第88話 勝利を喜んだ裏で、明日香たちもやばい状況に陥っていた。

「勝ったー!!」

「優勝だ!!」


 みんなが喜びを分かち合っている。延長戦までやったのにみんなタフだなー。

 僕は、疲れてその場に座り込む。


「やったな。翔琉」

「そうだね」


 僕は一樹とこぶしを合わせた。


「負けたわー」


 そう言いながら三年の先輩が僕たちのところに来る。


「先輩。みんな喜んでますけど、なんか俺はあんまり勝った気がしなくて」


 一樹を見ると、勝ったことはうれしいけど素直に喜べないという複雑な顔をしてい

た。

 そんな一樹に対し先輩は、


「素直に喜んでおけ。でないとめけた俺たちの立つ瀬がないからな。それに運も実力のうちだ。それにこんなこというのもなんだが、今ここでこの不運ともいえる負け方をしてよかった。これが本番の試合でこんな負け方で引退なんてしたらと思うとたまらないからな。こういう負け方もあると思うと最後まで気を抜かず油断大敵というある意味戒めにもなったからな」

「そう言う事なら素直に喜びますよ」


 先輩は一樹の肩に手を置いて労った。


「それはそうと———」


 先輩が僕を見る。

 何だろう? すごい緊張するんだけど。


「———確か、翔琉といったか。君のサッカーの腕前は相当なものだ。どうだろうか。我がサッカー部に入らないか? 入ってくれると嬉しいんだが」

「・・・・・・ええーと・・・・・・」


 なんて断ろうか悩む。入る気はないからやんわり断りたいけど言葉がうまく見つからない。こんなところで人見知りの弊害が。明日香と付き合うようになったおかげで対人関係もうまくやれるようになったと思ったけどまだまだのようだ。


「先輩。無駄ですよ。この前だって誘われたのを断ってますから。翔琉にとっては彼女と一緒に過ごす時間が何より大事なんですよ」


 一樹が先輩に言ってくれた。さすがは親友。僕のことを分かってる。


「むっ。そういえば二年がそんなことを言ってたな。どんな奴を誘ったのかと思ったけどこの実力だったら納得だ。だけど・・・・・・そうか・・・・・・それなら彼女もマネージャーとしてならどうだろうか———」

「———遠慮しておきます!」


 僕は先輩の言葉にかぶせるように断った。


(冗談じゃない。明日香がこんないけてる集団に入って誰かになびくことがあったら。明日香に限ってないとは思うけど何が起きるかわからないからね)


「そうか。もし気が変わったらいつでも言ってくれ」


 先輩はそう言い残すと去っていった。


 おっと、こんなことしてる場合じゃない。早く明日香たちの応援に行かないと。

 

「僕たち、先に行くね」

「ああ、バスケの応援か。俺たちも後で行くよ」


 僕は姫川君たちに言うと、一樹と一緒に体育館に向かった。その途中にある水道で手と顔を洗うことを忘れずに。


 体育館にある二階の席に向かうと応援してるクラスメート達を発見するがみんな元気がない。僕たちが近づくと気づいた生徒がこっちを見る。


「星宮に桜井か。サッカーはどうだった」

「ああ、勝った」


 一樹の言葉にみんな反応して喜ぶがそれもつかの間、また沈んでしまう。


「どうしたんだ?」

「あれを見てくれ」


 指差したところを見ると電光掲示板が目に入る。スコアが目に入ると六十六対三十三と点数が表示されていて、ダブルスコアがたたきつけられていた。

 唖然としてる僕たちに説明してくれた。


「第二クォーターの途中までは互角だったんだけどあいつが入ってから流れは変わったんだ」

「あいつ?」


 コートを眺めるとひときわ大きな選手がいる。見た感じ二メートル近くあるんじゃなかろうか。明日香たちが子供に見える。


「なるほど。あいつ一人にやられたんだな」

「いや、そういうわけじゃないんだけど」


 僕たちは当てが外れて思わずズッコケた。


「あいつはゴールした以外ならポンコツって言っていいくらいへたくそだ。だけどパワーがある」


 その時ちょうどその選手にパスが渡る。それに反応して加奈がマークに着くけど大きな体でズルズルゴール下まで押される。そして振り向きざまにシュートを放つがリングにはじかれる。だけどそのボールは相手にわたりすぐさま立て直されてしまう。リバウンドもなかなか取れない。これは点数以上に厳しいかもしれない。これはどうにかしないと。

 このあと、一瞬のスキをついて加奈がスティールして何とかスリーポイントを決めて三点返したところで第三クォーターが終わった。


 どうやら僕たちと同様に明日香たちも一筋縄ではいかないようだ。

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