第102話 渡月橋と大阪を満喫。
太秦映画村を後にした僕たちは、タクシーで渡月橋に向かった。この日は平日だからか道路は空いていて思ったより早く着いた。だけど、観光名所なだけあって多くの観光客が渡月橋を行き来している。でも、決して歩けないほどじゃない。平日でこれだったら休日は、もっと人でごった返して身動きがとれなさそうだ。
渡月橋は、嵯峨野と嵐山を隔てて流れる桂川に架かる橋で木造でできている。
渡月橋を歩いていると、水の流れる音が聞こえて清々しい気持ちになる。まだ少し早いがもう一、二か月したら山が紅葉して景色が見ごたえあるだろうな。それに、春は多くの桜が見えるらしい。
今度はそういうときに見に行きたいな。できれば明日香と一緒に。
チラッと明日香を見ると、僕が見てることに気付いたのか明日香も振り向いた。
「翔琉君。どうかした?」
「い、いや、何でもないよ」
「そう」
明日香は、気にすることもなく視線を周りの景色に戻し、楽しんでいる。
それからほどなくして、渡月橋を渡ると、大阪に向かうことにした。周りに気になる店もあるが、見てたら時間も無くなるし、学校に提出した計画書にある程度沿った行動しないとよろしくないだろう。
僕たちは、渡月橋から歩いて最寄りの嵐山駅に向かった。駅で六百三十円の切符を買って阪急電車に乗ること一時間少々。目的地に近い日本橋駅で下車した。
少し歩くと、道頓堀に着いた。
「ここが道頓堀か」
「テレビでしか見たことなかったけど実際に見るとやっぱいいね」
「ねえお腹空いたから食べよう」
アリスがお腹を押さえて主張してくる。確かに太秦で遊んでから何も食べてない。僕も思い出したように腹が鳴ってきた。
「じゃあさっそくたこ焼きでも食べに行くとしましょうか。ジャンジャン食べるわよ。どうせ一樹のおごりだし」
「ちっ! 覚えてたか」
「忘れるわけないじゃない。あー楽しみだわ。何にしましょうか」
「頼むからあまり高いのにするなよ」
加奈を追いかけるように一樹が歩いていく。
「あの二人仲がいいわね」
「昔からあの感じだよ」
僕たちも
それにしても観光地だからか多くの人々が行きかっている。埼玉ではあまり見ないような看板が多くありにぎやかだ。
うまそうな店が乱立していて、目移りしてしまう。
そして、たこ焼きの店を発見したので向かうと、少し行列ができていたのでその後ろに並ぶ。
やっぱ人が並んでるところは有名だろうから外さないだろうと思うのは僕だけだろうか。
少しして順番が回ってくるとメニューを確認する。六個入りが三百八十円だったので人数分注文して、できたのをさっそく食べてみる。
外はカリッとしていて中はジューシーで熱々だったがソースと鰹節に紅ショウガがアクセントになっていてあっという間に食べてしまった。なんか物足りないような気がするけど周りにはちょっとした食べ物が充実してそうだし困らないだろう。
そのあとも探索しながら歩いていると、大きなカニのオブジェが見える。テレビで見たことがあるかに道楽だ。
「せっかくだから撮ろう」
明日香がスマホで撮っている。僕もせっかくだから撮ろう。
「翔琉君、私も入れて撮ってくれない?」
「いいよ」
僕は明日香からスマホを受け取ると、かに道楽をバックに明日香がポーズをとる。
僕は全体が入るように調整してシャッターを切る。
明日香が撮った画像を確認してると、
「私たちも撮って」
加奈とアリスもスマホを渡してきて最後はみんなでバシャッと撮った。因みに近くにいる観光客がとってくれた。
「そうだ。かに道楽で気になってるものがあるから買っていい?」
「えっ、さすがに高いんじゃ」
「大丈夫。そこまで高くないから」
僕たちは、半信半疑のまま明日香についていった。
