第1話 運ばれたモノ

 日本から東に約1100㎞の地点に、世界から隔離された島が存在している。

 その名も「イオウ島」

 かつては太平洋戦争の激戦地だったとか何とか言われているその島は、現代において誰も住んでいないことになっている。

 しかし、これは表向きの話だ。

 各国の政府はこの島の管理について、ある密約を交わしていた。


『Z−D 収容密約』


 この条約により、イオウ島は24時間365日体制で、アメリカと日本を中心とする国際海軍によって監視されることになった。



 2125年4月26日

 イオウ島の桟橋に、1隻の政府管轄艦『箱根』が横付けしていた。


「これで荷物は全部か?」

「いえ、後部保管庫にまだ一つだけ残っています」

「何してる、さっさと降ろしてしまえ」

「分かりました」


 必要最低限の人員で行われている荷下ろしの作業。

 その様子を尻目に、私はこの島の『住人』を待っていた。

 少しして、森の中から1人の青年がやって来た。簡素な服装を着ていて、所々が土で汚れている。


「お久しぶりですね」

「お待ちしておりました、咲弥様」


 笑顔で挨拶をくれた青年に私は深々と頭を下げる。

 彼の名前は、咲弥。

 見た目は20歳前後だが、実際はその何倍も生きていると昔、資料で読んだことがあった。


「今月はやけに早かったな。何かあったのか?」

「いえ、新入りがいるので今月分を早めに輸送しただけですよ」

「そうか……」


 私は手に持っていた鞄から資料を取り出して青年に渡す。

 青年は、それを受け取ると一通り目を通していった。


「それで、この子はどこにいる?」


 青年の質問に、思わず苦笑いとため息が漏れてしまう。


「それが、今回の航行中に何度か暴れまして……今は薬で眠っています」


 私の言葉をちゃんと理解してくれたらしい青年が、優しく肩をポンと叩いてくれた。あぁ、これだけで嬉しいな。


「では、いつも通りよろしくおねがいしますね」

「分かりました」


 青年は言い終わると、また森の中へと戻ってしまった。


「さ、残りの仕事も終わらせますか」


 私は気合を入れ直して、荷下ろしをしている船員の手伝いに戻る。

 その後、規定通り作業を続け、夜になる頃には全行程を終えた政府管轄艦は『イオウ島』を離脱していった。

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