第90話 気になる結果発表
僕は、クラスメート達が喜んでるのを見ながら明日香をねぎらうため一回に降りようとしたら声が聞こえたので思わずそっちを見る。
「姫川君、キーパーかっこよかったよ」
「ど、どうも・・・・・・」
客席の片隅に姫川君とクラスの女子の・・・・・・名前なんだったかなあ? 思い出せないや。とにかくその女子が姫川君をほめていて、姫川君は女子と話すのが苦手なのか会話がはかどらないようだ。だけど、意味が紅いしまんざらではなさそう。もしかしたら近いうちに姫川君も春が来るかもしれない。
「何で姫川だけ」
「決めた。俺も来年はキーパーをやろう」
「俺も!」
その様子を見てた男子たちが姫川君をねたみながらも来年のことについて語り合っている。
姫川君がモテてるのは別にキーパーをやったからではないと思うけど、まあがんばれ。
僕は他人事のように心の中でつぶやくと、階段を下りて明日香のところに向かう。
「お疲れ! 明日香」
「あ、翔琉君」
「ほら、喉渇いてるでしょう」
僕はスポーツドリンクを明日香に差し出す。
「ありがとう」
明日香は受け取ったスポーツドリンクが入ったペットボトルを首に当てて、「冷たっ」と言っている。
明日香に挙げたスポーツドリンクはついさっき一回に降りたところにある自動販売機で買ったものだ。だから冷えていて当たり前だ。
「カケル~! 私にもちょうだい」
アリスが言うのでもう一本持ってたペットボトルを投げ渡す。
「おっとっと」
僕が急に投げたからか、ちょっともたついている。
「ナイスキャッチ」
「もう、カケルったら私にもちゃんと渡してくれてもいいじゃない」
「アリスだったらこれぐらい余裕だと思ったけどきついなら今度から気を付けるよ」
「いやだな~。これぐらい私ならなんてことないわよ。それにカケルから渡されるものなら余裕よ」
「そうか」
僕はバスケットボールを二つ持つとアリスに向かって投げるふりをする。
「ちょ、ちょっと待って!」
「冗談だよ」
「もうっ! カケルの意地悪」
「あはは、ごめん。アリスは昔のままで安心した」
「そう、惚れ直した」
「それは———」
急になんか寒気が。
「何か二人は仲よさそうでいいわね」
明日香が拗ねている。
「あの明日香。どうしたのかな?」
「つーんだ」
明日香は頬を膨らませてそっぽを向く。それにしても本当につーんだって言う人いるんだ。
僕は明日香の頬を人差し指でつついた。
「えいっ」
すると空気が抜けたような音がした。
「ぷっ!」
それを見てた加奈達が笑った。
羞恥心に耐えかねた明日香が僕の背中をポカポカたたいてくる。
「翔琉君のばか~」
本当に恥ずかしかったのか耳まで真っ赤だ。僕は明日香にたたかれるのを甘んじて受けた。
「翔琉。私にも飲み物くれない」
「加奈には俺が用意したよ」
加奈の申し出に一樹が飲み物を渡した。
一息ついたら、自分たちのクラスに戻ることになっている。そこで、運営委員から校内放送で順位が発表される。順位が発表されるのは、全学年を読み上げるのは大変なのと最下位の方は可哀そうだと理由で学年別の順位上位三位が発表され、そのあとに全体の総合ランキング上位五位まで発表される。ちなみに、学年で一位ならこの後にある総合学習の行き先を候補地の中から優先的に決めることができる。学食が一か月タダになるのは総合で一位になった一クラスだけだ。そうしないと、それぞれの学年に権利を与えると完全に赤字だもんね。
教室に戻るとみんなワイワイと騒いでいる。しばらくみんなが思い思いの時間を過ごしていたらマイクのスイッチが入ったような音が聞こえた。
『皆さん長らくお待たせしました。集計できましたので発表致します。まずは学年別から———』
それからは予想してた通り、僕たちのクラスが一位だった。これは、二種目で優勝してるし、ほかの種目もなかなかの成績を収めていたから予想がついた。みんなも当たり前みたいな顔をしてそんなには驚いていない。問題は総合の順位だろう。これには学食が一か月タダがかかっているのだ。一か月食費がうくと思ったらうれしくてたまらない。
そして二位まで発表され、まだ呼ばれていない。学年で一位だったのに全体で五位までに入ってないことはないだろう。
『栄えある総合優勝———』
みんな確信したようにうずうずして放送に耳を傾けている。
『———一年四組です! おめでとうございます!!!』
「よっしゃ!!!」
「これで学食の飯食いまくれる」
教室が揺れるぐらいみんなで喜びを分かち合った。
『あーちなみに———』
放送がまだ終わってなかったのか声が流れてきたのでみんな慌てて黙った。
『二位とはたったの二ポイントしか違いません。最後の女子バスケのブザービーターがなければ順位が逆でした。あの最後に決めた女子がヒーローと言っても過言はありません!』
運営委員の興奮したような放送が終わるとみんなが一斉に明日香の方を見る。
「えっ、何」
明日香が戸惑ったように後ずさろうとする。
「明日香ちゃんありがとう」
「橘さんのおかげで学食にありつけるよ」
みんなが感謝を述べてくる。
「あ、あれは加奈ちゃんたちのおかげだし、アリスがあそこでパスを出してくれなかったらどうなってたか」
「アスカも分かってるじゃない」
「そうよ。これはみんなで勝ち取った勝利よ。それに一位を獲得できたのも男子サッカーが優勝してくれたからだしね」
加奈の言葉に呼応するようにみんなが盛り上がる。
「確かにあそこから逆転したサッカーは盛り上がったな」
「今思い出しても興奮するな」
「星宮君、大活躍だったね」
「ど、どうも」
あんまり接点のない女子に話しかけられて曖昧な返事しか返せなかった。
「翔琉君が活躍したところ見たかったなー」
明日香にも聞こえてたのかそんなことを言ってきた。
「私、携帯で撮ってたからあとで送ろうか」
「ほんとー! お願い。これで私も翔琉君が活躍してたところ見れるよ」
「なんだか恥ずかしいんだけど」
「なーに? みんなには見られてるのに私には見られたくないの」
明日香にジトーと睨められて、僕はたじたじになりながら反論する。
「そ、そういうわけじゃないけど、改められて見られると恥ずかしいというか何というか・・・・・・」
「諦めなさい」
「・・・・・・はい」
「おい、そこのバカップル! いい加減席に着け!」
「「えっ!?」」
声がして顔を向けると教壇にはタマちゃんがいて、いつのまにかみんな着席していた。
僕と明日香は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに自分の席に戻るのだった。
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