嬉しかった。


 だけど……俺はこれでいいのだろうか? 八木さんの気持ちを聞いて、また、それに対して、特に悩むこともなく、返事をするだけでいいのだろうか?


「その……どうかな? これからは罰ゲームじゃなくて、俺とその……付き合ってくれると、嬉しいんだけどな……」


 はにかんだ笑顔でそういう八木さん。俺はただ、黙って八木さんのことを見ていた。


 そして、しばらく黙ったあとで、ゆっくりと、返事をする。


「……ごめんなさい」


 俺ははっきりとそう言った。八木さんは動じることなく、俺の返事を聞いていた。


「……お前、それ、本気で言っているのか?」


 八木さんは少し凄むように俺にそう言う。しかし、俺は怖がらなかった。


「えぇ。本気で言っています」


 そう言うと、八木さんはしばらく俺のことをその鋭い瞳でみていた。しかし、その瞳に見られても、俺は怖さを感じなかった。


「……そっか。あはは……。そうだよな。まぁ、俺みたいなヤツと付き合いたいなんて思わないよな」


 俺は黙ったままで八木さんを見ている。八木さんは先程までの怒った雰囲気ではなく、むしろ、すっきりしたような顔をしている。


「……悪かったな。今まで」


 それだけ言って、八木さんは微笑んだ。俺はただ、何も言わずにその顔を見ながら、立ち上がる。


「……じゃあ、俺はこれで」


 俺はなんとか冷静さを保ちながらそう言って立ち上がる。


「あぁ……。えっと……、明日からは俺、学校行くから。ほんと……俺のことは気にすんなよな」


 八木さんのその言葉を背中に受けて、俺はそのまま八木さんの家を出た。


 玄関の扉が閉まる直前、八木さんの泣くような声が聞こえた気がしたが、俺は振り向かなかった。


 家からなるべく早く歩くようにしながら、俺は自分がすべきことを今一度考える。


 俺がすべきこと、それは……今までの臆病で情けない自分に対して「罰」を与えることだ。


「だから……このままじゃ、駄目なんだ」


 俺はそう自分に言い聞かせながら、明日、自分が行動を起こすことを決意するのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る