第86話 みんなのやる気スイッチを一樹が押す。

 前半、残り時間は何とか守り切りった。僕たちは自分たちのベンチに戻ると、水分補給をして、汗をタオルでふき取る。


「さすがに手ごわいな」

「ここから逆転できるか」


 さすがにここまでやられたらみんな弱気になるのも分かる。二点で抑えられたのも上出来と思えるぐらい相手に攻められっぱなしだった。


「問題ない。ここまで来たらやるだけやるしかない。それにここから逆転したらクラスの女子からの株も上がるんじゃないかな」


 一樹の言葉に気持ちが切れかかっていた一部の人たちの耳がピクピクと動く。


「そうなったら見る目が変わるんじゃないかな。俺だったらほっとかないよ。・・・・・・(たぶん)」


 みんなの顔が上がる。


「そうだよな。ここで逆転できたら目立てるしな」

「桜井が言う事だし、これで活躍したら俺にも彼女が」

「俺たちのクラスの女子たちはレベルが高いし、ここでアピールすれば俺にも春が」


 みんなのやる気がみなぎっている。なんか熱気を感じて熱い。

 みんなきづいてないようだけど一樹は小さな声でたぶんって言っていたのにいいんだろうか。


「一樹、あんなこと言って大丈夫か」

「いいんだよ。気持ちで負けてたら勝てるもんも勝てない。それに近場に目標があればやる気も起きるだろ。それに俺たちにとって、延長戦はない。分かるだろ?」

「えっ?」


 確かサッカーの決勝だけは決着がつかなければ十分ハーフの延長戦をして、それでもだめだったらPK戦で勝敗を決めるルールだったはず。確かにこのままだったら延長戦するまでもなく終わるけど。それだったらさっき勝つと言っていた一樹の言葉に矛盾するような・・・・・・」


 僕の態度に分かってないのかと呆れて一樹がため息をつくと説明してくれた。


「いいか。今日はこの試合以外にもイベントがあるだろ」

「今日? 試合が終わったら順位発表があってクラスの順位がわかるんじゃ。それによって校外学習の行き先を選べるし食堂一か月タダの権利もかかっているから———」

「———違う違う。本当にわからないか。今日俺たち以外にも試合が残ってるだろ」

「試合? ———あっ!」

「やっと気づいたか」


 そうだ。明日香たちもバスケの決勝があって今頃試合は始まってるはず。


「バスケット」

「そうだ。バスケだ。当然見に行きたいだろ。

「そりゃ当然」


 何を当たり前なことを。


「だよな。そうなると延長戦までするわけにはいかない。スムーズにいっても俺たちが応援に行けるのはおそらく後半が始まってからだろ。だけどもし、延長戦になったら前半後半を戦わなければならない。そうなったら応援どころか試合すら見えない可能性が高い。バスケにも延長戦はあるけど点取り合戦で展開するバスケは同点にするのも難しいはず。その点を踏まえると、俺たちが確実に見に行くためには後半で逆転して勝つしかない。もちろんこのまま終わっても間に合うが、どうせなら勝利の報告をして向こうにも弾みをつけたいだろ」

「そうだね。その通りだ」

「聞かせてもらったぞ。俺たちも翔琉たちのために一肌脱ぐぞ」


 僕たちの会話を聞かれていたようだ。それはこんな密集地帯で言ってたら聞こえるか。その証拠に応援に来てるクラスメート達も、


「俺たちも応援しかできないけどやれることはやるぞ」


僕たちは、鼓舞するために円陣を組み一樹が号令する。


「二点差を逆転して勝つぞ!」

「「「オー!!!!!!!」」」


 僕たちの心は一つになった。


 その時、空からポツッと来たと思うと、雨が降ってきた。

 この雨が僕たちにとっての恵みの雨とならんことを。

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