第9話 真相と罰

 そして、それからしばらく日にちが過ぎた。


 八木さんは……ずっと学校を欠席している。流石に俺も心配になってきた。


 なにせ、八木さんが欠席しだしたのは、なぜか俺の前で泣いて、そのまま去っていってしまった時だったからだ。


 なんで、八木さんは泣いていたのか、なんで欠席しているのか……俺は何もわからなかった。


 そして、八木さんがいなくなったことで、俺はようやく自由に……というより、何もなくなってしまった。


 それなりの期間だが、俺は八木さんの罰ゲームに付き合ってきた。それは確かに怖い経験もしてきたが、同時に、誰かに付き合うという俺にとって張りのある経験だった。


 それに……罰ゲームとはいえ、女の子と付き合うのは初めてだった。まぁ、ほとんどパシリみたいな扱いだったが。


「……あー。ちょっといい?」


 と、昼休み、すっかり張りのなくなった俺は、ぼんやり窓の外を眺めていると誰かが話しかけてきた。


「あ……。えっと……」


「突然ごめん。その……夏美のことなんだけど……」


 俺に話しかけてきたのはギャルっぽいグループのリーダー……八木さんともよく話している子だった。


「……陰キャ君、夏美と何かあったの?」


「陰キャ君……。あ、俺ですか?」


 リーダーは苦笑いしながら頷いた。俺、陰キャ君って呼ばれていたのか。まぁ、それは今はどうでもいいのだけれど。


「いや、特に何かあったというか……何もなかったというか……」


「……はぁ!? え……。マジで?」


 と、リーダーはとても驚いた顔をした。俺の方も思わず驚く。


「えっと……確認なんだけど……夏美、陰キャ君に何か言わなかった?」


「え……いや、特には」


「……本当に何も言ってないわけ?」


「え、えぇ……あ。そういえば」


「そういえば……?」



「罰ゲームって、まだ続いているんですか?」


 俺は八木さんに対して向けるように、苦笑いしながらリーダーに訊ねる。


「……へ? 罰ゲーム?」


「えっと……確か八木さんが言ってましたけど、なんか罰ゲームで俺と付き合わないといけなかったとかで。あはは……。それにしても、罰ゲーム、随分と長い気がするんですけど……」


 俺がそう言うとリーダーはしばらく絶句していた。そして、呆れた顔で肩を落とす。


「……はぁ。マジかぁ……。いや……マジかぁ……」


 リーダーは何度も信じられないという態度でそう呟いていた。俺の方もその行動がよくわからなかった。しばらく気まずそうにリーダーは俺のことを見ていた。


「えっと……落ち着いて聞いてほしいんだけど」


「……はい。なんでしょう?」


「……罰ゲームとか、ないから」


「……は?」


「夏美に私達が罰ゲームをさせるとか、あり得ないから」


 そうはっきりと言ったリーダーと俺の間に気まずい沈黙が流れる。


「……えっと、罰ゲームなんてなかったってことは……それは、つまり?」


「つまり……え? それ、言わないと駄目?」


 そう言われて俺はしばらく黙る。


 リーダーの話が本当ならば、つまり、罰ゲームなんて存在しないのに、八木さんは俺に罰ゲームだといって、付き合え、と言ってきたことになる。


 罰ゲームなんてないのに、弁当を食べさせてきたり、手をつなごうとしてきたりしたことになるが、それはつまり――


「……え。もしかして、八木さんって俺のこと……」


 俺がそう言ってリーダーのことを見る。リーダーは大きくうなずく。


「え、えぇ……で、でも……なんで、そんな……!」


「……とりあえず、本人から聞いたほうがいいんじゃない?」


「いや、それはそうですし、俺もそうしたいけど……今日も八木さんは……」


 俺は思わず、今日も欠席している八木さんの席の方を見てしまう。


「……夏美の家、行ったことないの? 夏美からは陰キャ君の家まで行ったことあるって聞いたけど」


「え、えぇ……。っていうか、八木さん、そんなこと話してたんですか? っていうか、なんで今八木さんの家の話を?」


「……わかった。じゃあ、今から私が連れてくから」


「連れてくって……どこへ?」


「夏美の家。ほら、行くよ」


「え……えぇ!? で、でも、まだ午後の授業が――」


 と、俺がそう言うと、リーダーは鋭い目つきで俺のことを見る。その目つきは……まさしく、八木さんの目つきと似たものだった。


「もちろん、行くよね?」


「あ……。は、はい……」


 リーダーが八木さんの友達ということは今の目つきでよくわかったが……とにかく、俺は学校をサボって、そのまま八木さんの家に行くことになったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る