第87話 まさかの決着!?

 雨脚は後半が始まる時間になってもやむどころか強くなっている。グラウンドも雨でぬかるんできている。この状況は吉と出るか凶と出るか。だけど相手も状況は一緒のはずだ。やるしかない。

 僕たちのキックオフで始まった。


「とりあえず同点に追いつくぞ」


 一樹がボールを持つと相手を交わしてドリブルで切り込んでいく。しかもこの雨の中スピードが衰えない。そのままシュートに持っていくが相手のキーパーにはじかれて外に出た。


「おしい!」

「ナイッシューッ!! 一樹」


 僕たちの今日初めてのコーナーキックだ。みんな上がる。一樹がボールをセットするとゴール前にセンタリングを上げる。

 そのボールをキーパーがジャンプ一番でパンチングする。はじかれたボールが僕の前に転がってきて勢いよく右足を振りぬく。僕のシュートはキーパーにキャッチされてしまう。


「痛てー! なんつう威力してるんだよ」


 相手のキーパーはボールを手から離すとロングパスを出す。


「カウンターがくる。早く戻れ!」


 僕たちはみんな上がってきてたから守りが二人しかいない。

 相手は飛んできたボールを胸でトラップすると、早いパス回しでディフェンダーがすんなり交わされてキーパーしかいない。敵のラストパスが通りそうなとき運が味方する。なんとボールがぬかるんだ泥にはまり止まったのだ。相手は慌ててそのボールを取りに行くが、一瞬早く飛び出していた姫川君がボールをクリアする。

 大きく飛んだボールは一樹のもとへ一樹はボールをトラップすると一瞬僕を見る。目が合ったと思うと、一樹はリフティングしたと思うと、そのボールを僕の方に蹴ってそのままゴールに向かって走り出す。僕は一樹の考えを瞬時に理解すると、飛んできたボールを相手を超えるように山なりのボールをダイレクトに一樹に返す。そして僕もゴールに向かって走り出す。そして一樹からまたボールが飛んでくる。そのボールをまた返す。一樹とパスをしながらゴール前に駆けあがる。この間ボールは一回も地面につけてない。さっきみたいにボールが途中で止まらないようにボールを空中でつないでいく。どけどさすがにこの考えは読まれたのか、僕が蹴るタイミングでキーパーが一樹の前をふさぐように飛び出る。キーパーは手が使える分止められる可能性が高い。僕はとっさに足の向きを変えると目の前にいる相手の背中にボールを落とすように蹴り僕は相手を抜き去ると落ちてくるボールをそのままシュートする。キーパーは一瞬早く一樹の方に飛び出たため間に合わない。僕が蹴ったボールはそのままゴールネットを揺らした。


「ナイスシュート翔琉」


 咄嗟に体が反応したけどゴールが決まってよかった。これで一点さだ。まだ時間は十分ある。このまま逆転してやる。

 だけど、その思いとは裏腹に一進一退の攻防が続き、時間だけが過ぎ、試合時間も残り十五分しかなかった。グラウンドのコンディションも悪いし焦りも募る。

 そんな時、笛が鳴り審判が試合を止める。

 グラウンドはぬかるんでるけど雨は今はそんなに強くないのにここで試合を中断されたら明日香たちの試合を見に行くことができない。僕は内心試合どころじゃなくなっていた。

 そんな時、何人もの教師が土を持ってきて水たまりにまいて地面をならしている。そのための中断のようだ。これなら数分で再開されそうだ。ホッとしたら喉が渇いたので水分を取ると、いつ試合が再開してもいいように集中する。

 五分ぐらいで試合は再開された。

 僕はボールが来るとドリブルでフェイントを織り交ぜず相手を二人抜く。ぬかるんでたところに土が入っただけで大分動きやすさが違う。だけどそれは相手にも言えることですぐさま相手がボールを取りに来る。僕はすかさず一樹にバックパスする。一樹はそのボールをスルーして味方の男子にボールが渡る。一樹にマーク集中してたため相手の意表を突く形になった。そしてパスを回しながら駆け上がっていく。そうなると相手もボールを取りに行かなければならなくなり、一樹のマークが甘くなる。そこを狙って一樹にパスが来る。だけど相手も分かっており一樹がトラップをする瞬間を狙って三人が示し合わせたようにスライディングする。どうやら相手はこれを狙ってたみたいでまんまと罠にかかった形だ。一樹は来たボールをダイレクトで蹴りだし、その直後に来たスライディングはジャンプでかわす。一樹が蹴りだしたボールは前に走り出してた僕を超え相手キーパーの前に落ちる。さすがの一樹も咄嗟だと蹴るだけで精いっぱいだったのかもしれない。だけど僕はボールに追いつくことをあきらめ時に懸命に走る。だけど、相手のマークもきつくあと一歩のところで追いつけない。キーパーは前に飛び出してそのボールをキャッチしようとした瞬間、ボールは弾むとキーパーをあざ笑うかのように後ろに飛んで走りこんでいる僕のところに転がってくる。何と一樹はあのタイミングでボールにバックスピン回転をかけていたようだ。さすがはサッカー部のエースと言いたいがこんなことができるのはおそらく一樹ぐらいだろう。僕は足がもつれそうになりながらもマークを振り切り右足で何とかさわりゴールに押し込む。そのボールにキーパーも反応したが、飛び出してきていた分反応が遅れて届かない。ボールはそのままゴールに入った。これで同点だ。


