お金じゃ解決できないモノと、ギフトカタログの合理性

 それで結局、 彼女が住んでいるアパートにお邪魔する事になったわけで。



「つまらない物しかお出しできませんが、何卒……ゆっくりしていって下さいね」



 櫻羽が丸盆に載せたマグカップを俺の前に差し出してきた。


 うっすらと立つ湯気に鼻を近づければ甘い匂いがほのかにして、中身を覗けばチョコ色の液体が……カップの中はココアのようだ。



「あ~、そんな長居するつもりはないけどな。話が終わったらすぐ帰る」


「そう遠慮しないで下さい。何なら夕飯もここで済ませていってもいいんですよ? どうです?」


「いや、そこまでお世話になるつもりは……つかさっきそんな長居するつもりはないって俺、言わなかったっけ?」


「だ、か、ら――そんな遠慮しないでくださいってば。あ、何なら泊っていきます? 山本さんなら大歓迎ですよッ!」


「何でそうなるのッ! 飯もいらんし泊まってく気もないし話が済んだらすぐ帰る! これもう3回目なッ!」


「そう……ですか」



 丸盆を胸に抱え、食い気味でお節介を焼こうとしてきた櫻羽だったが、3度目のお断りで彼女はようやく諦めてくれたよう。


 肩をすぼめた彼女は、わかりやすいぐらいしょんぼりとした様子で対面に腰を下ろした。


 夕飯ならまだしも、泊っていくかだなんて。一体何を考えているのやら…………ん?


 彼女が座っているすぐ傍に、聞き覚えのある雑誌が数冊転がっているのを発見。


 たまごクラブ、ひよこクラブ、こっこクラブ…………気が早すぎないか? 卵割っても黄身しか出てこないぞ? まだ。


 ……いや、それは男性の視点からなるものであって、実際に身籠みごもっている女性からしてみれば遅すぎるくらいなのかもしれないが。



「それで、長居をするつもりが一切ない冷たい山本さんは、私に何の用があってここに?」



 ここを強く指定してきたのはそっちなんですけど……まあいいや。


 俺は櫻羽の瞳から視線を移し、お腹に向けた。



「昨晩、俺なりに考えて考えて考え抜いたんだ……できる限りの支援をしようってな」


「支援? というと……どんな?」



 顎に手をやって首を傾げた櫻羽に、俺は昨日の考えをそのまま伝えた。



「金銭面での支援だ。単純に人一人増えるわけだから、お金も当然かかってくるだろ? だからまあ、稼ぎが良いわけじゃないけど……できるだけ払っていこうかなと」


「……お金、ですか」



 そう繰り返した櫻羽の表情は、季節外れの冬の夕方のように早く暮れた。

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