え、ご両親……に?

「金銭的余裕は作っておいて損はないと思う。櫻羽の貯金がどれほどあるのかは知らない。もしかしたら俺が想像しているよりも多いのかもしれない……でもそれは独身一人暮らしだからできる事であって、子育てともなると当然支出も大きく変わってくる。となれば貯めていくのも難しくなっていくし、むしろ切り崩さなきゃならない状況だってこれからでてくるはずだ。だから、貰えるものは貰っておいた方が良い。その子の事を第一に考えるなら」


「……お金もそうですけど、他にも欠かせないものがあると思うんですよね」


「ん? すまん、ちょっと聞き取れなかったから、もう一度頼む」


「いえ、今のは独り言なので山本さんは気になさらないでください。それよりも一つ、質問よろしいですか?」


「質問? 全然いいけど」



 俺が頷いて見せると、櫻羽はわざとらしい笑みを浮かべて口を開いた。



「山本さん、カタログギフトってご存知ですか?」


「そりゃまあ、ご存知だけど? それがどした?」


「仕組みについてどう思いますか? 率直な感想を聞かせてください」


「………………」



 何故にカタログギフト? と思いもしたが、俺はその疑問を口にせず櫻羽に言われた通りにする。


 カタログギフト。贈り主が物を選ぶんじゃなく、贈られた側が選べるというシステム。


 贈る側も何がいいか、何が喜ばれるか迷う必要がなく、贈られる側も自分の好きな物が選べる。実に合理的だ。


 ただ、人によってはその過程を素っ気ない、気持ちがこもってないと捉える人もいたりする。


 合理を求めれば感情的側面から反発が生まれる。良し悪しが出てくるのは当然……個人的には簡略化されて素晴らしいと思ってるが。



「――――――――――――」



 俺はカタログギフトに対する自分の感想をそのまま櫻羽に伝えた。


 すると、櫻羽は待っていましたとでも言うように手を合わせ、瞳を輝かせる。



「ですよね――そうですよね! というわけで、山本さんの案は却下。私が山本さんにしてもらいたい事を選ばせてもらいます」


「カタログギフトって、そういう事か」


「ええ。山本さんが同じ感想を持っていてくれて良かったです」


「……んで、俺は何をすればいいんだ?」


「とても簡単な事です。ただその前に、私のたった一つの頼み事は絶対遵守、受け入れたら断れないとだけ覚えておいてください」



 人差し指をピンと突き上げ、念を押してくる櫻羽。



「受け入れたら断れないって事はつまり、受けるか否かの選択権は俺にあるって解釈でいんだな?」


「いえ、ありません。カタログギフトなんですから、選ぶのは当然私です」



 じゃあなんで念押してきたんだよ!


 そう内心でツッコミを入れつつ、俺は「それで?」と先を促した。


 すると櫻羽は背筋を伸ばし、ふふんと悪戯的な笑みを浮かべた。



「山本さんには私の両親に合ってもらいます!」

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