第61話 遂にオタクにとっては祭りといっても過言ではないイベントが来た

 あの楽しかった木更津への二泊三日の旅行から二週間ほど経ち、今日は八月十二日。世間一般はお盆休みだ。葉月とひよりちゃんは夏期講習に毎日行っている。その様子を見て受験生は大変だなと他人事のように見ている。二年後には自分の大学受験でそれ以上の目に遭いそうな気がするが今は横に置いておく。先の未来より今を楽しむのがもっとうだからだ。だけど僕は暇を持て余している。お盆だからみんな予定があるようで、明日香も何か予定があるって言ってたが、何かは知らない。聞いてみたら慌てたように話題を変えられたから無理には聞こうとしなかった結果だ。加奈は否かに帰ると言ってたし、一樹は特に何も言ってなかったから、気が向いたら連絡してみるのもいいかもしれない。いつもこの時期なら夏休みの宿題に追われた挙句、最終日まで溜めてしまうが、今回は旅行に行った際にみんなでやったからほとんど終わってしまっている。後はめんどくさい自由研究が残ってるぐらいだ。何を題材にするかはまだ決まってない。

 それはそうと、今日は部屋でゴロゴロしながらたまったラノベを読んでいる。内容はちょうどヒロインに頼まれて同人誌即売会で売り子を手伝っている内容だ。それを読みながらふと思った。


「そういえば今日、ビッグサイトでコミックマーケットやってたな」


 チラッと部屋にかかってる時計を見たら、午前九時を回ったところだ。


「せっかくだから行ってみようかな。思い立ったら吉日っていうし行動あるのみ」


 僕は読んでいたラノベを置くと起き上がってスマホを取る。アドレス帳から一樹を探すと電話をかける。

 コールが二回ほどなったところで一樹が電話に出た。


『もそもし、翔琉か。どうした?』

「一樹、今日予定あるか?」

『今日は部活もお盆休みでないし、一日中家でごろごろしてるつもりだったけど』

「電話しておいてあれだけど、サッカー部ってちゃんと活動してる? 一樹が部活行くのあんまり見ないような気がするし、よーく考えたらこの前の泊りの旅行の時も普通に来てたけど部活休んだりしてないよな。仮にもサッカー部のエースだろ」


 僕は今まで気になってたことを聞いたが一樹からの答えは呆気ない物だった。


『部活は平日の週三日ぐらいの二時間ぐらいしかやらないぞ。さすがに長期の休みには練習する日があるけど、それでも朝練で終わりだな。特に夏場は熱いからな。しかも前もって申請しておけば休みも取れる。至りつくせりだな』

「そんなもんなの? 運動部はきついイメージがあったけど。そんなホワイト企業みたいな感じなの?」

『他はどうか知らないけどうちの部活のスローガンは効率よく動き、休むときはしっかり休む。そうしないといざというときに力が出ないという教訓がある。これでもちゃんと全国に毎回いけるんだから間違ってないだろう。それに、よく顧問から今しかない青春も楽しめって言われるしな。だからみんなストレスをかけることなく試合に臨めるからいいパフォーマンスが出せるんじゃないかな』

「確かに成績は出してるから学校も強く言えないんだろうな。・・・・・・たぶん」

『一応言っとくが、筋トレと自主トレは毎日やってるからな』


 一樹が楽をしてると思われるのが嫌なのか最後につけ足してきた。これを他の全国を狙ってる人たちが知ったらどう思うんだろう。たぶん憤慨しそう。・・・・・・考えるだけ無駄か。話題を変えよう。


