第5話 呼び出しと罰

「……え? 八木さん……?」


 その日の朝、思わず俺は朝から大分驚いてしまった。


 家の玄関から出てみると、そこに立っていたのは……八木さんだった。


「……よぉ」


 八木さんはどこか恥ずかしそうにしながら俺に挨拶してくる。俺は俺で意味がわからずただ、小さく会釈することしかできなかった。


「えっと……どうしたんですか? どうして、俺の家に……?」


「……た、たまたま朝早く起きたから……暇だったし? 学校行く前に散歩していたら、そういえば、お前の家もここらへんだったよなぁ、と思い出したから……ちょっと寄ってみただけだよ……」


 ……朝から散歩していたという言い分もなんだかとても変な話だったが、そもそも、なんで俺の家に来たのだろうか?


 まぁ、これまで帰る時は八木さんの鞄を持って俺の家まで帰ってきたし、八木さんが俺の家を知っているのは仕方ないんだけど……だからって、わざわざ俺の家に寄らなくても良いだろうに。


 もしかして……何か怒っているのだろうか? 俺は思い返してみたが、八木さんを怒らせるようなことをした記憶はなかった。


「ほら……学校、行くぞ」


「え……あ、はい」


 そのままの流れで俺は八木さんと学校に行くことになってしまった。


 朝から八木さんと一緒に登校するというのもかなり不思議な状況だった。そういえば、鞄を持て、とも言ってこないな……。


「あ、あのさ……」


 と、少し先を歩いていた八木さんが、俺に話しかけてくる。


「その……この前は……なんか変な感じにして……悪かったな」


「え? この前……あぁ。八木さんがいきなり帰っちゃった時ですか?」


 俺がそう言うと八木さんはまたしても恥ずかしそうに顔をそらす。


「でも、八木さん、どうして急に帰っちゃたんですか?」


「そ、それは……どうでもいいだろ……」


 八木さんは教えてくれなかった。


 気にはなったが、かといって、無理に聞こうとすれば八木さんの機嫌を損ねることになってしまうかもしれないし、それ以上は聞かないでおいた。


 そのまま特に会話もなく、俺と八木さんは学校まで歩く。教室について、俺はホッと一安心する。


 まさか、朝から八木さんが来るとは思わなかった……でも、別に怒っているわけでもなさそうだし、本当になぜ来たのか謎だった。


「お、おい……」


 と、また八木さんの声が聞こえた。


「あ……。八木さん。まだ何か?」


「……お前、昼休み、暇だよな?」


「え? 暇、ですけど……」


 八木さんはなぜか今度は思い詰めたような、親権な表情で俺のことを見ている。その鋭い瞳で見られると、なぜか俺も背筋が自然とまっすぐになる。


「昼休み、屋上に来い。いいか? 絶対来いよ」


「え……。わかりました……」


 俺がそう言うと八木さんは納得したかのような表情で自分の席に戻っていった。


 ……呼び出しだ。なんだろう……何か悪いことをしただろうか?


 もしかして、よほど八木さんは怒っているのだろうか? でも、俺にはまるで心当たりがない……。


「……どうしよう」


 とりあえず、俺は屋上に行ったら、まずどうすればいいかを、その後の授業の時間でずっと考えることになるのであった。

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