第92話 カラオケでクラスメート達と交友を深める

 学校から移動して、大宮駅前にあるカラオケ館に来た。駅周辺には、いくつものカラオケ店があるが、金曜日ということもあってどこも学生であふれていてこの店たまたまだと思うがほかの店に比べて比較的すいていた。

 みんなで店に入ると、生徒の一人が率先してカウンターに向かった。大部屋がちょうど二部屋開いているってことで、僕たちはグループを二つに分けた。さすがに人数が十人以上いるしね。

 そして、チーム分けは交友を深める意味合いもあるということで親しい人とは別れてしまった。僕と同じグループは、加奈とアリスと球技大会で話すようになった姫川君だけだ。明日香も一樹もいない。明日香はなんだかんだで同性の友達が多そうだし、一樹は男女問わず人気がある。それに対して、僕はコミュニケーションをとるのは不安だ。しかも時間は三時間のコースを取ってある。他の人にとっては大したことないだろうが僕にとっては三時間以上に長く感じそうだ。あまりの緊張に腹がグルグル来そうだ。

 そうこうしてうるうちにみんな部屋に入ってしまう。


「星宮、こっちだ」

「あ、うん」


 男子生徒に呼ばれ部屋に入るとみんな思い思いの場所に座っている。これって人見知りにとってハードル高い奴だ。加奈を探すとその周りには人が群がってるし姫川君をみると女子生徒と仲睦なかむつましい様子だ。

 しかもよく見ると、あの女子生徒は球技大会でサッカーの決勝が終わったときに姫川君といい感じだった人だ。あの後から付き合いだしたんだろうか。だとしたら姫川君の隣に座るのは申し訳ない。そして、アリスはみんなから可愛がられている。助けてって視線を感じるが僕はあえて見ないことにした。そうなると親しい人がいなくなるわけで・・・・・・

 内心あたふたしてると、


「星宮君、ここ空いてるよー」


 女子生徒に声をかけられ座ると両サイド女子だらけでいたまれない。僕は、緊張のためかドリンクバーで入れてきたジュースを一気に飲む。


「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」

「そうそう」


 さっそく誰かが曲を入れ始めたのかスピーカー流れてくる。今はやりの曲だ。みんなが曲を入れていって僕のところに機械が回ってくる。とりあえず何か入れようと曲を探すが、僕はアニメの曲以外あんまり詳しくない。何か無難な曲がないかと探していると、


「星宮君、曲決まった?」


 隣に座っている女子生徒に声をかけられ、


「ちょ、ちょっと待って」


 僕は、急いで曲を転送して機械を渡す。


(咄嗟に選んだのアニメ曲だけど歌っている人は有名なJpopの人だから大丈夫だよね)


 しばらくすると、僕の出番が回ってくる。マイクを持って曲が流れるのを待つ。明日香と二人の時はそうでもなかったのにクラスメートとはいえ不特定多数の人がいると思ったら緊張する。コミュ症をなめんなよ。


 曲が流れ始めて画面を見ると僕は硬直した。

 その理由はどう見てもアニメ映像で流れ始めたからだ。どうやら選んだ曲はアニメ映像があったらしい。そこまで確認する余裕がなかった。どうしよう。アニメ曲なんてやったらみんなひかないかな。今は別の意味で不安がいっぱいだった。だけどみんなの反応は僕と思ってたのとまったく違った。


「あ、この曲知ってる」

「私このアニメ好きでよく見てた」

「俺もこれ好きだった」


 僕はみんなの反応が思ったより好印象で気持ちよく歌いきることができた。途中でみんなが手拍子で合いの手を入れたりしてくれて盛り上がった。

 ちなみに僕が歌った曲はコードギアス 反逆のルルーシュの主題歌でFLOWが歌っているCOLORSだ。

 そのあとも二曲ほど歌ったところで喉がイガイガしてきた。こんなに喉を酷使したのは初めてかもしれない。だけど嫌な気分じゃなく充実している。僕は空になったコップをもって部屋を出るとドリンクバーのコーナーに行く。


「何飲もうかな」


 飲み物を選んでいるとあることをひらめいた。


「せっかくだから全部入れて混ぜてみようっと」


 僕はコップにいろんなファンターにコーラ、それにジュース系をちょびっとずつ入れていく。するとちょっとよどんだ色になった。コーラが前面に出てきたみたいだ。その場で一口飲む。


「うまいな、これ」


 出来に満足していると、声をかけられる。


「翔琉君」

「えっ」


 振り向くと明日香がいた。その手には空になったコップを持っている。


「アスカもドリンクバー入れに来たの?」

「そんなとこ」


 明日香は僕が持っているコップに入っている不気味な色が気になったのかちょっと引いている。僕はすぐに説明する。


「あ、これ。せっかくだからいろんな飲み物混ぜてみたんだ。明日香もやってみる?」

「えっ、うまいの、それ」

「結構いけるから騙されたと思って」

「じゃ、じゃあちょっとやってみる」


 明日香はコップをセットする。


「量ってどれぐらい入れるの?」

「適当でいいけどそれぞれちょびっとずつがいいと思うよ。ちなみに入れるのは炭酸とジュース系だけにしといてね。コーヒーとか入れるとたぶんまずいから」


 明日香が入れた飲み物も僕と同じような色になる。

 明日香は勇気をひり絞るようにして一口飲む。


「結構いけるかも」

「でしょっ!」


 僕たちはしばらくその場で話をした。


「さっきから気になってたんだけど、翔琉君、ちょっと声、れてない?」

「ああ、何曲か歌ったからかな」

「そんなに歌ったの」

「みんなのノリが良くて楽しくなっちゃって、明日香はどう?」

「私は、一曲しか歌ってないかな。みんな歌を歌う事より話すことが多いみたいで私は人が多いところは得意じゃないし、その場を逃げ出すように飲み物の補充に来たんだよね」


 そういっておどけたようにベロを出す明日香の姿に目を奪われる。今にも抱きしめたくなる。ちょっと離れてたがけでこれって僕は明日香なしで生きていけないかもしれない。

 それからもしばらく二人で話をしていると、どれぐらい時間がたっただろうかというとき、視線を感じてその方向を見ると、壁の隙間からこちらを窺う視線が見える。その場にいたのは僕と同じ部屋の人たちだ。


「なかなか戻ってこないと思ったらこんなところで逢引きしなくても言ってくれればいいのに」

「明日香もなんだったらこっちの部屋に来る」


 加奈が率先して誘う。


「え、いいの」

「別にいいわよね」


 加奈はみんなを見まわすように言う。


「俺たちは構わないよ」

「私たちも橘さんとお話ししたいし」

「じゃあお言葉に甘えて」


 僕たちは部屋に行こうとしたとき一樹が来た。


「橘さん、なかなか戻ってこないと思ったら翔琉といたのか。みんなには言っとくよ」


 一樹はすぐに状況が分かったのかそれだけ言って部屋に戻っていった。


 それから僕たちは、時間いっぱいまで楽しんだ。僕は明日香と一曲ジュエットして今日一番盛り上がった。

 こうして、楽しい打ち上げという名のカラオケは幕を閉じたのだった。

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