第98話 僕と明日香は周りからバカップルって認識されてるらしい
「――まじか」
「――リア・・・・・・」
「ほろ・・・・・・」
何か話声が聞こえてくる。
「うーん・・・・・・」
僕は重い瞼を開けた。瞼をこするように起き上がると、
「お、起きたか。あと十分ぐらいで夕食の時間だぞ」
僕は時計で時間を確認するとどうやら五十分ぐらい寝てたようだ。
「それで何を騒いでたの?」
僕はところどころ聞こえてきた気になる内容を聞いた。
「何でも、夜の自由時間に姫川が彼女とよろしくするんだってよ」
「しかも、夜景スポットでデートするらしい。リア充爆発しろっ!!」
そう言っているこの二人は姫川君と同じ班にいる・・・・・・名前なんだっけ。どうしよう。いまさら聞けない。これが新学期が始まった四月ならまだしも半年たった今ではとても・・・・・・僕は「そうなんだ」と適当に
だけど、それが良くなかったのか、
「彼女持ちは余裕ってことですか」
「俺たちの気持ちなんて誰にも理解できないんだ」
「やってられるか。さっさと飯食いに行こうぜ」
二人は若干涙目になりながらも食堂に向かって行った。
部屋に残された僕たちは、
「彼女とうまくいってるようでよかったね。姫川君」
「ありがとう」
「でもほどほどにしておけよ。じゃないと翔琉みたいにバカップルに見られるぞ」
「えっ、僕ってバカップルに見られてるの」
「自覚なかったのか」
「僕と明日香ってバカップルじゃないよね。姫川君?」
「ははは。俺も食堂に行こうと」
「翔琉も早く来いよ」
苦笑いする姫川君と一樹が逃げるように部屋を出る。僕もすぐに準備すると、
「待ってよ、二人とも!」
僕はカードキーを持って一樹たちを追いかけた。このホテルの部屋はオートロックなのでどんなに慌ててもカードキーだけは忘れるわけにはいかない。部屋に入れないという間抜けをさらさないためにも。
そして、食堂に行くと、その場所は多くの宿泊者が利用するため大広間になっている。だけど、この時間帯は僕たちの学校の貸し切りだ。食事は、班員同士で食べるため僕たちの席を探していると、明日香たちがもう席に着いて僕たちに気付いて手を振っている。
それから食事を堪能しつつ世間話をした。
「そういえばさっき部屋を出るときに言われたんだけど僕と明日香ってバカップルって言われたけど違うよね?」
「えー、そんなことないよ。ごく普通のカップルだと思うけど・・・・・・あ、翔琉君、ほっぺにご飯粒ついてるよ」
「え、どこ?」
「取ってあげるね」
明日香は身を乗り出して、僕のほっぺについてるご飯粒をつまむとごく自然な動きでそのまま自分の口に運んだ。
「うまいね」
そして、あんだけ騒がしかった食堂が静寂に包まれて心なしかみんなの視線が僕たちに集まってるような・・・・・・
「そういうところがバカップルって言われる要因だぞ」
「私もさすがにそこまでの行動とれないわ」
一樹の指摘と加奈の冷静な突込みに、僕と明日香は今更ながらみんなの前でとんでもない醜態をさらしたと思い、この後はお互いに会話もなく無心に料理を食べつくした。恥ずかしさのあまり味がよくわからなかった。
この後は、お風呂の時間なので部屋に戻り着替えやタオルの準備をしてすぐに大浴場に向かってこの火照った身体をシャワーで洗い流したかった。
体を洗い、湯船につかりながら天井をボーと眺めていると精神が落ち着いてきた。一緒に入っているクラスメート達もこの話題をだれも出さないことが功を奏したのかもしれない。本当にいいクラスに恵まれたとつくづく思う。
そして、このホテルにはサウナも完備してるっていう事で一樹たちと入った。
中に入ると木でできた長い椅子に腰を掛けた。ジッとすること数分、なんか息苦しいような感じがして出ようと立ち上がると、一樹が物足りないのか焼き石に水をかけていた。僕は一足先にサウナ室を出た。でたら空気が上手いような感じがした。時計を見ると、あんまり入ってなかったと思ったけど七分ぐらいサウナ室にいたようだ。
僕はかけ湯でサウナでかいた汗を洗い流すと、そのまま水風呂に入った。
「冷たっ」
ジッとしてるとあんだけ冷たかった水風呂にも慣れてきた。水風呂を出ると近くにあったチェアに寝そべり外気浴をした。あと、水分補給もした方がいいらしいので水を飲むことも忘れない。しかもこの大浴場には水飲み場が完備されていて至りつくせりだ。十分休むとまたサウナ室へ。これを三セット繰り返した。
一樹たちはととのったみたいだけど僕はととのうということに対して実感がなかった。また機会があったら試してみよう。
満喫した僕が部屋に戻ると、すれ違いざまに姫川君が部屋を出て行った。今から、彼女と逢引きだそうだ。そして、部屋の奥には姫川君の班員の二人が「リア充なんて滅んでしまえ」やら「何であいつばかり・・・・・・」とブツブツと負のオーラをまき散らしていた。僕はそっちを見ないようにしながら、一樹のところに言って、
「今からどうする?」
「一応トランプなら持ってきたけどやるか」
「この人数で」
「あいつらも入れれば四人だからどうにかなるだろ」
コンコン
部屋がノックされた。誰かが訪ねてきたのかな。姫川君が忘れ物を取りに戻ってきたのかもしれないし。
一樹が部屋を開けると、
「遊びに来たわよ」
その声とともに入ってきたのは、加奈と明日香とアリスの三人だった。三人とも風呂上りなのか髪からいい匂いが香ってくる。
「あ、いいところにトランプあるじゃない。定番だけどみんなでババ抜きでもしない」
一樹がトランプをケースから出すとシャッフルしている。
「そんな隅っこにいないで石川君と柳君もこっちで一緒に遊ばない?」
「「えっ、いいの」」
「人数は多い方がいいし大歓迎よ。それにみんなで遊んだほうが楽しいし」
加奈の言葉がうれしかったのか、姫川君の班員の二人、石川君と柳君はさっきまでの暗かった表情が嘘のように明るくなっている。
それにしても二人の名前、石川君と柳君っていうのか。忘れないようにしよう。自信ないけど。
「おい、加奈には手、出すなよ!」
「わ、分かってるって」
心なしかデレデレしている二人に一樹にしては珍しくドスの利いた声で脅している。
「なーに、一樹、嫉妬してるの」
「そ、そ、そんなんじゃねえし!!」
加奈にからかわれたのを誤魔化すようにシャッフルしたトランプを配る。
それから五回戦までやったところで就寝時間の二十二時が近づいてきたためお開きになった。ちなみにそのうちの四回はアリスが負けだった。その理由は、ジョーカーを手にしたとたん、表情にものすごく表れていてわかりやすかったから誰もジョーカーを引くことはなかった。あとの一回は、たまたまジョーカーを手にする前に上がったからだ。それにしてもあんまりにも分かりやすかったから途中からわざとかなと変に警戒してしまった。
明日香たちが部屋に戻った後で布団を敷いていると、石川君と柳君が、
「お前たちのおかげでいい思い出ができた。ありがとう」
大げさなと思ったけど昔の自分も同じことを考えそうなので感謝はありがたく受け取った。
姫川君が戻ってきたのは布団を敷き終わった後、就寝時間一分前だった。彼女とは十分お楽しみだったようだ。
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