第2話 はじめまして
政府管轄艦が来た翌日。
イオウ島の中心にある湖の近くに建っている一軒家。その家の煙突からは、白い煙と美味しそうなベーコンと卵の焼ける匂いが漂っている。
その家の一室。
簡素なベットの上に1人の少女が寝ている。
僕はその隣で、昨日渡された資料を1ページずつじっくりと読み込んでいく。
「もう21歳なのか。今回の子は長いこと向こうにいたんだな」
隣に寝ている少女の顔を覗き込んで呟く。
静かに寝息を立てている少女の見た目は、まだ15歳くらいにしか見えない。頭には、人間の耳の代わりに、狼の耳が生えていて、お尻には尻尾も生えている。
「ほんと、年齢よりも若すぎないか」
そう思いながら、少女の頬にそっと手を添える。
すると、少女の目がうっすらと開いた。そして、僕に気が付いたのか、驚いたように起き上がると、じっとこちらを見つめてくる。
「ごめん、起こしちゃった?」
僕は慌てて手を下ろす。
少女は横に小さく首を振って、その言葉を否定した。そして、周りを見回すと、すぐ隣にある窓から外を眺める。
「窓を開けるか?」
僕が尋ねると、またしても、少女は小さくうなづいた。
それを見て立ち上がると、ベットの脇にある窓をそっと開けてあげる。
外からは涼しくて心地の良い風が吹き込んで来た。
「……甘い香り」
少女が呟いた。
家の庭には、ちょうど実りはじめたベリーの甘い香りが部屋いっぱいに広がる。
「もうすぐ収穫できるから、良かったら一緒に取りに行く?」
「……うん」
今度はちゃんと返事をしてくれた。
再び優しい風が部屋の中に入ってきて、少女の長く銀色の髪の毛を揺らす。
そしてその風に乱れた髪を右手で整える。
その仕草に思わず見惚れてしまいそうになる。
「きれいね」
不意に少女が呟いた言葉に、思わずドキッとしてしまった。
「ベリー畑がきれいね」
少女がこちらを見てもう一度繰り返す。
「そうだね」
早くなった鼓動を抑えつつ、僕は少女の方を見て答えた。
短い沈黙が僕たちの間を流れていく。
さすがに耐えられなくなった僕は自己紹介をする。
「僕は咲弥だ。よろしく、美夜さん」
私が少女の名前を呼ぶと、また、不思議そうにこちらを見つめてきた。しかし、何かを理解したのか優しい笑顔で僕の方に手を伸ばしてきた。
「よろしく、咲弥」
僕は少女の手を取るとしっかりと握手をし、リビングに朝食があるから一緒に食べようと提案した。
リビングに入ると、テーブルに向かい合うようにして座る。そして、すでに冷めてしまったベーコンと卵を並べる。
「覚めてるけど許してね」
「いいわ。問題ないもの」
朝食をとりながら、僕は美夜に色々と質問した。どこから来たのか。何をしていたのか。など、色々と。
別に、資料を読んである程度は知ってはいたが、それでも本人の口から直接聞いたほうがちゃんとしれた気がするから好きなのだ。
こうして美夜との出会いは、順調な滑り出しで始まった。
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