第10話 二人と罰

「……なんで、お前……」


「いやぁ……あはは……」


 俺は、リーダーに半ば強制的に八木さんの家まで連れてこられてしまった。


 そして、その家の玄関を開けると出てきたのは……部屋着姿の八木さんだった。


 おまけにリーダーは連れてきたら連れてきたで「後は陰キャ君だけで頑張れ」と言って、そのままいなくなってしまったのである。大分酷い話である。


「……何しに来たんだよ」


 八木さんはぶっきらぼうに俺にそう言う。


 ……どう答えるべきか迷ったが……正直に言うしかないだろう。


「えっと……八木さんが心配で」


 俺がそう言うと八木さんは少し意外そうな顔をしたが、すぐに鋭い目つきに戻ってしまう。


「……そうかよ。でも、気にすんなよ。どうせ、俺とお前は罰ゲームで付き合ってただけなんだ」


「あ……。そのことなんですけど……俺、八木さんに本当のことを聞きたいんです」


「本当のこと?」


 八木さんは怪訝そうな顔で俺を見る。俺はゆっくりと頷いた。


「……アイツ、喋りやがったな」


 おそらくリーダーのことを言っているのだろう、八木さんは不機嫌そうにそう呟く。


「……今、家に俺しかいないから、入れよ」


「え……。じゃあ……お邪魔します」


 俺は言われるままに八木さんの家の中に入る。そして、そのままリビングに通された。


 ……俺、普通に女の子の家に入っちゃったな。しかも、この家には今、八木さんしかいないという……。


「で、本当のことって何を聞きたいんだよ?」


 テーブルを挟んで俺と八木さんは向かい合って座った。


「……八木さんは、その……本当に俺と、その……罰ゲームで付き合っていたんですか?」


「あ? お前が俺に聞きたいのはそんなことなのか?」


 俺がそう訊ねると八木さんは鋭い瞳で睨みつけてくる。しかし、俺は視線をそらさなかった。


 しばらく八木さんは俺を睨んでいたが、やがて諦めたように視線を落とす。それから、ゆっくりと話し始める。


「俺、最初、お前のこと、変なヤツだと思ってたんだ」


「……へ?」


「そのままの意味だよ。いつも教室の隅っこで一人でいるし……だから、誂ってやろうと思った。で、適当に思いついたのが罰ゲームだった」


「あ……、じゃあ、本当に最初は罰ゲームのつもりだったんですか……」


「あぁ。正直、暇つぶしのつもりだったし、パシリ扱いすれば、お前の方から俺から離れていくと思ってんだけどな。それが、結局……こんな数ヶ月単位の付き合いになるとは思わなかった」


「あ、あはは……ごめんなさい……」


「……別にお前が謝ることじゃないだろ。っていうか、お前、なんで俺から逃げなかったんだ?」


「え……、言われてみると、なんでだろう……やっぱり怖かったからかな……」


「むしろ、怖かったら逃げるもんだろ、普通」


「あ……。まぁ、そうですね……。よくわからないです。あはは……」


 呆れた顔で八木さんは俺を見る。しかし、先程までの鋭い目つきではなかった。


「俺が鞄を持てば持つし、ジュース買ってこいって言えば買ってくるし、ちょっと睨みつけたら怖がるし……フッ。まぁ、俺にとって、お前は下僕みたいだったな」


「なっ……。ひ、酷いこと言いますね……」


「でも、事実だろ?」


「いや、まぁ……、そうですけど……」


「で、俺は思ったんだ」


 と、いきなり八木さんは立ち上がった。俺は思わずビクッと反応してしまったが、八木さんは構わずに話を続ける。


「もし、俺が好きだ、って言ったら……コイツは俺の好意を受け止めてくれるのかな、って」


 俺と八木さんしかいない場所で、八木さんが発したその言葉が、明確にその場所の雰囲気を変えた瞬間なのであった。

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