第3話 嫌いと罰

「八木さん……!」


 人通りがあまりないタイミングの廊下……八木さんの後をつけて、俺はタイミングを見計らって、八木さんに話しかけた。


「……あ? なんだ。お前か」


 振り返った八木さんは相変わらず視線が鋭い。ただ、それなりの期間付き合ってきたからわかるが、特に今日は機嫌が悪いというわけではないようだ。


「あはは……。ごめんなさい、急に話しかけちゃって……」


「別に構わねぇよ。で、何の用だ?」


「あー……。いや、その……罰ゲームのことなんですが……」


 俺がそう言うと、即座に八木さんの眉間に皺が寄る。


 ……不味い気がする。これ以上言わないほうがいいような気がする。


「……罰ゲームが、なんだって?」


「え、あ……。い、いやぁ~、その……八木さんは嫌じゃないのかなぁ、って……」


 そう言うと八木さんは黙って俺のことを見る。やばい……どう見ても怒っているようにしか見えない。


 しばらく八木さんは俺を睨みつけたままで黙っている。俺としても、流石にずっとその鋭い視線で睨まれているのはかなり厳しかった。


「お前は、嫌なのか?」


「……へ?」


 不意に八木さんがそんなことを聞いてきたので、俺は思わず間の抜けた声を出してしまう。


「……あ、いや。俺は……別にそんなことは……」


「嫌なのか?」


 威圧感のある二回目の聞き方。八木さんがこういう聞き方をするとき、俺が嘘をついていると思われているのだ。


「……嫌じゃないですよ。本当に」


 俺はなんとかはっきりと、強めにそう言った。八木さんはそれでもあまり納得していなさそうだったが、俺から視線をそらす。


「じゃあ、問題ないな」


「え……。いや、でも、罰ゲームって……」


「罰ゲームはまだ続いてんだよ。仕方ねぇだろ」


 そう言って八木さんはそう言って去っていってしまった。


 とりあえず、罰ゲームはまだ続いているようだ。八木さんがそう言っている以上、俺に拒否権はないわけで……。


 でも、八木さん、なんとなくだけど……どこか寂しそうに見えるんだよなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る