第80話 球技大会当日の朝

 遂に球技大会当日が来た。今日から一週間球技大会期間中は学校指定ジャージで登校していいことになっている。僕は、スポーツバッグに汗をかいたときのためのタオルにスポーツドリンク。そして、忘れずに弁当を入れる。ちなみに球技大会の間は学食が使えない。だけどその代わりにキッチンカーが多く集結するそうだ。さすがメディアが取り上げる一大イベントのことだけはある。おそらく多くの生徒は利用するだろうが僕はちょっとお金を節約する意味で弁当を持参することにした。

 家を出ると明日香と合流して電車に揺られること三十分。最寄り駅のさいたま新都心駅に着いた。あっちこっちにジャージ姿の生徒を見かけ、どの人もやる気に満ち溢れている。

 学校の正門前にはテレビ局のスタッフの姿が見え着々と撮影の準備をしている。その様子を見てるとだんだん本番が近づいてきてるのを実感してきた。


「翔琉君、緊張してる?」

「緊張はとくにないかな。どっちかって言うと早く試合したくてうずうずしてるかな。明日香は」

「私も同じかな」


 正門をくぐると電光掲示板に今日の予定が出されていて多くの人だかりができている。僕たちはその人だかりを潜り抜けるように前に行って眺める。

 僕たち一年四組のサッカーの予定を確かめると相手は二年一組と書いてある。どうやら先輩方とやるようだ。時間は十一時から第二グランドのサッカー場と書いてある。時間までにメンバーがそろってなかったら失格になるので十分前にはいるように心がけよう。じゃないとこの学校はただでさえ無駄に広いから時間に余裕を持たないと間に合わない可能性が高いからだ。明日香のバスケットの予定を見ると、十三時からで相手は一年三組。隣のクラスのようだ。ちなみに組み合わせは事前に担任の先生がくじ引きを引いて決定したらしい。そして、どの種目もトーナメント制で一回負けたら終わりだ。初日に負けると残りの数日間はやることがない。だから娯楽の一環もかねてキッチンカーがきて祭りみたいに騒ぐ一大イベントになった経緯がある。


「時間は重ならないみたいだな」

「そうだね。翔琉君、応援行くからね」

「僕も行くよ。そのためには初戦勝たないと。気分が沈んだ状態で応援したくないし」

「お互い頑張ろう」


 僕たちは教室に入ってスポーツバックを置くと、一樹と加奈が近づいてきた。


「翔琉、組み合わせ見たか?」

「見たよ。十一時からだって」

「緊張してるか?」

「緊張はとくにしてないかな。どっちかっていうと早くやりたくてうずうずしてるかな」

「おっ! しばらく鳴りを潜めてたけど昔の翔琉が戻ってきたみたいだな」

「?」


 明日香が訳が分からないような顔をするが加奈が補足してくれる。


「翔琉は本来明るい性格でスポーツもすごかったわよ。特に球技だけどね。他者を寄せ付けない力があったわ。小学低学年のある時から本気でやってる姿を見なくなったし目立つようなことをしなくなって一樹の陰に隠れるようになってるけど、翔琉が本気になったなら大丈夫よ。さっきの言葉は昔試合前によく言ってた言葉だから。今回は期待できそうね」


 時刻は九時を回ったところだ。


「どうする。まだ時間はあるし外でキッチンカーのほかにもいろんな縁日が出てるみたいだし回ってみない?」


 球技大会の期間はホームルームがなく現地集合して終われば現地解散していいことになってる。しかし、学校行事の一環からその日の試合が全種目終わるまで学校にはいないといけないことになっている。そうしないと、負けた人は家で過ごす可能性があるためだ。それだと休みと変わらないため勝ち続けてる人からしたら不公平極まりないからだ。


「僕は、今は初戦に集中したいから遠慮しとくよ。一樹はどうする?」

「俺も翔琉と一緒だな。それに食欲にそそられて食べ過ぎてパフォーマンスを思うように発揮できなければ目も当てられないしな」

「そう。ならまたあとでね。行こ、明日香」

「うん。時間になったら応援に行くからお互い頑張ろう!」


 僕と明日香はグータッチをした。なんかこういうの言いな。


「あなた達、アオハルしてるわね」

「「アオハル?」」


 僕は加奈の言った言葉がわからなくて明日香を見たがお互い分からなくて首をかしげる。


「青春ってことだよ。ほら、漢字を訓読みしたらアオハルって読めるだろ」


 一樹が補足してくれる。


「「なるほど」」


 それから明日香たちが店をあさりに行くのを見送ってから僕たちも移動する。外に出るとさっそくグランドで野球の試合が始まっていて熱気が伝わってくる。ちなみにどの球技も時間が完全に重ならないようにずらされてるので気になる球技は見に行けるようになっている。

 僕と一樹は三十分ぐらい野球を観戦していた。


「もうそろそろ行って、ウォーミングアップでもするか」

「そうだね」


 僕たちはサッカー場に移動すると、みんなもう集まっていた。


「みんな早いな」

「いてもたってもいられなくてさ」

「それに活躍すれば彼女ができるかもしれないし」

「一樹がいる地点で女子がいっぱい来るのは目が見えてるもんな」

「そうなったら一樹には彼女がいるんだから俺たちにひり向いてくれるかもしれないしな」

「お前、鏡で顔を見ろよ」

「お前だって人のこと言えないだろ」


 みんな下心ありすぎで欲望むき出しだが緊張はしてないようだ。冗談を言い合えるぐらいだし。中には本気マジな人いそうだけど。

 それからみんなでパス回しやシュート練習などで軽く汗を流していたらとうとう試合時間が近づいてきた。

 ジャージを脱いで体操着になると、チームのゼッケンをつけてグランドに整列する。とうとう始まる。練習の成果を試す時が。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る