「よかった。まだあった。これ食べてみたかったんだよね」
そこには看板に大きくかにまんと書かれていて写真を見ると、蟹の身がびっしり入ってるのがわかる。しかも、ふんだんに蟹を使ってるのにもかかわらず、値段はワンコイン五百円という破格の安さだ。
「うまそう」
僕が思わずつぶやいたのが明日香に聞こえたのか、
「そうでしょ。ちょっと前にテレビでやってるのを見て気になってたんだよね。しかもこの店限定なら食べるしかないでしょ」
みんなで一個ずつかにまんを買って食べてみる。
身がびっしりあるせいか蟹の風味を感じられて少し入っているかにみそがアクセントになっている。半分ぐらい食べたところでレジでもらったキューピーのからしマヨネーズで味変をして食べた。カラシのピリ辛にマヨネーズが何ともいえない感じにまとわりついて蟹にもマッチして予想以上にうまかった。この近くに住んでいたら家に何個か買って帰りたいぐらいだ。
みんなも大変満足したようだ。
それから少し歩くとえびす橋に着いた。この場所はよくテレビで道頓堀から中継する場所だ。グリコの看板の見える。周りを見るとスマホで撮ってる人や観光客に僕たちと同じような学生が多く行きかっている。
「そういえば昔この場所でカーネル・サンダースの像、投げ捨てたらしいよ」
「カーネル・サンダースってケンタッキーの?」
「うんそうだね」
「見る限り道頓堀って水がきれいじゃなさそうだけど大丈夫なの。それに誰が捨てたの」
「え、そういえばだれだったけ」
僕は明日香にうんちくを話すつもりだったのに肝心なところを忘れてしまった。何だったけ? うーんと頭を悩ませてると一樹が答えてくれた。
「一般の人だよ。たしか、その年に優勝した阪神タイガースのファンが興奮して投げ捨てたんじゃなかったかな」
「それって器物破損じゃないの」
加奈がもっともなことを言う。
「
確かにアリスが言うように罰が当たりそうな気がする。
「罰は当たったと思うよ」
「というと?」
「その次の年から阪神の優勝は遠のいたらしい。その証拠に十年以上優勝してないから本気で怨念とか祟りだと思ったかもな。そのせいなのか数年前に引き上げたみたいだからな。そのあとはまた優勝したようだし」
一樹の話を聞いて思ったことは、物は大事にしようと誓った。祟りとかあるかわからないけど、罰当たりなことはしないに越したことはない。
それから三十分ほど歩いて通天閣に向かった。道中見かけたアニメイトに僕と明日香が吸い込まれそうになったが、そこは、一樹と加奈に引っ張られ入って時間を取られることはなかった。ちなみにアリスは目当てのガチャガチャがあったのか僕たちがやり取りしてる間に回して目当ての物を一発で当てたようだ。それにしてもアリスは相変わらず抜け目がない。
なんやかんやで通天閣本通商店街に着いた。ここも人がごった返していていつ
「明日香」
「何?」
僕がそっと出した右手を見つめる明日香。
「逸れたらいけないから手をつなごうか」
「う、うん」
明日香がぎこちないながらも僕の手を握る。恋人つなぎだ。まだ慣れないけどこれは慣れていくしかない。それにしても僕から言ったことだけど明日香の手を握ってると思うと緊張してて汗をかきそうだ。明日香が不快じゃなければいいけど。
「お前ら。あんまり人目を気にしなくなったな」
「一樹も加奈とすれば」
「えっ! それはだな――」
「――私たちはそういうのをやるガラじゃないから。ねっ、一樹」
「そ、そうだよな。そういうのは俺たちには合わないもんな! ・・・・・・はー・・・・・・」
一樹は溜息を吐くようにがっかりしている。本当は加奈と恋人つなぎしたいんだな。長年幼馴染だったからいざ恋人になってもそういうことをするのにハードルが高いのかもしれない。まあ、がんばれ!
