第84話 優勝するかどうかは僕たちの肩にかかっている

 僕たちはあれから順調に勝ち続け、決勝まで残った。そして、決勝が行われる金曜日の朝、学校まで行く間に行きかう人にちらほら見られてるような気がした。視線を感じ、チラッと見ると別の学校の生徒がこっちを見ている。何だ? と思って振り向くと視線をそらされる。いったい何なんだ。特に実害はないのでそのまま登校したが、学校に着くまでなんか見られてる感じがまとわりついていた。

 教室に入ると、一樹がいたのでこの気になることを聞いた。


「なんか学校に来るまで不特定多数に見られてたような気がしたんだけど」

「何だ? モテ自慢か」

「そんなんじゃなくて明らかに見られてなんか陰口言われてるような気がするんだよ。こっちを見ながらぼそぼそ言ってたし」

「それは自意識過剰だな———と言いたいところだけど原因はおそらくあれだ」


 一樹はその大元に親指を向ける。

 その方向を見ると、テレビクルーが廊下にいる生徒にインタビューしている。


「この球技大会はテレビで生中継されるほどの一大イベントだ。しかも視聴率が高くて話題性もある。そのテレビに映ってたら認識されるだろ。しかも制服着てる地点で学校を宣伝してるようなもんだし。ましてや俺たちのサッカーは決勝まで勝ち残ってるからテレビでの取り扱いも多かったはずだ。ちょっとした有名人になった気分でも思っておけばいいんじゃないか。そんなことより、今日は決勝だ。どうせなら勝って優勝するぞ」

「そうだね。順位によって校外学習で行ける場所の優先権が得られるし」

「そういやそんなこと言ってたな。今現在何位なんだろうな」


「現在は三位よ」


 そういって僕たちのところに加奈と明日香が来た。


「おはよー! 翔琉君」

「おはよう。明日香」

「今日もお互い頑張ろうね」

「そうだね」


 僕たちはお互いをねぎらった。


「何で順位知ってるんだ。まだ発表されてないだろ」


 一樹が当然の疑問を加奈に投げかけた。


「それは、さっきテレビ局の人に聞いたのよ。何でも全部の試合を記録にとってまとめてるって言ってたから聞いたら教えてくれたわ」

「相変わらずコミュニケーション能力高いな」

「本当にね。私だったら見ず知らずの人には自分から話しかけに行けないけど、、加奈ちゃんは何の躊躇ちゅうちょもせずに聞きに言っちゃうんだもん」

「それは、適材適所っていうか、私、昔から初めての人でも気になることがあったら聞きに行けちゃうんのよね」

「もしかして、加奈って営業職か接客業が向いてるんじゃないか」


 僕の言葉に加奈は「いいかもね」と前向きにとらえていた。


 脱線した話を元に戻すように一樹が言った。


「それで俺たちのクラスが三位ってことは、二位と一位はどこなんだ」

「たしか、二位は一年に二組で、一位は三年のどこだったかな」


 加奈が思い出そうとしているとき、担任であるタマちゃんが教室に入ってきた。


「お前らに重大発表がある。今現在私たちは全体の三位の位置にいる。しかも二位と一位との差はあんまりない。そのため優勝を狙える位置にいる。しかも決勝まで残ってる男子サッカーと女子バスケットの対戦相手だ。言いたいことはわかるな。その両方に勝てば総合優勝間違いなしだ」

「「「うぉおおおおおおおおっ!!!」」」


 みんな盛り上がっている。


 タマちゃんが僕たちを見る。


「そういうことで頼んだぞ。私のボーナスのために!」


 一瞬何のことだと思ったけど、前に優勝したら評価が上がるとか何とか言ってたような気がする。そう思うとなんかやる気がなくなってきた。

 だけどクラスのみんながタマちゃんを無視するように僕たちを囲む。


「一樹、頼んだぞ。優勝すれば学食が一か月ただになるんだから」

「そうだ。頼んだぞ。俺たちのタダ飯がかかっているんだからな」

「お願い。校外学習も候補地がいっぱいある中から選びたいの」

「まかせなさい。私がいる限り優勝間違いないわ」


 アリスのその宣言に呼応するように「アリス!」という掛け声が上がっている。

 みんなノリがいいな。

 確かにタマちゃんのことは個人的にどうでもいいけどここはみんなのために頑張るとしよう。それにやるからには勝ちたいしどうせなら優勝したいしな。


「最後までお互い悔いがないように頑張ろうね。翔琉君」

「そうだね。順当にいけばバスケの後半が始まるころには応援に行けると思うから」

「私は応援に行く時間がないからごめんね。できれば見たかったけど」

「それは仕方ないよ。スケジュールの問題だから」


 男子サッカーは、午前十時半にキックオフだが、女子バスケットは一時間後の午前十一時半から試合開始予定だ。一時間あるが作戦を練ったりウォーミングアップしたりと時間がないため僕たちを応援する暇がないんだろう。


「明日香ちゃん。その分私たちが応援するよ」

「そうだな。早々と負けてしまった俺たちは応援することしかできないもんな」


 みんなが口口に言ってくれる。


「ありがとうみんな」


 そんなクラスメートたちに心打たれたように明日香はお礼を言う。

 それから僕たちは教室の中央で明日香たちと円陣を組む。

 代表して加奈が言う。


「ここまで来たから優勝するわよ。みんなのために。決してタマちゃんのためじゃないけど」

「白鳥っ!」


 タマちゃんの驚いた声が聞こえるがここはあえて聞こえなかったふりをする。


「最後は優勝して笑って終わりましょう。お互い勝って優勝するわよ!」

「「「おおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」


 気合を入れた僕たちは、それぞれ試合会場という名の戦場に向かった。


 ちなみに、このとき廊下にテレビクルーがいたことを完全に失念していたが、一部始終を全国のお茶の間に生放送されていたことを家族が録画していたのを家で見て知った。

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