第4話 ボードゲームに約束を


 ベリーの季節が終わり、天気の荒れやすい季節へと変わりはじめた。

 今日の天気は雨。

 外には出れず、家の中で暇を潰さないといけない。

 部屋の中には、外の雨音、時計の秒針の音、本の捲られる音が静かに音楽を奏でている。


「……」

「……」


 僕は読書をする事で、その暇な時間を有意義な時へと変えている。

 一応は、日本からデータの仕事が届くのだが、こんな雨の日はどうしてもやる気がでない。

 なので、ずっと昔に持ってきた歴史書を繰り返し読むことが、この季節の日課となっている。


「……」

「……うぅ」


 隣で唸りはじめたのは美夜。

 どこからか見つけて来たボードゲームを1人で遊んでいる。


「……」

「……うわぁーん」


 どうやら諦めたらしい。


「どうしたの?」

「このゲーム、何が楽しいか分からないんだよぉ」


 銀色の尻尾を逆立たせて立ち上がる美夜。

 遊んでいるのは『オセロ』だ。


「そりゃ、大変だね」

「ねぇ、これやり方あってるよね?」


 眉間に皺を寄せて迫ってくる美夜。


「あってるよ」

「じゃあ、昔はこんなつまらないゲームをしていたわけ?」

「んー、そうだね……」


 僕は読書を進めながら美夜の質問に返答する。

 どうやら美夜は、オセロをしたことがないらしい。

 そもそも、ここ最近は、多くのゲームが電子化されたことで、実物のゲームなどはほとんど無くなっている。

 しかも、それらの多くが人工知能と対戦できるため、1人で遊んでも大体は楽しいのだが、実物のゲームは違う。


「これ1人でできないの?」

「1人でもできるよ。今まで美夜がやっていた通りで間違いはないから」

「むー、じゃあ何が違うんだろぉ?」


 机を叩き、ぶつぶつと文句を言う美夜。

 このままでは読書に集中できないため、仕方なく一戦だけ相手をしてあげることにする。


ーー10分後


「これで終わり」

「あっ……」


 ボード上の半分に駒が並べられ、その全てが白で染まっている。

 つまり、僕の勝ちだ。

 流石にゲーム初心者の美夜に負けることはないと思っていたが、まさかここまで弱いとは。

 負けた本人は、唖然として固まっている。


「も、もう一回。もう一回対戦して」

「……仕方ないな」


 負けず嫌いは人間の性分。「勝つまでやり続けよう」と言うのは、最早時間の問題となった。


 オセロで遊ぶこと半日、僕の勝率は100%を保っていた。

 途中、手加減して負けることも考えたのだが、すぐに勘付かれて動かなくなってしまうので、結局程々に遊んで全勝してしまった。

 

「うぅ……あ、晴れてる」

「ほんとだね」


 どうやら、いつの間にか外の天気が回復していたようだ。

 息抜きついでに外に出ることにする。


「あー、楽しかった」


 外で背伸びをしながら美夜が呟く。

 楽しかったのなら良かった。


「また一緒に遊んでよね。他にもゲーム、たくさんあるんでしょ」


 振り返った美夜が笑顔で言う。


「ま、そのうちな」


 雨雲の隙間から差し込む日差しが、雨の雫を宝石のように輝かせる。

 僕は、たまには誰かとこうして、ボードゲームをする日もいいかな、なんて思ったりしていた。

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