第85話 波乱の幕開け
僕たちは、運動する前の準備運動していると、一人の先輩が一樹のもととにやってくる。
「まさか一樹、お前がいるとはいえほかのサッカー部がいないわりに決勝まで来れるとは思わなかったぞ」
「先輩。これまでの試合を見てないんですか?」
「見てないな。戦略を立てたところでつまらないだろ。俺は本番まで楽しみを取っておくタイプだ」
「見てないことを後悔しますよ。俺の見立てではこいつらはサッカー部のレギュラーを相手にしても引けを取らないと思いますよ」
「そいつは楽しみだ。だが、こっちは三年でうちのクラスにサッカー部は五人いる。しかも、みんなレギュラーでプロに内定もらってるのもいるからな。悪いが全力で勝ちにいかせてもらうぞ。無様をさらすわけにもいかないからな」
「望むところですよ」
一樹とがっちりと熱い握手を交わした三年の先輩は自分のチームに戻っていった。
その背中を見送るように見た僕は一樹に聞いた。
「僕たち勝てるかな」
「今回はやばいかもな」
「そ、そんな・・・・・・」
一樹の思ってみなかった言葉に意気消沈してると、僕の肩をたたいて、
「だけど勝負はやってみないとわからない。ここまで勝ち上がった自分たちの力を信じて戦うしかない。それに応援してくれるみんなのために無様なことはできないだろ」
その言葉に顔を上げて周りを見ると多くのギャラリーが集まっていた。その中にクラスのみんながいる。よく見ると明日香たちもいた。バスケの決勝も一時間後にあるはずだからわずかな時間に応援に来てくれたようだ。確かに無様をさらうわけにいかない。
だけど、この望みは試合が始まるとすぐに打ち砕かれることになる。
「これより、三年十組VS一年四組のサッカー、決勝戦を始めます」
決勝戦の審判は学校が呼んだプロの審判が務める。
コイントスをした結果、ボールは相手がとった。
僕たちはコートに散った。
主審の笛で相手がキックオフして試合が始まる。
相手の素早いボール回しになかなか奪うことができない。あっという間にゴール前まで行かれて味方が誰もボールに触ることなく最初のシュートを打たれる。ボールはゴール右上の隅に飛んでいたが、ポストにはじかれてラインを割った。
「た、助かった」
今度はこっちが攻める番だ。姫川君のゴールキックで一樹にボールが渡る。一樹はボールを貰うと振り向きざまドリブルで上がっていく。一樹は三年の先輩を一人、二人と抜いていく。その活躍に外野から女子たちの黄色い歓声が上がる。そんな一樹を止めるために三人がかりでマークが来る。一樹はすかさずパスを出して駆け上がっていく。味方でパスをつないでボールは僕の足元に来た。一瞬一樹がゴール前に駆けだすのを視界にとらえ、すぐさまにロングパスを出した。高く蹴りだしたボールは一樹のもとへ綺麗に通った。一樹は胸でトラップしてシュート体勢に入る。相手はキーパーしかいない。先取点の絶好の機会だ———と思った瞬間、ホイッスルの笛が聞こえた。
見ると副審がフラッグを上げている。オフサイドだ。
「一樹、惜しかったな」
一樹に三年の先輩がすれ違いざまに言う。
「オフサイドトラップを使うとはやってくれますね。先輩」
「言っただろ。やるからには全力で勝ちに行くと」
先輩がボールをセットしてフリーキックする。素早くパスが回るところを懸命に足を延ばして何とかもぎ取った。
「ナイスカット! 翔琉」
僕はすぐに右足を振りぬいてシュートを打った。ゴール左隅をとらえていたが、コースを読まれてたような反応でキャッチされてしまった。そして、キーパーはすかさずボールを大きく蹴りだす。そのボールは一気に守りが手薄になってるゴール前へ。そこにかけてくる相手とボールに反応して姫川君が走りこんでくる。だけど、相手の方が一瞬速く触られてボールはゴールに吸い込まれた。
前半七分、遂に僕たちは先取点を取られてしまった。
「ドンマイ! 切り替えていこう!」
一樹はゴールに転がってるボールを拾うとみんなを鼓舞した。
キックオフで再開すると、ゴールに向かって果敢に攻めた。一樹を中心にパス回しをするが、さすがにマークがきつく攻めあぐねてしまう。僕はすがさず一樹のカバーに向かう。それに気づいた一樹が僕にパスをする。そして一瞬マークが外れたすきに一樹がゴール前に走りこむのに合わしてワンツーでボールを返す。そして、一樹がゴール前に走りこんでシュート体勢に入るが、一瞬相手のゴールキーパーの反応が早く、大きくクリアされてしまう。そしてラインを割った。すぐさまスローインでボールを入れると僕のもとにパスが来る。周りを見るとマークがきつくパスコースが見当たらない。チラッと応援席を見ると、心配そうにしてる明日香の姿が目に入る。明日香たちはもうそろそろバスケの決勝もある。このままいかせたら試合に支障をきたすかもしれない。少しでもいいところを見せなければ! そう思うとなんか力が湧いてくる。
僕はドリブルしてゴール前に上がっていく。止めに来た相手の股にボールを通してかわし、続けてきた相手もドリブルで抜く。個人技の連続に歓声が上がる。そして、一樹についていた相手も一人向かってきた。それを見て、一樹にパスをしようとしたが、それを読んでいた相手がパスコースに入る。それを見て咄嗟にボールを空振りして軸足と反対の足でボールを前に軽く蹴って相手がバランスを崩したすきに一気に抜けた。結果的にシュートフェイントになった形だ。そして、シュートを打つ。意表を突かれた形だが
さすがはプロにも内定しているゴールキーパー。決まったと思われたボールをパンチングする。そのこぼれたボールに素早く反応した一樹が蹴る。そのボールは相手のディフェンダーにはばかれてはじかれる。高く上がったボールは再び僕のもとへ。僕はそのボールをジュンピングボレーで蹴った。体勢を立て直したキーパーが横っ飛びでキャッチする。だけどキーパーの体がゴールを割っていたため決まったと思ったが。なんとボールを取った右手だけゴールライン手前につけていたためゴールにならなかった。
「あとちょっとだったのに」
応援からも「おしい!」ていう声が聞こえてくる。
そして、ゴールキックで一気に自陣に駆けあがれる。
そして早くもシュートまで持ってかれる。
何とか姫川君がはじいてゴールの外に出してくれたおかげで助かった。
そして、相手のコーナーキックで相手が上がってくる。コーナーキックで蹴られたボールはゴールに向かってカーブしてくる。そして競り合う中、姫川君がパンチングする。しかしボールは相手のもとへ。シュートはでフェンダーの足にあたりコースがそれる。そこに走りこんできた相手にダイビングヘッドで二点目を決められてしまう。
これで二点差。この差は僕たちに重くのしかかる。
ちょうど明日香たちが体育館に向かうところが目に入る。何も言わずに向かうということは気を使ったんだろうか。なんとなく空を見るとあんだけ晴れて太陽が照らしていたのにいつの間にか曇ってどんよりして、今にも雨が降りそうだ。
なんか僕たちの心模様を写しているようだ。
前半三十分を回ったところだった。
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