第95話 千本鳥居は思った以上に迫力満点だった
京都駅に着いたら宿泊することになる駅近くのホテルに向かう。何でも学園長の親族が経営してるそうだ。
そして、ホテルのロビーにみんな集まったところで、僕たちに引率している教師の中から教頭先生が連絡事項を伝える。
「これから、それぞれの部屋に荷物を置いたら好きに動いてくれて構わないが、ちゃんと予定通りに動くこと。それから、各班に私たち教師陣と連絡するための携帯電話を渡すから、何かあった場合はすぐに連絡するように。以上、解散!」
みんなそれぞれの部屋に向かう。
「じゃあ、準備できたらロビーに集合ね」
「了解」
明日香たちは三階へ、僕たちは二階に向かう。男子は二階、女子は三階に泊まることになっている。ちなみにそれぞれの部屋に遊びに行っていいが、就寝時間には自分たちの部屋に戻ってなくてはならない。この甘いルールは、僕たちを信用してるってことだからそれを裏切ってはならないと心がける。
僕は一樹と泊まる部屋を開けると中はなかなかの広さだ。
部屋の隅に荷物を置いてると姫川君たちの班も部屋に入ってきた。一部屋、五人から六人でわかれているため僕たちは姫川君たちと同じ部屋割りだった。
「今日からよろしく、二人とも」
「こちらこそ」
準備が終わったのか姫川君たちは、
「僕たちは先に行くから」
「分かった。鍵はかけておくよ」
姫川君たちが部屋を出て数分後、僕と一樹は部屋の鍵をかけてフロントに向かう。ちなみに部屋の鍵は、カードキーでオートロックのため部屋に忘れたまあ外に出ると入れなくなるため気を付けなければならない。
フロントに着くと、明日香たちはまだ来てないようだ。フロントに鍵を預けて近くにあるソファーに座ってくるのを待つ。周りには同じように待っている生徒がチラホラ見える。
待つこと数分———
「お待たせ」
明日香たちが来た。
「遅くなってごめんね、翔琉君」
「そんなことないよ」
なんか視線を感じて振り向くとみんな僕たちを見てる。いや、僕たちというより明日香たちの方を見てるんだろう。いつも一緒にいるからすっかり忘れてたけど、三人そろうと、アイドル顔負けの美しさだ。見とれるのは無理ない。何人かの男子生徒は、女子生徒に小突かれたりしている。このあと、喧嘩してなければいいけど。せっかくの校外学習なのに台無しにしたくないもんな。僕もほかの女子に目移りしないように気を付けよう。明日香以上の人が現れるとは思えないけど。
「か、翔琉君、そんなに見つめられると恥ずかしんだけど」
「えっ、ごめん」
どうやら無意識に明日香を見つめていたようだ。
僕たちがホテルを出ると、加奈が、
「とりあえずどこかで食事をしない」
スマホで時間を確認すると、午後一時を回るところだった。
「そうだな。どこかで食べるか。何か食べたいものあるか?」
「どうせなら京都ならではのものが食べたいかも」
「私もそれがいい」
一樹の質問に明日香が答えてアリスが同調している。この二人、いつこんなに仲良くなったんだろう。この前の球技大会で何かあったのかな?
「翔琉はどうだ?」
一樹の問いに思考が現実に戻される。
「うーん、僕も明日香と一緒かな」
「それじゃ、どこか近くで食べるか」
「この後伏見稲荷大社に行くからそっちの方に行けば何かあるんじゃない」
「そうだな」
僕たちは、伏見稲荷大社までは少し距離があるので京都駅から電車に乗ることにした。調べたら、奈良線に乗って三駅目の稲荷駅が最寄りのようだ。料金は百五十円で所要時間は五分だ。
目的の駅に着くと、目の前に伏見稲荷大社と書いてあり、大きな鳥居がそびえたっている。どうやら表参道のようでこのまま向かうと本殿までつながってるようだ。僕たちは、本殿に向かう前に近くに飲食店がないか探した。
「そこにラーメン屋が見えるけどどう?」
「いいんじゃない」
「お腹減ったから何か食べたい」
反対意見もないようなのでみんなで近くのラーメン屋に入る。
メニューを見ると、サーモンを使用したラーメンらしい。みんな気になったのか同じラーメンを注文した。
みんなでおいしくいただいた。
店を出ると、時刻は午後一時四十五分だった。
表参道を歩いて伏見稲荷大社の本殿に向かう。参道を抜けると、赤い鳥居が見えてきてお辞儀してから左端を歩く。
そして、その先には桜門と呼ばれる建物が見えてきた。軽くお参りして本殿に向かう。
見てるとなんかパワーがみなぎってくるようだ。
「なんか空気いいかも」
「装飾綺麗」
「何でも重要文化財らしいよ」
「そうなんだ。翔琉君詳しいね」
「このパンフレットに書いてあるんだよ」
僕はパンフレットをみんなに見せる。
「翔琉、パンフレットなんか持ってたか?」
一樹が疑問に思ったのか言ってきた。
「さっきのラーメン屋に置いてあったんだよ。せっかくだから記念にもらっといたんだよ」
「抜け目ないな」
「因みにマップも載ってて、千本鳥居はすぐらしいよ」
みんながのぞいてくる。
「ほんとだ。この先にもいくつか建物がありそうね」
「全部見てたら時間が足らないかも」
「そうね。とりあえず目的の千本鳥居を見に行くわよ」
