第4話 手と罰
「おい」
その日の放課後。放課後になった瞬間に聞こえてきたのは、八木さんの声だった。俺は即座に声のした方に顔を向ける。
「はい……あ。八木さん」
「……帰るぞ」
「あ、はい」
俺は自然と八木さんの鞄を持とうとしてしまった。それこそ、ホテルマンが宿泊客の荷物を受け取るかのような自然の動きとなってしまっていた。
「……おい。何してんだ」
と、八木さんが怪訝そうな顔で俺を見る。
「え……。あ、いや、鞄、持ちますよ?」
俺がそう言うと八木さんはムッとした顔で俺を見る。
「……今日はいい。自分で持つ」
……信じられない言葉だった。今までずっと鞄は俺が持って帰っていたのだ。どういうことだ? なぜ、八木さんは俺に鞄を持たせない?
「八木さん……。その……大丈夫ですか?」
「あ? 何がだよ」
「いや……。鞄……、自分で持って帰るんですか?」
「……そうだよ。悪いか?」
「あ、いえ……。悪くはないです」
……これ以上ツッコむのはやめておこう。八木さんの機嫌を変に損ねるのは得策ではない。
まぁ、八木さんだって、たまには自分で鞄を持って帰りたい、という気分なのだろう。
だとすれば、その意志を尊重したほうが良いに決まっている。
「ほら。帰るぞ」
というわけで、俺は久しぶりに自分の鞄だけを持って、教室を出ることが出来た。
といっても、相変わらず下僕のように、八木さんの背後を付いていくというのは変わらない。
学校を出て、いつもの帰り道でも、俺は八木さんの背後を少し離れてついていく。
……あれ? でも、考えてみれば、今日は鞄を持っていないし、なんで俺と八木さん、わざわざ一緒に帰っているのだろう?
そりゃあ、罰ゲームは続いているのだから仕方ないのだろうが……っていうか、そもそも、学校を出た後も、俺と付き合う必要もないだろうに。
「……なぁ」
と、いきなり八木さんが立ち止まった。
「へ? な、何か?」
俺は思わず驚いてしまって、変な声で返事をする。と、八木さんは俺の方に振り返って、なぜか、俺に右手を差し出してくる。
「ほ、ほら……」
「……へ?」
「だ、だから! ほら!」
……なんだ? なんで右手を差し出してくるんだ?
「えっと……今財布にあんまりお金ないんですけど……」
俺が苦笑いでそう言うと、八木さんは明らかに怒りの形相を浮かべる。
「はぁ!? カツアゲじゃねぇよ! っていうか! 俺、今までお前に対してカツアゲなんてしたことないだろうが!」
「ひっ……! ご、ごめんなさい……!」
「あ、いや、悪い……別に怒っているわけじゃねぇんだけど……」
なんなんだ、一体……意味がわからないから適当に返答してみたのが間違いだった。
八木さんは何が目的なんだ? まったくわからない……ここは素直に聞くのが良いだろう。
「じゃあ……どうしたんです?」
八木さんはなぜか恥ずかしそうに、そしてじれったそうな顔で俺を見ている。益々その反応がわからなかった。
「……もういい。今日は帰る」
と、なぜか八木さんはそのまま走って行ってしまった。
「……え? な、何?」
意味がわからないままに、俺はその場に取り残されてしまったのだった。
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