「ところで本題なんだけど、今日、ビッグサイトに行かない?」

『ビッグサイト?・・・・・・ああ、コミックのか。今からで大丈夫なのか。テレビで見たことあるけど朝一の電車で行っても長蛇の列ができてるらしいぞ』

「それはお目当ての同人誌を買いに行く人が売れきれる可能性があるから早く行ってるだけだよ。僕は何かを買うというよりどんな感じか知りたいだけだから」

『そうなのか。じゃぁ行くか』

「じゃあ春日部駅に十時集合で」

『分かった。それとせっかく行くならノートと鉛筆持ってきてくれないか』


 ノートと鉛筆・・・・・・? 一樹の突然の発言で僕の頭に疑問符が浮かぶ。何かに使う用途ってあったけ。疑問に思ってたことはこの後の一樹の言葉で解消される。


『どうせ自由研究まだ手を付けてないんだろ? せっかく東京に行くならなんかいいアイディアが転がってるかもしれないだろ』


 あたかも自由研究をしてないと言われるのが癪で見栄を張る。


「勝手にやってないって決めつけてくれないかな」

『何だ、やったのか?』

「・・・・・・やってないけど」

『だと思った。お前、俺にくだらない見え張ってもしょうがないぞ。じゃあ、十時な』


 一樹は電話を切った。言いたいことだけ言われた感じでなんか釈然としないけど、うまくいって自由研究を終わらせられたら一樹に感謝してもいいかもしれない。

 僕は、リュックサックにキャンパスノートに筆箱、それと、何かの時のためにデジタルカメラを入れた。カメラなら、自由研究のいい題材が見つかれば写真として残せるし、ビッグサイトに行けばコスプレイヤーが撮影会をしてる可能性が高い。もし撮れる機会があればあって損はないだろう。コスプレは最悪撮れなくてもいい。


 僕は春日部駅に九時四十五分ごろに着いた。十時までには少し時間があるけど遅刻するよりはいいだろう。それに言い出しっぺが遅刻したらシャレにならない。ほどなくして一樹が現れる。時間はまだ、九時五十分を回ったところで待ち合わせの時間はまだ来てない。


「少し早いけど行くか」

「そうだな。切符はどこまで買えばいいんだ。確かビッグサイトってお台場あたりだよな。新橋まで行ってゆりかもめに乗るとしたらとりあえず上野からJRか」


 一樹が確認して切符を買おうとしてる。


「待って一樹。買うのは新越谷まででいいよ」

「新越谷!? 行くのはビッグサイトだよな。幕張メッセと勘違いしてないよね」

「してないしてない。たぶんこっちの方が速いと思うから」

「まあ翔琉がそういうならいいか。任せるわ」


 僕達は新越谷までの切符を買い、改札を通るとちょうどホームに入ってきた急行中央林間行きの電車に乗った。ほどなくして新越谷についてホームに降りる。

 ホームは地上三階にあるので階段を使って一階まで下りる。


「いつも思うんだけど、乗り換えで降りるふとは武蔵野線乗り場まで離れてるけど乗りたい電車に間に合わないんじゃないか」


 一樹が階段を駆け下りてる人を見て疑問だったことを口にする。


「どうなんだろう。でもそう思うなら時間に余裕をもってくればいいんじゃないかな。そうすれば間に合わなくても次の電車に乗ればいいし、それに急いでまで電車に乗りたくない」

「そうだな」


 一樹ととめどない話をしながら乗り換え場所の南越谷駅に着いた。


「次は新木場までね

「了解」


 僕達は武蔵野線の東急行きに乗って新木場を目指した。暫く電車に揺られて舞浜に差し掛かったところで一樹が口を開いた。


「シンデレラ城が良く見えるな。見たの小学生の時以来だな」

「なら今度明日香たちを誘って来ようよ」

「それもいいな」


 そして次の葛西臨海公園に着くとき、


「この観覧車大きいな。こんなところにあるなんて翔琉知ってたか」

「知ってるよ。ここにある水族館に昔親と来たことがあるから。だけど、魚はあんま覚えてないけどこの観覧車はよく覚えてるんだよね」

「こんなに大きければそう忘れないわな」

「ちなみにこの観覧車、日本で二番目に大きいらしいよ」

「へぇ~、それはいつか機会があれば乗ってみたいな。ちなみに一番は何処なんだ」


 僕もそれは知らないかったけど一樹に言われ気になったのでスマホで調べると直ぐに見つかった。


「一番は大阪府・吹田市にあるEXPOCITY「OSAKA WHEEL」の観覧車だって」

「大阪か。ちょっと遠いな」


 そうこうしてるうちに新木場について降りた。

 それからりんかい線に乗り換えて国際展示場で降りた。


「新木場から二駅で着いたのか。確かにこっちの方が速いような気がするな」


 一樹もこの行きかたで納得したようだ。実際に調べたわけじゃないし体感的にそう感じるだけかもしれないけどこっちの方が一々新木場からゆりかもめのるより楽のような気がするんだよね。ゆりかもめのったらレインボーブリッジ渡るし、終点の方まで行かないといけないし。

 地上までエスカレーターで移動し、外に出て少し歩くといくつものピラミッドがひっくり返ったような建物が見えてきた。東京ビッグサイトだ。遂に到着した。

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