第3話 ベリー畑とミツバチと


 日が高く昇り、家の近くの大きな湖がキラキラと反射し輝いている。


 美夜がこの島に来てから1週間が経った。

 最近、ベリーのよく採れる季節になったので、今日は朝からベリー畑にやって来ていた。


「あー、こんな日は昼寝がしたいものだな」


 ベリー畑の一角で、僕は折りたたみ式の椅子に座りながら、何気なくそう呟いた。


「何を言ってるんですか、咲弥さん。 こんな日にこそ、ベリーを採らないと!」


 僕の独り言のような呟きに、わざわざ返事を返してきたのは美夜だ。

 と言うか、今、この島には僕と美夜の2人しかいない。

 来客は滅多に来ないし、政府管轄艦は半年に一回のペースでしか来航しない。それ以外の船は近づくこともできなくなっている。


「僕はここで休んでいるから好きに採って食べるといいよ」

「もちろん。そうするわ」


 こんな感じで、適度な距離感を保ちながら一緒に生活している。


「しっかし、よく食べるな、美夜は」


 美夜の口いっぱいにベリーを詰め込む姿に、思わず笑ってしまう。


「なに笑ってるんですか。美味しいんだもの仕方ないじゃないですかぁ」


 少し照れたような表情を見せつつも、ベリーを頬張る手は止めようとしない。

 全く、あの調子じゃ、お昼ご飯はいらないって言いそうだな。

などと、適当な事を考えながら、僕も近場の木に実っていたベリーの実を一粒口にする。

 うん、甘い。

 やっぱり甘味は格別だね。



 大陸から独立しているこの小さい島では、半年に一回しか補給が来ない。そのため、こうした家庭菜園で出来た果実が貴重な存在なのだ。



「そろそろ休憩しようか」

「はーい」


 日が高くなってきたので、木陰に入り休憩する。

 静かに休んでいると、どこからかミツバチたちが飛んで来た。

 どうやらベリー畑の周りに咲いている花の蜜がお目当てのようだ。縦横無尽に飛び回っているミツバチを見ていると昼寝をしたくなるのは、どうしてなのだろう。


 ちなみに美夜は、休憩しようと提案したはずなのに、近くの湖で水浴びをしている。

 バシャバシャと素足ではしゃいでいる姿は、まるで小さな子供のようだ。


「あんまりはしゃいでミツバチに刺されるなよ」


 近くにミツバチがいることを踏まえ、一応は警告をする。

 素直に聞くとは思えないが……


「大丈夫だよー、痛っ!」


 言ったそばからか刺されたようだ。ほんと、何を根拠に大丈夫と言ったのだろうか。


「こっのー、ハチどもめぇ!」


 美夜は蜂に刺されながらも、未だに楽しそうにはしゃいでいる。そんな姿を見ていると、心配しなくても良かったと思えてきた。


「ま、いっか。さて、少し昼寝でもしようかな」


 遠くで美夜がはしゃぐ声を聞き、温かい風と適度な日差しが差し込む木陰では、心地の良い昼寝ができそうだ。



 そうそう。結局、その日の夜に刺されたところが腫れ上がり、美夜が大泣きしたんだけどね。


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