第94話 みんな、駅弁に目がない

 二週間はあっという間に過ぎ、校外学習に行く当日の朝を迎えた。前日に準備した持ち物をもう一回確認して、スーツケースをもって、玄関に行く。時刻は、朝六時を回ったところだ。


「翔琉、忘れ物ない?」

「確認したから大丈夫だよ」


 母さんとやり取りしてると、欠伸あくびをしながら妹の葉月が二階から降りてきた。


「ふぁ~、お兄、もう行くの?」

「眠いならまだ寝ててもいいのに」

「ちょっと喉渇いたから水飲みに来ただけ。そうしたらもうちょっと寝るよ。学校行くまでまだちょっと時間あるし」


 僕が靴を履いていると葉月が思い出したように言ってくる。


「お兄、お土産よろしく。できればUFJのグッズがいいなあ」

「分かった。一応考えておくよ。だけどあまり期待しないでね」

「分かった。でもいいなあ。私もUFJ行ってみたいなあ」

「葉月も僕と同じ高校受かったら、来年いけるんじゃないか。でも球技大会で優勝しないといけないかもしれないけど。

「私は、球技は問題ないと思うけど、そうだね。入試が受かれば一年後の今頃、私も行ける可能性があるかもしれない。そう考えるとモチベーションが上がったかも。こうしちゃいられない。学校行く時間まで受験勉強してくる」


 葉月は自分の部屋に戻っていった。やる気があっていいことだ。それにしても水を飲まないで戻っていったけどいいんだろうか。ま、どうせ後で思い出したように水を飲みに行くだろうけど。


「行ってきまーす」

「行ってらっしゃい。私にも何か買ってきてね」


 母さんに見送られて家を出た。



 春日部駅のホームに着くと、時間がまだ少し早いからか人はそれほど多くはない。まもなくしてきた電車に乗り、越谷駅でいったん降りる。そして、自動改札の近くで待っているとほとなくして明日香が改札を通て来た。


「ごめん、翔琉君、待った?」

「いや僕もさっきついたばっかしだから」

「ならよかった」

「じゃあ、行こうか」


 そして、僕たちは電車に乗り北千住で乗り換えのために降りた。途中、草加駅でまあまあの人が乗ってきたときは通勤ラッシュにはまるのは嫌だなあと思ったけど、ここまでは何とかたどり着いた。乗り換えのためとはいえ、日比谷線乗り場まで行くのがめんどくさい。

 それから、上野駅でJRに乗り換え、東京駅に着いた。


「明日香って朝食べた?」

「朝は時間なくて、バナナを一本食べただけかな」

「ならまだ少し時間あるし、何かないか見に行ってみない?」

「いいよ」


 僕たちは、なんかないかと思って、食べ物を探しに駅弁がいっぱい売っている店に向かった。そこには、みんな考えることが一緒なのかサラリーマンに交じって、同じ学校の制服を着た生徒がチラチラ見える。


「あれ、翔琉。お前も駅弁買いに来たのか。やっぱ旅には欠かせないよな」


 そこには、両手に駅弁をもって悩んでいる一樹の姿が見える。


「旅っていうけどただの校外学習だけどね」

「固いこと言うなって。お前たちも何か買いに来たんだろ?」

「まあね。一樹一人」

「いや、加奈もいるぞ」


 一樹が店内の奥の方を指差す。その方向を見ると、加奈が一生懸命吟味している。その隣にアリスもいてあーでもないこーでもないと言いていそうだ。


「僕らも見てみようか」

「そうだね」


 見て回るとさすがは東京駅というべきか。全国の駅弁が集まっている。こんだけあったら毎日一年中駅弁食べてもいけるんじゃないか。そう思えるほど種類が多い。

 今半に牛肉ど真ん中、峠の釜めしもある。定番だけど捨てがたい。それに海鮮がいっぱい入ってるのもある。迷う。どうするか。


「あ、カケル。見てみて駅弁がいっぱい」


 アリスが嬉しそうに駆け寄ってくる。両手にはいくつもの駅弁が。


「翔琉君、私これ———」

「アリス、そんなに食べたら太るぞ」

「私、太らない体質だから平気よ」


 そういってまだ選びに行ってしまう。聞く人が聞いたら怒られそうだな。


「明日香、今なんか言おうと———」


 明日香に話しかけられたような気がして振り向くとふくれっ面な顔をした明日香が手に持ってた駅弁を戻している姿が目に入る。


「それ食べたいんじゃないの」

「ふーんだ。デリカシーのない翔琉君には教えません」


 そういって、サンドイッチやおにぎりがある方に行ってしまった。


「そういうところだぞ」

「もう少し女心を学ばないとね」


 肩をポンとして一樹と加奈にそんなことを言われる。

 訳が分からん。


 僕は迷った末に今半の弁当を買って明日香の後を追う。そのあとは何がダメだったか聞こうとしたが、明日香は冗談だというみたいに僕の必至な顔を見て笑ってしまう。あんな怒ってなさそうでよかったと胸を撫でおろした。


 それからほどなくして、集合時間になったので新幹線乗り場に向かった。班ごとに整列して新幹線の切符が配られる。そして、東海道新幹線のホームに向かうと、乗る電車はもう来ていた。広島行きののぞみだった。切符に書いてある座席番号を探すと、班員で二列席と三列席にとこ一列で座るようだ。僕は窓側が良かったが、アリスに取られてしまう。すかさず反対側に行こうとするがそこには加奈が座ってしまう。その隣には一樹が。しょうがなくアリスの隣に座ってその隣の通路側に明日香が座った。僕は後ろに断りを入れてシートをちょっと下げた。みんな考えることは一緒で最初にシートをいじっている。

 新幹線が動き出して、新横浜駅を過ぎたところで、テーブルをおろしてさっき東京駅で買った駅弁を出す。

 みんなで談笑しながら駅弁を食べて、前の生徒にお菓子を貰ったりしておいしくいただいた。それからは富士山が見えたところで思い思いに写真を立ったり、トランプでババ抜きなどして過ごして、二時間ほどで京都駅に着くのだった。

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