「翔琉、これで同点だな」

「一樹のおかげだよ。まさかあんなパスが来るなんて思わなかった」

「ほんとにな。桜井さまさまだな」

「いや、あれはみんながドリブルで駆けあがってぐれたから俺のマークが緩くなってしかも翔琉が決めてくれたからみんなでもぎ取った得点だな」

「これなら逆転もできるかもしれない」

「これで相手も攻めるしかない。俺たちも最後まで気を抜かず勝って優勝するぞ」

「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 相手の怒涛の攻撃が始まりいきなりピンチを迎える。相手のボールをとってもすかさずフォローが入り、なかなか奪えずシュートをうたれる。姫川君が飛びついて何とかゴールの外にはじき出した。そしてコーナーキックでせるなか、飛び出した姫川君がジャンプ一番パンチングではじく。そのこぼれ球にも相手が飛びつきダイレクトにシュートが来る。そのボールにも姫川君が反応し、またもやコーナーキックにする。ボクシング部のエースなだけあって反射神経が尋常じゃない。もしかしたらゾーンに入ってるのかもしれない。僕も経験がある。ゾーンに入ると周りの音が聞こえなくなったり周りの動きが停まってるような錯覚に陥る感じだ。頭もすっとするような気もする。


「ナイスセーブ! 姫川」

「これ以上はゴールを割らせないから安心してゴールを奪ってきてくれ!」


 一樹の称賛に姫川君がみんなを鼓舞するように答える。

 残り時間ももう少ないだろう。僕はなんとなくゾーンの入り方が経験上分かる。人によって条件違うだろうけど、僕は球技に関してだけどその試合を楽しめば行ける感じだ。今思えばゾーンに入れるときはいつもその試合は早くしたくてうずうずしていた。今だけは明日香のことも頭の外に追い出しこの試合だけに集中する。

 そして時間はアディショナルタイムに入る。その時間は五分だ。


「これ以上はやらせん」

「意地でも勝つぞ!」


 相手の気迫がすごい。なかなかボールが奪えない。時間が刻一刻と過ぎる中、ゾーンに入った僕は考えるより先に体が動いて、相手のパスに合わせるようにスライディングタックルでボールを奪う。そしてすぐさまに近くにいた一樹にパスして一気にゴール前に駆けあがっていく。チラッと時計を見るとあと一分もない。この攻撃がラストプレイになるかもしれない。一樹が個人技で抜いたり味方にワンツーでパスしたり相手を翻弄する。僕には徹底的にマークがついている。マークを外そうとするがさすがは三年生。なかなか隙を見せてくれない。そんな中、一樹がロングシュートをける。意表を突かれたキーパーは反応が遅れたが何とかパンチングで弾く。そのこぼれ球は僕の頭上に飛んでくる。僕はそのこぼれ球に反応したが、相手のマークにチャージされバランスを崩す。

 

(このままでは延長戦になる。そうなったら明日香の応援ができない。そんなの・・・・・・そんなの———)


「いやだ!!」


 僕は必死の思いでバランスを崩しながらも右足を振りぬいてボレーシュートを放つ。ボールは無人のゴールへ。これは決まったと思ったらバランスを崩してたキーパーが横っ飛びで反応している。指でかろうじでさらわれたのかボールは無情にもゴールバーの上にはじかれる。これは止められたと誰もが思った瞬間、珍プレイ大賞があったらノミネートするんじゃないかと思わせる珍事が起こった。

 なんと、はじかれたボールがキーパーの後頭部にあたりそのままゴールに転がっていったのだ。あまりの出来事に会場はシーンとなる。だけど次の瞬間笑い声に変わった。


「あはははは、そんなのあり」

「あんな接戦だったのにこんな幕切れなんて」

「あ~あ、あのキーパー、かわそうー」


 ここで試合終了の笛が鳴った。


 結果は何であっても僕たちの勝ちだ。運の実力のうちっていうしね。これで心置きなく明日香を応援に行けると思ったらどっと疲れが出た。思ったより緊張やらなんやで体を酷使してたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る