第6話 弁当箱と罰
そして、問題の昼休みとなってしまった。
俺は教室を見回してみる。と、丁度八木さんが教室から出ていくところだった。
……屋上に行くのだろう。そうなると、俺は屋上に行かなければ不味い。
いやいや。大丈夫だ。俺は何もしていない。少なくとも、八木さんが怒るようなことは何一つしていない。
俺は意を決して、屋上へと向かうことにした。そもそも、屋上って、入れるのだろうか? まぁ、八木さんが来いって行っているのだから、入れるのだろうが。
階段をゆっくりと登りながら、俺は屋上へと続く扉の前に辿り着いた。俺は少し時間を置いてから、扉を開ける。
屋上は日差しが強かった。そりゃあ、地上よりも太陽に近いのだから当然なのだが。
ただ、まだ暑いというわけでもなく、心地よい暖かさが満ちていた。
「来たか」
と、八木さんが少し離れた場所に立っていた。
「あ……。えっと、八木さん。来ましたけど……何か?」
八木さんは黙ったままである。やはり、怒っているのだろうか?
「あー……。その……ごめんなさい!」
「……は?」
俺は耐えきれず謝ってしまった。
「いや、だって……何か八木さん、怒っているですよね? 怒っているから、俺を呼び出したんですよね?」
俺にはこうすることしかできない。とりあえず、謝っておけばさすがの八木さんも俺を半殺しとかにはできないだろうし……。
しかし、八木さんは何か困ったような顔で俺を見ている。
「……あのさ。お前……俺がいつも怒っていると思っているわけか?」
「え……あ、いや……そういうわけでも……」
「……はぁ。別にいいよ。昔から周りにもそういう感じに見られてきたし」
八木さんは悲しそうに肩を落としている。怒ってはいない? ということだろうか。
「じゃあ……どうして俺を呼び出したんです?」
俺がそう訊ねると、八木さんはなぜか俺に向けていきなり、箱状のものを突き出してくる。
「……これは?」
「今日……その……自分用に弁当を作ってみたんだが……作りすぎたから……お前にやる」
そう言って半ば押し付けるように、八木さんは俺に弁当箱とされるものを渡してくる。
「え……あ。ありがとうございます……」
「ほら。ここで食べろ」
「え、あ……ここで?」
「そうだよ。嫌なのか?」
「え、嫌じゃないです。じゃあ……ここで、食べます」
俺がそう言うと、八木さんは満足そうな顔をする。
なぜか、俺はそのまま屋上で、八木さんが作り過ぎたという弁当を食べることになったのであった。
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