第100話 太秦映画村に到着。

 僕たちは、京都駅から電車に揺られること、二十七分。最寄り駅の花園駅で下車し、そこから歩いて十五分ぐらいで目的地である東映太秦映画村に着いた。

 まずチケット売り場に向かうと、入場券とアトラクションパス付入場券があり、僕たちは、アトラクションも遊びたいので千円ほど高いけどアトラクションパス付入場券を人数分買った。飲食以外にかかるお金は、学校に申請すれば経費で落ちるのであんまり懐が痛まないのもあるけど。こういう時は、私立の学校に入ってよかったと思う。

 中に入ると、


「せっかくだから着物着てみたい」

「あ、いいわね」

「私もコスプレしたい」


 明日香と加奈が浴衣をレンタルしたいらしい。アリスは着物を着るのもコスプレって言ってるけどそうなのか。コスプレって言われればそうなのか・・・・・・うーん、よくわからん。考えを放棄していると、


「私たち着物をレンタルしに行くけど、翔琉君たちはどうする?」

「僕はいいや」

「俺もパス」

「じゃあ、私たちレンタルしてくるから少し待っててね」


 明日香たちが建物の中に入っていって、僕たちは外で待っている。その間、周りを見ていると同じように着物を着ている人や時代劇の衣装を着ている人が多くみられる。しかも何人かの人に話しかけられたが、かつらまでかぶっていると名乗られるまでだれかわからなかった。僕が、あんまりクラスメートの顔を把握してないだけかもしれないけど。その証拠に一樹はわかってみたいだし。

 そうこうしてる間に十分ぐらいたったけど明日香たちはまだ出てこない。着物の着付けに時間がかかってるのだろうか。


「おまたせ」


 明日香たちが出てきた。僕は、明日香の姿に目を奪われて何も言えなかった。

 明日香の恰好は、涼しそうな淡い色に紫色の花がちりばめられた模様が入っていて、帯にもミントみたいな色の花が入っていてとても涼しそうだ。そして、長い髪は後ろで束められていてうなじが見える。普段見ないせいかドキッとしてしまう。


「翔琉君。どう? 似合ってるかな」

「うん。とてもかわいいよ」

「そ、そう。ありがと」


 明日香が恥ずかしそうに手をもじもじしている。


「翔琉。私はどう」


 加奈の恰好を見ると、明日香と違って情熱的な赤色の花がちりばめられていて帯も赤だからとても目立つ格好だ。


「いいんじゃないかな」

「明日香は褒めてたのに私には他人事じゃん」


 それは、彼女を一番にほめなくてはダメなんじゃなかろうか。


「いいもん。一樹に褒めてもらうから」

「似合ってるんじゃないか」

「えー、そんだけ。翔琉みたいにかわいいって言ってもばちあたらないよ」

「あんなバカップルと一緒にするな。こんな人前で恥ずかしげもなくそんなこと言えるか。バカ」

「あー、バカと言った方がバカなんですー」


 一樹と加奈がじゃれあってる。傍から見るとあの二人もバカップルなんじゃ・・・・・・。それにしても僕たちはバカップルに見えてるのか。まあいいか。僕は明日香をほめてあの恥ずかしそうな顔を見れれば満足だからな。もしかしたら僕ってドエスなのかもしれない。

 僕は、明日香と加奈を見てアレッと気づいた。


「ところでアリスは?」

「アリスは向こうで――」


 明日香が答えようとしたところで、


「――カケル! 待った」


 背後からアリスの声が聞こえたので振り向いた。


「アリス、遅かっ――」


 僕は台詞を途中で止めてしまった。それもそのはずだ。アリスも着物を着てくるものだと思ってたのに時代劇に出てくるようなお姫様の恰好をしていたのだ。まさか、着物のことをコスプレって言ってると思ってたのに本当にコスプレしてくるとは思わなかった。しかも、アリスは外見がいいからとても似合ってる上にどこかはかなくて守ってあげないとと庇護欲ひごよくをそそられる。


「カケル。見とれちゃった?」

「あーうん。とても似合ってるんじゃないかな」

「やったー! カケルに褒められた―!!!」

「ちょっ!」


 喜んだアリスに腕を取られ抱きしめられる。


「二人とも、くっつぎすぎ!」


 その様子を見た明日香が僕たちを引きはがす。その時の顔は少し怒ってるようだ。


「こ、こんなところにいつまでもいないでどこか行こうよ!」


 僕はその空気を紛らすように声を張り上げて明日香の手を握って歩き出す。横目にちらっと明日香の顔を窺うと、しかめっ面だった顔が段々とにやけてきている。僕はすかの表情が和らいだことで手を握った効果があったと内心でガッツポーズした。

 さっそく歩き出したところに人だかりが見え、何やら声が聞こえる。どうやらイベントをしているようだ。

 僕たちはその場所に行くと、大道芸人が、南京玉すだれをしているところだった。

 気になってウィキペディアで南京玉すだれを調べたところ、一人の演者が長さ20 - 30数センチメートルの竹製の小型のすだれ(簾)を持ち、唄にあわせて踊りながらすだれを変化させて釣竿、橋、しだれ柳、旗などに見立てる。演者が持つすだれの名称と書かれていた。


 大道芸人が次々に簾の形を変えていく。


「さてさてさてさて さては南京玉すだれ

チョイと伸ばして チョイとひねれば

越すに越されぬ 箱根の関所

関所が お目にとまれば

炭焼き小屋に早変わり

炭焼き小屋が お目にとまれば元へと直す」


 演目が決まると、割れんばかりの拍手が起きる。


 それからもいろんな演目が続き、どれも目にもとまらぬ速さでいいものを見さしてもらった。アリスなんて、感動したあまり、大道芸人のところでじかに感想を述べてすこし、簾を触らせてもらって楽しんでいる。

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