心の中でエールを送った。
歩き出すと左手の方に重りを感じる。
「私ともつなごう!」
アリスが手を握ってきた。
「え、何で」
「だってアスカとつないでるじゃん」
「それは恋人同士だし逸れると困るから」
「私だって逸れるかもしれないじゃん」
「そういわれても」
明日香をちらっと見るとふくれっ面で断れと無言の圧力を感じる。
ここは心を鬼にして断ろうとすると、何やら声が聞こえてきた。
「何? 修羅場?」
「両手に花とはいいご身分だな」
「二股でもしてたのかしら」
「最近の若い者はねえー」
周りからそんな声が聞こえてくる。ねたみや嫌味なんだろうけどあらぬ疑いが
僕はその場を逃げるように二人と手をつないだまま早歩きした。アリスはうれしそうな表情を浮かべ、明日香はしょうがないわねというような表情をしていた。
どうにか通天閣の前に着くと、チケット売り場のところにタマちゃんがいて展望台に上がるチケットを用意していて一足先に来た一樹たちが受け取ったようだ。
「お前たち。何だ、それは? モテない私への当てつけか」
タマちゃんに言われて未だに手をつないだままだったことを思い出してすぐに手を離した。
「いいよな、お前たちは楽しそうで。私だって彼氏を作ってこういうところにデートしに来るの憧れなんだぞ。なあ教えてくれ。何で私はモテない?」
「そんなこと言われても」
明日香も何も言えず困った表情をしている。
一樹と加奈はわれ間接というようにそそくさと言ってしまう。
なんか酔っ払いに絡まれた気分だ。
それにしてもタマちゃんは二十台だし見た目は贔屓目なしに美人の部類に入ると思う。それなのに今までモテなかったのはこういう態度がうざいからなんじゃ。
これを正直に言うのも引ける。なんかやんわりと伝える方法はないだろうか。
「よし決めた! 星宮、年上の女性に興味がないか」
「えっ!? 何ですか、急に」
「私もお前のハーレムに加えてくれ。二人が三人になっても大差ないだろ?」
「いやいや、何言ってるんですか。教師が生徒を誘惑しないでください! それにアリスとはそういう中ではないですし、僕の彼女は明日香だけですから」
はっきり言った。これで引き下がるだろうと思っていたら、
「それでもいいから、愛人でかまわないから」
あまりにも必死なタマちゃんを見てるとなんて醜いことだろう。
「先生、冗談はそれぐらいに――
「冗談じゃない。私は真剣だ」
「先生?」
「――ひっ!! はい」
明日香の剣幕にタマちゃんが縮こまる。僕も蹴落とされそうだ。それぐらい迫力があった。
「行くよ。翔琉君」
動けずにいるタマちゃんをしり目に一樹たちのところに向かう。
それにしてもこれからどんな顔をして会えばいいんだ。タマちゃんは担任だから顔を合わせないわけにはいかないしどうすれば・・・・・・
「何やら面白いことになってたわね」
一部始終のやり取りを見てたのか加奈がそんなことを言ってくる。
「加奈ちゃん、何も面白くないけど」
「いやそんなことないって」
「加奈ちゃん?」
「そ、そうだよね。面白くないよね」
加奈も明日香の剣幕にビビってるようだ。加奈としては面白がっていじり倒そうとしたけど、藪蛇をついてしまったようだ。
それにしても明日香の顔をまともに見ることができない。表面上は笑ってるように見えるけど、絶対怒ってる。美人が怒ると本当に怖いことを身を持って体験した。その元凶であるタマちゃんを恨まずにいられなかった。そのせいか、さっきまで気になってたことは頭の中からすっぽり消えていった。
さっそく展望台に行くエレベーターに向かっていると通天閣の下にある大天井には絵が描かれていていた。それを見ながら歩いてエレベーターに乗り込み、展望台がある四階に向かった。
エレベーターを降りると、全面ガラス張りで大阪の街並みが良く見える。景色を眺めて、観光地によくある双眼鏡も設置してあったから覗いてみては、何か見えないかと角度を変えていろいろ探した。
次に五階の展望台に向かうと、ところどころに金で装飾されている展望台だった。黄金の展望台だった。
因みにこのころの明日香はいつも通りの穏やかな明日香に戻っていてホッとした。景色を見てる間に怒りが鳴りを潜めたようだ。
金で装飾された台座に何か飾ってあった。僕は知らなかったけど、ビリケンさんっていうらしい。よくわからないけど、ご利益がありそうな気がして、僕たちは軽く撫でた。そして、外にも出れるようなので、インフォメーションカウンターで五百円払って受付を済ませたら、階段を登って屋外へ出る。周囲に眺望を遮る物がなく、程よく流れてくる風が心地よい。そして景色を見てる分にはいいけどうっかり下を見てしまうとまあまあの高さに縮こまる思いをした。
一通り楽しんだ後は、二階に降りて、お土産に何かいいのがないか物色した。その際にキン肉マンの等身大のフィギュアが鎮座していて思わずスマホのカメラに収めた。
地下にもアンテナショップが入っているみたいだけど、時間がないので本日最後の目的地である大阪城にタクシーで向かった。大阪城に着くと、入場料を払って天守に上った。なんか城だとほかの広壮な建物から見る景色と違うような気がしてくる。
大阪城を満喫したら、僕たちは、タクシーで新大阪駅に行き、そこから贅沢にも新幹線で京都駅まで戻った。
ホテルに戻って、食事と入浴を済ませた後の自由時間は、前日と違い、特に遊ぶことなく、疲れを残さないためにも早めに就寝した。
明日は、メインイベント、ユニバーサルスタジオに行く時が来た。楽しみすぎて、ちゃんと寝れるか不安だと、小学生が遠足の前日に寝れないような気分を味わいながら夜は更けていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます