第59話 夏の定番て言えばやっぱ花火でしょっ!!

「次は何やりたいかリクエストある?」


 加奈みんなの顔を見ながら聞いてくる。

 僕は一樹と示し合わせたようにある物を出す。


「やっぱ夏といえばこれだろう」

「それは花火じゃない。二人とも用意いいわね」

「実はここに来るときに寄った道の駅で花火が置いてあるのを見て、夏の代名詞といえばこれかなと思って一樹といろんな花火買っておいたんだよね」

「私もやってみたい。お兄さん流石です」


 ひよりちゃんが嬉しそうにしている。


「ひよりちゃん、俺のことも褒めていいんだよ」

「あ・・・・・・はい、そうですね」

「俺に接する態度が辛辣すぎね? まあいいけっど・・・・・・」


 一樹とひよりちゃんの様子を見てみんな「あははは」と笑った。


 僕達はバケツに水を汲んで外に出ると花火の準備を始めた。


「何から始める」


 みんなで用意された花火を見ると、線香花火、ねずみ花火など種類様々だ。


「俺は線香花火かな」


 一樹はそう言いながら線香花火を取る。それに続いて加奈も葉月もひよりちゃんも同じのを取って各々で始めてしまった。

 僕は、すすきという種類の花火を取る。火をつけると、「シュー」という音と同時に火花が前方に吹き出た。この音が何ともいえない。

 一樹達は、両手に花火を持って振り回したりして遊んでいる。ずいぶんのはしゃぎように僕はあーはなるまいと無心で花火を堪能する。暫くすると色が段々変わり火花の散り方も変わった。

 次にスパークという花火を試した。この花火はさっきのすすきに比べて持続時間が長いから十分に楽しめそうだ。明日香も同じ花火をもって僕の隣に来る。一樹達を見てるとまだはしゃいでいる。あの輪には入りたくないよな。明日香の花火に着火すると僕のにも着火する。

 着火すると棒を軸にして燃え進みバチバチと音を立てながら、四方八方に火花が飛び散る。その様子を見ていた明日香は、


「まるで雪の結晶のようだね」


と、言ってきたので僕も「言われてみればそうだね」と相槌あいづちを打った。

 しばらく堪能していると、一樹達が手筒を持って僕達のところに戻ってきた。


「次はみんなでこれやろうぜ」

「それって打ち上げ花火?」


 明日香が聞いた。


「これは手筒といって、打ち上げ花火と違って噴出花火を手で持つタイプみたいよ」


 加奈が答えた。


「まるでバズーカ打つみたいだね」

「翔琉もそう思うか! テンション上がるな!」


 一樹と二人で盛り上がってると女子たちから何やら冷たい視線を感じる。


「何で男子ってこういうの好きなんだろうね」

「お兄と一樹君だけって可能性も・・・・・・」

「私にはついていけません」


 何か二人で盛り上がったのが恥ずかしくなってちょっと落ち込む。


「私は理解あるからね!」


 サムズアップする加奈の顔が少しイラっとした。


気を取り直して手筒花火をみんなに渡す。安全面から周りに誰もいないか確認して着火する。

 しばらくすると火花が出だし、勢いを増して前方に二メートルぐらい噴出した。だけど、手筒のタイプだからか直ぐに終わってしまう。


「あっさりお終わったな」


 一樹が呟いた。その声が聞こえたのかみんな頷いている。やっぱりなんか物足りなさをみんな感じたようだ。

 気を取りなおしたように残ってる花火を眺める。残りの数が少なくなって終わりが近づいてくると何か名残惜しい。今回は初めて明日香たちと泊りがけで出かけてるからかもしれない。

 花火を眺めてると拳銃の形をした花火があって手に取った。


「翔琉いいの持ってるな」


 一樹が同じのを取る。

 その様子を見ていた加奈が「男子はそういうのでよくテンション上がるわね」といいながらタコの形をした花火を取った。


「明日香これ見て! 可愛くない」

「本当だ」


 その様子を見て僕と一樹は加奈に言われた言葉をそっくりそのまま返した。

 僕と一樹は拳銃の花火に着火した。火の感じはすすきと見た感じだったが手に持ってるのが拳銃その物の形だったせいか何か違うものに感じてこれはこれで楽しかった。

 明日香や加奈達、女子四人は見た目が可愛いからか全員タコのデザインされた花火を持っている。その形は、タコというだけあり足が五本ある。実際のタコは足が八本でタコじゃないじゃんていう者もいるだろうがそんな些細なことはどうでもいいだろう。パッケージにはタコ踊りと書いてあるがどのようになるか想像できない。みんなも見るのが初めてで分からないそうだ。僕と一樹は興味がわいてみんながやるのを眺めていた。

 着火して火が激しく飛び散る。足それぞれに火がついて独立した線香花火のようだ。眺めていると突然、折りたためられていたタコの足五本が傘の柄みたいに大きく開いてふわふわと舞いだした。確かにその様子はタコが踊ってるようでとてもきれいだった。

 そして一通り遊ぶと最後はやっぱり線香花火で絞めだ。


 線香花火に着火すると、小さな火の玉ができそこからバチバチと音を立てて燃えている。それをぼ~と見てるだけで何か心が癒されるような気がするのは何でだろう。

みんなも静かにこの時間は自分の空間だというように堪能している。花火のバチバチという音だけが良く聞こえる。


「そういえば昔は線香花火の火持ちの長さを競ったりしたものね」

「何だ藪から棒に」

「いやどうせなら競った方が楽しいじゃない」

「いまさら言われてももう消えるぞ」


 みんなの線香花火もそんなに長くは続かないだろう。それに残りの花火はもうないのにどうしろというのか。今回は加奈が言いだすのが遅かったと諦めるだろう。


「こんなこともあろうかと未使用な線香花火、六本あるぞ」

「一樹、ナイス!」


 僕は一樹にボソッと言った。


「何で用意してあるんだ?」

「加奈のことだからただ花火をやるだけでは芸がないから何かあるんじゃないかと思ってあらかじめ線香花火、六本だけ抜いておいたんだ」


 一樹に言われたら確かにと納得してしまった。


「やるのはいいけど負けたらどうなるんだ。変なのはやりたくないぞ」


 僕は昼間の海の出来事を思い出す。大丈夫だと思うがまた変な輩に絡まれたら目も当てられない。

 僕の言いたいことを察したのか加奈が左目をウインクしながら言った。


「大丈夫よ。大したことじゃないから。この後のお風呂に入る順番を決めるだけだから。火が一番長く消えなかった人から順に入るって感じでね。みんな汗かいたから早くお風呂に入ってスッキリしたいでしょう」


 加奈の提案にみんなが乗った。


 みんな線香花火を持って同時に火をつける。みんな自分のと他の人たちとのを見比べている。暫くはその状態が続いた。みんな無言で自分の線香花火に集中している。緊張で汗がしたたり落ちる。

 だが、その沈黙が破られる。


「――あっ!」


 その声の主は明日香だ。今にも線香花火の火が落ちようとしている。このままじゃ明日香が真っ先に脱落しそうだ。だけどこれは勝負の世界だ。いくら彼女のピンチでもどうすることもできない。許せ。明日香と心の中で謝る。チラッと明日香を見るとあわあわとして今にも泣きそうだ。その様子を見た瞬間、僕の中にある何かが弾けた。


 明日香の風前の灯火の火が突然大きくなった。


「――えっ」


 明日香が驚いたように振り替えて僕の姿を見るとまぶたを大きく開いた。


「――翔琉君!?」

「今は花火に集中」

「は、はい」


 明日香の線香花火と僕の線香花火が合わさったことで火の勢いが若干戻る。


「ルール上問題ないだろう。協力しちゃいけないって言われてないし・・・・・・」

「翔琉達がそれでいいならいいけど、火が落ちたら二人同時に負けるってことになるけどいいの?」

「それがどうかした?」


 みんな加奈の言いたいことが理解したのか僕達を見てニヤニヤする。一体なんだろうと思っていると加奈から爆弾発言が落ちた。


「その場合は二人一緒にお風呂に入るってことでいいの?」

「「――えっ!」」


 ポタッ


 加奈の発言に動揺したのが良くなかったのか僕と明日香は飛び上がるように離れてその勢いで線香花火の先端にあった火の玉が地面に落ちた。


「翔琉と明日香が最初の脱落ね」


 それからしばらくしてひよりちゃん、一樹が脱落した。残すは加奈と葉月だけだ。


「まさか葉月がここまでやるとは思ってなかったわ」

「私はこういう勝負事には負けず嫌いなんで」

「そう。奇遇ね。私もよ」


 この時の加奈の発言に誰もが口に出さなかったが(だろうね)と心の中で思った。


「葉月、知ってる? 線香花火って翔琉がやったみたいな無駄のことをやらなくても長持ちさせる方法があるのよ。こうやって持つ場所を変えて、「玉」と呼ばれる少し膨らんだ部分のすぐ上、少しくびれた部分を軽くねじると、中の火薬がまとまり、和紙の強度も増すため長持ちするのよ」

「へぇ~そうなんですね」


 加奈の雑学に葉月がそっけない態度で返す。


 やっぱりなんかあると思ってたが線香花火の攻略法を知ってたのか。途中で持つ場所を変えたのは、僕達に気付かれてまねされないように対策してたんだな。全く抜かりがない。最初は僕達と同じようにしてたのに未だに燃えてるってことは、単純に運がいいのか別の方法があるのか、加奈ならどっちもありそうで怖い。それにしても葉月もいい加減長くないか。

 葉月の方を見ると線香花火の火がまだ衰えていない。よく見るとさっき加奈が言ったあたりを持っている。いったいいつからだ。もしかして最初からか。異変に加奈も気づいたようだ。


「葉月、もしかしてさっき私が言った知識、知ってた?」


 加奈の頬を冷や汗が伝う。


「ちょっと前にたまたまネットに書いてあるのを見つけて、もしかしたら役に立つかなあと思って覚えておいてよかったです」

「それぐらいの意欲を勉強でも見せろよ」


 僕は思わず思ったことを葉月にぶつける。


「お兄は黙っていてください」


 聞く耳を持ってくれなかった。


「この勝負は私の勝ちです。加奈ちゃんは私たちを侮って途中までその策を使わなかった。最初から全力でやればどう転んだか分からないのに。まぁしいて言えば油断したほうが悪いってことですね」


 そして、加奈の火が地面に落ちて勝負がついた。


 結果、お風呂は葉月から入って僕が最後に入ることに決まった。当然モラル的に明日香と一緒に入ることは無い。明日香と話し合った結果、僕が最後に入る形にしたわけだ。

 決まった際、加奈から「明日香の後だからってお風呂のお湯飲むんじゃないわよ」って言われて「そ、そんなことしないよ!」て大声で張り上げたのが今日で一番疲れたような気がする。

 僕達は火の始末をして別荘に戻る。その際に明日香が隣に来ると耳元で囁く。


「一緒に入りたかったね」

「えっ!――」


 すぐに恥ずかしくなったのか「じょ、冗談だからね」っと顔を真っ赤にしながら小走りで駆けて行く。

 僕は、明日香に言われた言葉が耳元でリフレインされてその場で金縛りにあったように動けない。きっと僕の顔は紅潮してるはずだ。だって、僕の流れてる血液という血液が沸騰するように熱いんだもの。

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