想像は膨らむばかり
『山本さんには私の両親に会ってもらいます!』
『……うん、なんで?』
『なんでもへちまもありません! 私の頼みは?』
『……え、何? 何故に耳をこっちに傾けてんの?』
『絶対ッ! でしょ山本さんッ! ほらもう一度――私の頼みは?』
『ぜ……絶対』
『受け入れたらもう断れ?
『……え? あ、え~と……ない?』
『そうです! カタログギフトぉ――さいっこおおおおおッ! 櫻羽ともりぃ――ナンバワアアアアンッ! てなわけで今週の土曜9時、お車で私を迎えに来てください! 実家まで案内しますので! あ、当日はスーツでお願いしますね? 忘れちゃダメですよ?』
『……………………』
信号待ちの車内にて。俺は櫻羽とのやり取りを思い出し、ハンドルの上部に顎を乗せ大きく溜息をついた。
金銭的支援を提案しに言ったつもりが、何故か流れで櫻羽の両親に会いに行く事に。
しかも俺に拒否権はなく、強制。
どうして両親に会いに? と櫻羽に理由を聞いても『秘密です』としか返ってこなかった。
普通に、一般的に考えればスーツで向こう方の両親に会いに行く=結婚の挨拶が真っ先に浮かんでくるが…………今回のケースだとさすがにそれはってのが正直なところだ。
お互い酒が入っていた……酔った勢いでしてしまった。当然そこに愛はない。
愛し合っている者同士でなければ結婚しようとは至らない……なんて綺麗事を抜かすつもりはない。愛がなくても妥協の名の下、結婚はできる。
それだけに櫻羽が俺と結婚する運びを計画してるとは考えづらい。何故なら、愛がない結婚に必要不可欠なのは金だからだ。貧乏な俺を相手にするだけ時間の無駄。
なら、子を授かった事で母の意識が強くなったとか? 産まれてくる子を第一優先に考えた時、父親がいなかったら可哀想と……そういう理由でしたくもない結婚をするのはどうだろう?
……う~ん、ありそうで、なさそうな。さすがに心境までは読み取れん。
まあ、読み取れないからこそ嫌な想像をしてしまうんだが。
何度も何度も繰り返すが、俺には覚えがない。覚えがないから悪い方に考える……嵌められてるんじゃないかと。
両親までグルの手の込んだ罠。もしかしたら両親の方が主犯格かもしれん。
それで俺に何かしらの勧誘をするとか、幸せになれる壺だかをローンで買わせるとかしてくるかも。
「……不安だ、ものすんごく不安だ」
仕事に勤しむ何気ない日常が、こんなに恋しくなるなんて……よっぽどだ。
「あ――――もう行きたくないッ! ホントに怖くなってきたぞチキしょーッ!」
引き返したい気持ちとは裏腹に、信号機は青を灯すのだった。
――――――――――――。
しばらくして、彼女が住むアパートの前に到着。
ハザードを焚いて櫻羽に着いた旨をLINEで伝えると、1分もしない内に戸から姿を現し、手を振りながら近づいてきた。
「おはようございます山本さん! スーツ姿、お素敵です!」
「あ、ありがとう……とりあえず、乗って」
「はい!」
助手席の方へと向かう櫻羽を視認し、俺は運転席側の窓を閉める。
「それじゃ私の実家までよろしくお願いしますね? 山本さん!」
「……了解」
カチッと鳴ったシートベルトの開閉音が、何故だか俺には手錠の音に聞こえた気がした。
覚えのない夜からどんどん話が進んでいってるんですが……結婚て、冗談ですよね? 深谷花びら大回転 @takato1017
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