第7話 味見と罰

 そして、俺は、屋上で、八木さんの目の前で、八木さんが作った弁当を食べることになった。


 弁当箱を開けてみると……思いの外、シンプルだが、可愛らしい内容となっていた。


 おにぎりと、卵焼きと、からあげ……普通のお弁当だった。これを八木さんが作ったと考えると、少し不思議な気分になる。


「お、おい……何か変か?」


「え? あ、いえ……普通だと思いますけど」


「普通……か。まぁ、それならいいか……」


 八木さんは少し安心したような顔をする。それにしても、これって作りすぎたお弁当なんだよな?


 よく見ると、なんとなく卵焼きは焦げている気がするし、おにぎりの形はかなり不格好だった。


「えっと……食べていいですか?」


「当たり前だろ。お前のために――」


「へ? なんですか?」


 八木さんは途中で言葉を詰まってしまった。と、何かを誤魔化すように鋭い目つきで俺を睨む。


「ど、どうでもいいからさっさと食え!」


「あ……。わ、わかりました」


 俺は言われるままに、とりあえず、からあげを食べてみることにした。


「……ん?」


 ……からあげは見た目からして冷凍食品だったのだが……ちゃんと解凍されていなかった。


「な、なんだよ? 何か変か?」


 八木さんが不安そうな顔で俺を見る。


「あ、いえ……からあげが解凍されてなかったみたいで……。あはは……」


「え……。嘘だろ? ちゃんと電子レンジのタイマー、確認したのに……」


「まぁ、よくあることですよ。あはは……」


 俺は適当に取り繕いながら、苦笑いする。しかし、八木さんはかなり落ち込んでいるようだった。


 俺は次に卵焼きを口に運ぶ。ガリッ、と嫌な音がする。


 ……たまごの殻が入っている。しかも、卵焼きが……死ぬほどしょっぱい。


「どうだ? それは大丈夫だろ?」


 八木さんは不安そうな顔をする。なんだろう……ここでありのままの感想を言うと、流石に八木さんの怒りを買いそうな気がする。


「え、えぇ……お、美味しいですよ」


 俺はなんとか苦笑いしながら、しょっぱい、殻が入りまくっている卵焼きをなんとか飲み込んだ。


 しかし、それが俺のつよがりだと八木さんもわかってしまったらしい。先程よりもかなり落ち込んでしまっていた。


「……あ! まだ、おにぎりがありますから! 食べていいですよね?」


「……好きにしろよ」


 テンションがかなり下がってしまった八木さん。俺は形が悪いおにぎりに齧りつく。


 ……特に問題はない。梅干しのおにぎりだった。まぁ、おにぎりを料理として失敗するなんてこと、なかなか難しいと思うが。


「うん……。おにぎりは、美味しいですよ」


 俺がそう言うと、八木さんは少しだけ嬉しそうな顔をする。


 というか、作りすぎたお弁当を俺が処理しているだけだというのに、八木さんはなんでこんなに一喜一憂しているのだろう。


「そうか……。なら、良かった」


 それから、なんとか俺は八木さんが作りすぎたお弁当を食べた。残す、という選択肢はあり得ないので、解凍されていないからあげも、しょっぱい卵焼きもすべて食べた。


「……ごちそうさまでした」


 俺は不思議な達成感を感じながら、そう言った。と、八木さんはジッと俺のことを見ている。


「えっと……全部食べちゃって、良かったんですよね?」


「……あぁ。作りすぎただけだからな」


「……あれ? そういえば、八木さんはもうお昼、食べたんですか?」


 俺がそう言うと八木さんは少し面食らったような顔をしたが、俺から弁当箱を取り返すと、そのまま俺に背を向けてしまう。


「……放課後。今日は勝手に帰るなよ。俺と一緒に帰れ。いいな?」


「え……。あ、はい。それは、いつものことですから、もちろんいいですけど……」


 と、俺がそう言うとなぜか八木さんはこちらを振り返る。


「絶対に! 今日は勝手に帰るなよ!」


 なぜか思い詰めたような顔で八木さんはそう言い放って、屋上から去っていってしまった。


「……え?  どういうこと?」


 なんだか、八木さんの行動が理解できない……俺はただ困惑することしか出来ないのであった。

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