第8話 悲しみと罰
それから放課後になるまで、俺はずっと八木さんのことを考えていた。
正確には、八木さんの謎の行動についてずっと考えていた、と言ったほうが正しい。
八木さんは一体なぜ俺を屋上に呼び出して、その上で、作りすぎたという弁当を食べるところを見ていたのだろう。
そして、なぜ今日、あんなにも強い調子で絶対に帰るなよ、と俺に言ってきたのだろうか……と、考えても逆にわからなくなってくる。
別に怒っているわけではない、というのは屋上での発言からわかっている。だとすると、それ以外に何か理由が――
「おい。何ぼんやりしてんだ」
と、八木さんの声が聞こえた。
「あ……。いえ。なんでもないです」
「……ほら。帰るぞ」
「……八木さん。その……俺の勘違いだったらいいですけど、これから何かあるんですか?」
「は? なんだその質問」
「いえ。なんか……八木さんの表情が硬いので、これから何かあるのかな、と」
俺がそう言うと八木さんは恥ずかしそうに顔をそらす。何か変なことを聞いただろうか?
「……うるせぇ。ほら、早く帰るぞ」
「あ、はい」
言われるままに俺は教室を出る八木さんの後をついていく。
と、なぜか八木さんが仲が良いギャルっぽいグループの面々がニヤニヤしながら俺と八木さんのことを見ている。
「夏美~! 頑張りなよ~!」
と、その中の一人、グループのリーダーっぽい女の子が茶化すようにそう言ってくる。
「うるせぇ! 黙ってろ!」
なぜか八木さんは過剰にそれに反応して怒鳴った。ギャルっぽいグループの面々は怒鳴られたというのにケラケラ笑っている。
……あぁ。やっぱり、罰ゲームはまだ続いているんだな。俺は少し暗い気持ちになる。
というか、弁当を食べさせられたのも、もしかして、罰ゲームの一環だったのか?
「俺に自分が作った弁当を食べさせる」とかそういう……まぁ、それがわかれば悩む必要もないか。
そして、俺はそのまま八木さんのあとをついて学校を出た。
八木さんのあの反応……つまり、これからまた、何かしら罰ゲームが行われるということだろう。
と、八木さんが急に立ち止まった。そして、いきなり俺の方に振り返る。
「……ん!」
そう言って、八木さんは俺に右手を差し出してくる。先日と同じような光景だった。
「……えっと、なんですか?」
八木さんは黙ったままで、恥ずかしそうに俺を見ていたが、やがて諦めたように先を続ける。
「……手だよ! 手! ほら!」
「え……? 手、ですか?」
「そうだよ! わからねぇかな……。ほら!」
「……あ。もしかして、手を繋ぐとか、そういうヤツですか?」
俺がそう言うと八木さんは少し驚いたようだったが、それから小さく頷いた。
「あぁ……。わかりました。そういうことなら」
俺はそう言って手を伸ばす。と、なぜか八木さんは手を引っ込めてしまった。
「あー……。やっぱり罰ゲームとはいえ、俺と手を繋ぐのは嫌ですかね? あはは……」
「……なんだよ。罰ゲームって……」
と、八木さんはなぜか悲しそうな顔で俺にそう言ってきている。
急にそんな表情になった八木さんを見て、俺は思わず混乱してしまう。
「え……。いや、だって……これ、罰ゲームの一環ですよね? 屋上でお弁当食べさせられたのも、そうなんですよね? なんか……ごめんなさい。罰ゲームとはいえ、八木さんに迷惑かけちゃってるみたいな……」
苦笑いしながら俺がそう言うと、八木さんはなぜかショックを受けたかのように絶句している。
……何かおかしなことを言っただろうか? それから、しばらく八木さんは黙ったままだった。
「……ふざけんな」
それから、押し出すような声で八木さんはそう言った。
「え? 八木さん?」
「……ふざけんな! 俺が……どんな思いで……!」
「あ……。いや、ごめんなさい。なんか俺、変なこと言いました? 気に障ったのなら謝りますよ?」
俺が必死に取り繕っても八木さんは悲しそうな顔で俺を見ている。
「……もういい」
そう言って八木さんはそのまま俺を置いてそのまま行ってしまった。
あまりのことに俺は呆然と立ち尽くしてしまう。
「……え? なんで? これ……罰ゲームなんだよな?」
誰も答えてくれない問を、俺は思わず呟いてしまう。
罰ゲームのはずなのに、なんで……八木さんは、泣いていたのだろう?
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