加奈の言う通り、伏見稲荷大社に来た一番の目的は、千本鳥居を見るためだ。それに、この後の予定は金閣寺を見に行くことになっている。提出した計画書にそらないといけないためあんまり長居できない。
さっそく千本鳥居にむかった。
千本鳥居が見えてくると圧巻だった。いくつもの鳥居が所せましに並んでいるのだ。本当に千本あるかわからないが見ごたえがある。スマホを取り出して思わず写真に収めた。みんなも写真を撮っていると、
「みんな楽しんでるみたいだな」
そういって声をかけてきたのは、僕たちの担任であるタマちゃんだ。
「あ、タマちゃん」
「おい、白鳥。外ではちゃんと先生と呼べ。でないと示しがつかないだろうが」
「そういわれてもね。タマちゃんはタマちゃんだし。明日香もそう思うよね」
「ははは・・・・・・」
ふられた明日香は苦笑いする。
「はー、まあいい。せっかくだから千本鳥居をバックに写真を撮ってやる。そこに並べ」
タマちゃんは、加奈のもの言いに諦めたようにため息つくと、首に下げていたデジカメを構える。
「そのカメラ、タマちゃんの私物?」
「これか。これは学校の物だ。こういうイベントごとにっ写真を撮って、お前たちの卒業アルバムに載るんだ。まあ、先生たちで吟味して仕分けるから全部というわけにはいかないけどな」
さっさと並べと手で指示するタマちゃんに加奈が提案する。
「せっかくだからタマちゃんも一緒に撮ろうよ」
「これは生徒のための撮影だ。私が一緒に写るわけにいかないだろう」
「そうかな。中学の時の卒業アルバムは教師も一緒に写ってるのあったと思うけど。あったよね? 一樹」
「どうだったかな。俺あんまり卒業アルバム見てないんだよな。翔琉は?」
「言われてみたら、写ってるのあったかもね。僕もそんなにじっくり見てないけど」
「これだから男子は」
加奈が呆れたように僕たちを見る。
「とにかく固いこと言わずに生徒の頼みだと思って」
「そういわれても、カメラを固定する三脚がないし、このデジカメのタイマー機能のやり方も分からないから今回はあきらめてくれ」
「それなら近くにいる観光客にでも頼めばいいのでは」
明日香の助言にタマちゃんの表情が固まる。どうしたんだろうか。
「恥ずかしいじゃないか・・・・・・」
タマちゃんが何か言ってるけど小声で聞き取れない。
「私が頼んできてあげる」
「ちょっ、待っ———」
タマちゃんの制止も間に合わずアリスが駆けて行って、近くにいた観光客に話しかけている。しかも観光客は外国人でアリスは流暢に英語で話している。アリスが帰国子女のなことを思い出させる。
「ああやって、外国の人と話せるのいいね。私も英語しゃべれるようになりたいな」
「明日香、外国に行きたいの?」
「そういうわけでもないけど、アリスが外国の人と話してるのを見たら私も話してみたいなあと思って。それに二年になったら、校外学習の行き先に外国が入ってくるし、どうせなら現地の人とコミュニケーションとってみたいなあって」
「確かに話せたら、将来の役に立つかもしれないからいいかもね」
明日香と話してると、アリスが戻ってきた。
「写真撮ってくれるって」
カメラを渡して、みんなで千本鳥居をバックに並ぶ。明日香たちは、ポーズをとっている。それやんないとだめ。恥ずかしいんだけど。僕は無難なピースサインだけ作った。その横にタマちゃんが立っているけど表情が硬く、いつもの頼もしい姿に見えなくて覇気がない。写真を撮るのはいいけど取られるのは苦手なんだろうか。なんかそんなタマちゃんの姿を見てたら緊張するのがばかばかしくなってきた。いい意味で体がほぐれた僕は、明日香たちに合わせるようにポーズを決める。
「トリマスヨ」
外国人が
写真が撮り終わると、外国人にお礼を言ってデジカメをタマちゃんに返す。
デジカメを受け取ったタマちゃんはぶるぶる震えたかと思うと、「お前たち覚えてろよー」と、捨て台詞を吐いてどこかに走り去ってしまった。
「何だったんだ」
「さあ」
僕たちは気を取り直して、千本鳥居をくぐる。そして、その先にある奥社奉拝所の右側後ろにあるおもかる石を試したりして楽しんだ。
そして、次の目的地に行くため駅に戻っていると、裏参道を見つけたのでせっかくならと少し歩いた。
「あ、見て。このキャラクターかわいくない」
アリスが興奮したように言う。
「本当だ。ちいかわの店がこんなところにあったんだ」
そこは、ちいかわの雑貨屋のようでキャラクターをデザインしたお玉や水筒などが売られている。
「ちょっとだけ見てもいい?」
明日香が聞いてくる。アリスも行きたそうだ。
加奈が時間をみて少しならいいかと十分間ぐらい寄ることにした。
そして、みんでお揃いの携帯ストラップを買ってみんなでさっそくスマホケースに取り付けた。
そしてストラップを眺めながら実感した。もしかして僕は今青春してるのではないかと。僕にもどうやら来たようです。青春時代が。———アオハル———が・・・・・・
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