第89話 最高の決着!
第三クォーターが終わって明日香たちはチームのベンチで水分補給をしてミーテングしている。加奈が決めたおかげで二十点差にはならなかったが、さすがに点数の差が重くのしかかってるのかみんな気が重い。だけど、まだ第四クオーターが残っている。厳しくてもまだ勝ち目がなくなったわけじゃない。だけどモチベーションを上げないと勝てるものも勝てない。何とか明日香たちが元気になるようなことはないだろうか。すぐそこにいるのに何もできないなんて歯がゆい。
だけど、元気がない明日香を見た瞬間、僕は思わず叫ばずにはいられなかった。
「明日香!!」
「翔琉君!?」
明日香が驚いた顔で見てくる。突然叫んだ僕に横にいた一樹達が驚いて視線を向けてるのがわかる。周りにいる人たちからも見られてるような気がする。多くの視線にさらされてると思うと緊張して二の句が継げないけどそんなことは言ってられない。
「まだ試合は終わってない。あきらめるな! 僕たちは勝ったぞ! 明日香たちが勝ったら総合優勝もありえるぞ!」
「そうだ! あきらめるなー!!」
「俺たちの食堂一か月タダもかかってるんだからなー」
僕の声を後押しするようにみんなも檄を飛ばした。
「確かにここまで来て負けるわけにはいかないものね」
加奈の言葉に呼応するようにみんなのやる気が戻ってくる。
「ここにいる大半の人は向こうが勝つと思ってそうだけどね」
「だけど、そこを番狂わせすれば私たちはヒーローね」
「どうせなら勝って笑顔で終わりましょ!」
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
明日香たちは拳を上げて気合を入れている。
みんなまとまって意思疎通がとれている。これならいけるかもしれない。
明日香たちがコートに入っていく。その様子を見ている僕に一樹たちはニヤニヤとした顔で見てくる。そういや柄にもなく叫んじゃったから注目のもとだった。冷静になると恥ずかしくて一樹たちの方を見れない。僕は、恥ずかしさを誤魔化すように明日香たちの試合を見ることに集中した。
試合は最終第四クオーターが始まった直後動いた。明日香が来たボールを素早くスリーポイントで入れ、しかもその直後に相手がコートに入れたボールをカットしそのまま走ってレイアップシュートを決める。これで五点縮まってあと十三点差だ。しかもまだ時間は九分以上ある。
「ナイスプレイ。やっぱり翔琉が応援してたら力が何倍にも出ちゃう感じ?」
「そうかも。いいところを見せなきゃと思ったらなんか元気がみなぎってくるみたいな・・・・・・加奈ちゃんは違うの」
「私は普通かな」
少し離れたところでアリスが呟く。
「私もいいところをカケルに見せなきゃ」
アリスは目的が翔琉にアピールすることに変わっている。だけど、チームプレイはまったく乱れないんだから不思議なものだ。
「何なの。急に動きが別人みたいに」
相手の動揺が伝わってくる。チャンスかもしれない。
そのすきを逃さず、加奈がドリブルとパスで相手を翻弄し、明日香たちがシュートを決めていく。そして、時間をまだ五分以上残してるところであんだけ開いていた点差が五点差まで迫っていた。その状況に応援してる人たちもボルテージが最高潮に達し応援に力が入る。しかもほかの種目も終わったのか気づいたら生徒たちで体育館がごった返していた。
試合はここから膠着状態に入りお互いに点が入らない。その展開に先ほどまでとは打って変わり、体育館を静寂が包む。あまりの静けさに誰もが固唾をのんでいる。唯一聞こえるのはドリブルしている音だけが響いてくる。
そして、状況が動いたのは残り時間三分を切ったときだった。
アリスがマークを抜き去りスリーポイントを決めた。これで二点差。ワンゴールで追いつく状況に体育館を揺らすような歓声が巻き起こった。
これは十分逆転できる可能性が高い。流れは完全に明日香たちに傾いている。
だけど、そんな僕たちをあざ笑うように相手がすぐに二点返す。これで四点差だ。さすがに決勝戦なだけあって一筋縄にいかない。
「仕切りなおすよ。諦めるのは早いよ」
「そうだよ、みんな。諦めたら試合終了だよってとある人も言ってたんだから」
「アスカ。それってマンガの有名なセリフじゃない」
「そうだよ。アリス、知ってるんだね」
「それは、カケルに気に入られるために読んでたら詳しくなちゃったのよね」
「なにそれ」
加奈が仕切りなおして、明日香が冗談かどうかわからないところにアリスがちゃちを入れる。それを見てみんな笑っている。いい感じで力が抜けているようだ。これなら無駄なプレッシャーを感じることなく力を十分に発揮できるだろう。
加奈がドリブルしてパスを回してスキを
相手が外したシュートを加奈がリバウンドしてソッコーでカナにボールが渡るとそのまま決めた。これで逆転だ。残り時間は三十五秒。
「ここは何としても守るわよ」
加奈を中心に今までで一番集中している。相手は付け入るスキがなく時間だけが無くなっていく。しびれを切らした相手が強引にレイアップシュートに持っていく。だけどそこには明日香がブロックに入っている。タイミングもドンピシャだ。ブロックにかかったと思った瞬間、相手のボールを持っている右手が動いて明日香から離れていく。これはフックシュートだ。狙ってたのか体が勝手に動いたのかわからないが、高い放物線を描いて明日香の手をすり抜けると無情にもボールはゴールに突き刺さった。
すぐにボールを拾うと加奈はコートに入れる。時間は十秒を切る。
『十っ!』 『九!』 『八』・・・・・・と体育館全体でカウントダウンされている。
加奈にボールが渡る前にいち早く駆け出していたアリスにロングパスが通る。だけど相手もその行動を読んでたように三人がディフェンスに戻っている。だけど時間がなくアリスはお構いなく強引にシュートにもっていく。
相手も三人がシュートブロックするべく飛んだ。相手の手でコースがふさがれた。
(くっ、止められる!)
アリスはそれでもイチかバチかゴールに投げ込もうとした瞬間、
「うしろ!」
誰かが叫んだ声に反応して、咄嗟に声がした方向にパスを出す。
そのボールに駆けこんできたのは明日香だ。ボールをキャッチすると、そのままジャンプシュートする。そして、試合終了のブザーが鳴り響く。明日香の放ったボールは高い放物線を描いてゴールに吸い込まれるようにスパッと言う音を立てて入った。体育館が静まり返る。
今のはゴールが認められるのかダメなのか。みんなが注目するように審判を見る。
結果は———
ゴールが認められて明日香たちの勝ちだ。
「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」
「すげー」
「ブザービーターだ」
みんなが盛り上がる。
明日香たちは勝利を確認するとホッとしたように座ったり寝そべったりしている。気力も体力も限界だったようだ。気がゆるんだらどっと疲れが出たんだろう。
(おめでとう、明日香。かっこよかったよ)
こうして明日香たちの劇的な勝利で幕を閉じたのだった。
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