第81話 本領発揮

 僕は、グランドで軽くストレッチをしながら客席を眺めてると明日香たちを発見した。手には綿菓子や焼き鳥を両手に持ってほおばっている。明日香がこっちを見たので手を振る。明日香は恥ずかしそうに手に持ってたのを背中に隠す。何も隠すことないのに。


「あいつら、楽しんでるようで何よりだな」

「そうだね」

「俺たちも後で屋台を見て回るか」

「いいね」

「じゃあとりあえずこの試合は勝たないとな」


「何だ。桜井。もう勝った気でいるのか」


 そういって僕たちに近づいてきたのは、対戦相手の先輩方だ。


「これは先輩方。この試合楽しみましょう」

「楽しめればいいけどな。こっちはチームの大半はサッカー部で構成されている。そっちは見たところお前ひとりしかいないようだな。同じクラスにサッカー部はいなかったか。だからと言って手加減はしない。俺たちは優勝してクラスに食券を持ち帰るのだ。最初に言っておく。俺たちは数人がかりでお前を止める。そうすれば勝ちは揺るがない。ほかのやつのマークは手薄になるだろうが素人の寄せ集め何て怖くないからな」


 そんなことをほざきながら離れていく。


「なあ一樹。あんなこと言われたけど大丈夫か?」

「問題ない。ああやって油断してる方がありがたいしな」


 審判役の教師が時間を確認した。


「これより、一回戦。二年一組対一年四組の試合を始めます」

「「「おねがいします!!!」」」


 それからコイントスをしてボールは相手にわたったので僕たちは守りに着いた。


 ホイッスルが吹かれて相手がキックオフをしてついに試合が始まった。


 さすがはサッカー部というところか。試合開始早々素早いパス回しであっという間にゴール前に駆けあがる。


「まずは一点目、いただきー!!」


 放たれたシュートはゴール左隅に飛んでいる。これは決まったかと思われた時、キーパーが反応して難なくキャッチする。


「な、何だと!?」


 シュートを打った先輩は、決まったと思った球を難なく取られたことに度肝を抜かれている。


「この程度なら普段の練習の方がもっと速い球を受けてるんでね。大したことはないな」

「こ、こいつ言わせておけば」


 先輩たちの怒りのボルゲージが上がってるのがわかる。姫川君もあおるようなこと言うのをやめようよ。平和的にやりたい。これも一樹の作戦なんだろうけど。


「やっぱりキーパーは姫川にして正解だったな。これだったら安心して任せられそうだ」


 一樹が絶賛する姫川君はボクシング部のエースだ。普段近距離でパンチを受けてるから動体視力と反射神経が半端ない。


 姫川君が投げたボールが近くの仲間にわたるところを奪われる。そしてすぐにシュートを打たれたがまた止める。止める。

 それから、姫川君があおるようなことを言った結果、先輩方が向きになって前半だけで怒涛のシュートラッシュに見舞われたが姫川君がことごとく止めた。

 そして前半の残り時間が数分のところで、一樹に声をかけられる。


「翔琉、パス出すからボールもらったら迷わず思いっきりシュート打て」

「わかった」

「ほら、桜井」


 姫川君からのボールが一樹にわたる。一樹を行かせまいと先輩方が囲むようにしてボールを取りに行くが、攻めすぎたせいで体力がなくなったのかみんなの動きが重く思うように動けないようだ。その結果、一樹はドリブル突破で難なく交わしていく。抜いていくたびに黄色い声援が聞こえてきて外野が盛り上がっていく。


「よし。翔琉」


 一樹のパスが走りこんだ僕のところに飛んでくる。合わせるようにして右足を振りぬく。

 蹴られたボールは、ゴール右隅に吸い込まれていった。


 ピッピー!!


「入った」

「ナイスゴール。翔琉」


 僕は駆け付けた一樹とハイタッチをして喜び合う。


「なんだ。あいつのシュートは!? 反応できなかった」

「思ったよりやるみたいだな。今の一点は仕方ない。切り換えしていくぞ」


 ここで前半終了の笛が鳴る。ベンチに戻ると、水分補給する。


「翔琉君。ナイスゴール」

「ありがとう。明日奈」

「みんなやるわね。特に姫川君よかったわよ。姫川君が止めてる限り負けないからね」

「ど、どうも」


 加奈に褒められて姫川君は恐縮している。


「おい、あんまりプレッシャーかけるなよ」

「そんなつもりはないけど」


 はたから見てた人たちは———


「俺もやってやる」

「俺も褒められたい」

「女子と話すきっかけが欲しい」


 チームメートのやる気がみなぎっている。


 そして、十分後、後半、一樹のキックオフで開始した。


「それ、翔琉。度肝を抜いてやれ」


 僕はボールが来るのと同時に右足を振り上げる。


「何? こんなところから打つのか!?」


 僕は相手の意表を打つようにロングシュートを放つ。

 ボールは空高く舞い上がっていく。


「調子に乗りすぎだ。ゴールラインを大きく割るだけだ」


 ボールは弧を描くようにしてゴールネットに突き刺さった。


「な、なんだと!?」

「まさかあれは、ドライブシュート!? 俺たちサッカー部でも打てる奴はそんなにいないのに。何で部活に入ってないんだ」


 うまく決まってよかった。


「やったな、翔琉」

「たまたまだよ。百回やって一回入るかどうかだから決まってよかったよ」

「それでいい。向こうは立て続けに決められて、焦ってるはずだ。それも無名の翔琉にやられてるんだからな。向こうはプライドにかけて翔琉にも厳しくマークがつくはずだ。そうなると周りのやつがフリーになる。そうなるとこっちのもんだ」


 一樹の言ったように試合が再開すると僕にマークが二人着いた。


「それ以上そいつに仕事させるな」


 だけど、ここからは一方的だった。敵のシュートは難なく姫川君が止め、フリーになってる味方にボールが渡り、三点、四点と入っていく。


「何なんだこいつらは」


 前半飛ばしすぎて体力消耗したのに加えて、予想だにしなかった展開に戦略が完全に崩壊してるようだ。

 そして、一瞬のスキを突き、一樹がドリブル突破してゴールを決めたところで試合終了のホイッスルが鳴った。

 僕たちは、五対零と圧勝するのだった。

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