第58話 怖がりな明日香も可愛い

 僕達が外に集まると加奈が説明する。


「肝試しって言ってもやることはいたってシンプルよ。まず、二人一組のペアを作ってこの一本道を真っ直ぐに言ったところにある神社の境内に置いてあるこの石を持ってこの場所に戻ってくるだけよ」


 そう言って加奈が見せてきた石は、何の変哲もないUFOキャッチャーや雑貨に置いてあるようなキラキラしてる石だ。


「ここから神社までの道は一本道だけど街灯がなく薄暗いから懐中電灯をペアごとに渡すわ。ここまでで何か質問ある。ないならペアを決めるけど」


 みんなから意見が出なかったのでペアを決めることにした。


「ペア決めだけどこの間に入ってる串を抜いて先についてる色が同じ色の人がペアね」


 加奈がフルーツの入っていた缶詰にバーベキューに使わなかった気の串が入っている。軽く缶詰を振るとみんなの前に差し出す。みんなが思い思いにつかむとそれを引っこ抜く。

 僕の色は・・・・・・赤だ。ペアは誰だとキョロキョロ見ると同じ色の串を持っている人物が。見上げると何と明日香だ。


「明日香、一緒だね」

「う、うん。そうだね」


 何かさっきから明日香の様子がおかしいような。どうかしたのかと聞こうとしたが加奈の声にさえぎられる。


「みんなうまくばらけたわね」


 僕たち以外に加奈と一樹、葉月とひよりちゃんがペアになったようだ。こんな偶然あるか。絶対加奈が何か細工してそう。僕にはわからないけど・・・・・・だけど、明日香と一緒ならまあいいか。


「じゃぁさっそく始めようと思うんだけど・・・・・・」

「あれ、こういうのって気分を盛り上げるために怖い話ってするんじゃないの?」


 僕は気になっていたことを加奈にぶつけた。


「な~に? 怖い話を聞きたいならするけど・・・・・・一樹が」

「俺かよ! 別にいいけど」


 一樹がブツブツと呟きながら何の話をしようかと考えている。


「べ、別にやらなくてもいいんじゃないかな。時間も時間だしとっととやろうよ」

「どうしたの明日香。もしかして怖いの?」

「そそそそそんなわけないじゃない」


 明日香が見たことないぐらい動揺している。


「なら、最初に行くペアは明日香と翔琉でいいわよ」

「なな何で!?」

「だってさっさと終わりたいんでしょう。だったら最初を譲ってあげるって言ってるのに何か問題ある?」

「――わかったわよ」


 明日香が神社に向かって歩き出す。

 僕は加奈から懐中電灯を受け取って明日香を追いかける。その時、加奈がほくそ笑んだ気がしたが僕はそこまで気にしなかった。


 懐中電灯の明かりを頼りに歩いていると、突然明日香に左手を握られる。


「べ、別に怖いわけじゃないからね。これならはぐれないかなっと思って」


 そういいながら明日香の手は震えている。僕は不謹慎ながら震えた子羊みたいになりながらも気丈にふるまう明日香を見ていとおしく思った。


 神社に向かっている道は周りに気が生い茂っていて人の気配を感じない。時々吹く風が気を揺らす音が聞こえるぐらいだ。だけど怖い人からしたらこの状況だけで怖いと思い脳が勝手にお化けだとか作り出すんだろうな。確かに非科学的なこともあるだろうけど肝試しで起きる大半は自然現象でただの勘違いだ。それにしても明日香と握ってる手がだんだん痛くなってきた。恐怖心で手がこわばってるようだ。ここは何か話でもして気を紛らわせた方がいいだろう。


「明日香、大丈夫?」


 ビクッ!


「ななな何が!?」


 僕が声をかけると明日香の方がビクッとして動揺するように返事する。この反応で最後まで持つのかなあ。ここは引き返した方がいいんじゃないか。みんなになんか言われたら僕が怖かったから引き返してもらったことにすればいいし。


「明日香――」

「――ひゃっ!?」


 僕が声をかけようとしたら明日香が悲鳴を上げた。


「どうしたの?」

「今何か冷たいものが首あたりにポタって」

「雨かな」


 僕は明日香と握ってた手を放してかざしてみた。水滴は落ちてこない。それに今夜は星がよく見えるから雨は降ってないはずだ。

 その時、気の影から何か光るものが見えたような気がした。何だろうと思ってると、


「ひゃぁぁぁぁ!?」


 明日香の甲高い悲鳴が聞こえると同時に僕の腕にしがみついてきた。その所為で明日香の胸の感触がダイレクトに感じて僕は堪能しそうになるのをぐっとこらえた。


「ど、どうしたの」

「あ、あああああっちの方から何かが飛んできて腕のあたりに」


 明日香が指さした方を見た瞬間、ピシャッと僕の頭に何か当たった。この感触は水か?

 目を凝らしてみると月明かりに照らされて一瞬ある物が見えた。あれってまさか。

 僕は半信半疑ながら歩いて行く。明日香にしがみつかれて歩きづらいけど僕にとっては役得なのは言うまでもない。

 それから気につらされたものが明日香に当たって騒いだり草むらから蛇が出てきたりした。明日香はそのたびに怖がって飛び跳ねていたけど、よく見ると蛇のおもちゃだ。やはり思った通りだ。どれも肝試しのために加奈が仕掛けた罠だろう。ただ歩くだけじゃ詰まんないから色々とやってそうだな。明日香に行ったらネタバレになるから黙っとくかな。本音を言えば明日香が怖がるたびに抱き着かれるのがたまんないからだけど。そのたびに顔がニヤけそうになってしまう。おっといけない。表情だけでも引き締めなければ。


 神社まであと三百メートルぐらいのところまで来た。


「な、何か聞こえない?」


 明日香が不安そうにあたりをキョロキョロする。


「風の音じゃない」

「そ、そんなのじゃなくて声が聞こえるような・・・・・・それもお経みたいなのが」


 確かに耳を澄ませるとそれっぽいのが聞こえてくるような気がする。


「神社が近いし何かやってるのかな」

「こんな時間にやってるものなの」

「とりあえずもうすぐゴールだから行こうよ」

「う、うん」


 それから何事もなく神社が見えてきた。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!?」


 突然耳元で明日香の悲鳴が轟いた。僕は突然響いた明日香の声に驚いた。今も心臓がバクンッ、バクンッ、と鼓動をたてている。


「ど、どうかした?」

「あ、あれ」


 明日香が恐る恐る神社の入り口を指差す。その方向を見ると紅い炎のような光がフワフワと宙を彷徨っている。まるで霊魂のようだ。それにしても手が込んでるな。


 ガサガサ・・・・・・


 周りの雑木林が音をたてたと思ったら何かが飛び出してきた。


「どう、驚いた?」


 加奈達が雑木林から出てきた。やっぱり所々にあった仕掛けは加奈達が仕掛けたものだったようだ。


「驚かすなよな。それにしてもやっぱり水鉄砲で攻撃してきたり木にこんにゃくをつるしたり古典的な仕掛けをしてたんだな」

「やっぱり翔琉にはばれてたか。だけど明日香には効果てきめんだったでしょう。ほら」


 明日香は加奈達が飛び出してきた音で恐怖心が限界を超えたのか目をまわして倒れている。


「あ、明日香!」


 ゆすっても叩いても反応ない。完全に失神してしまってるようだ。


「いくら何でもやりすぎだって」

「ご、ごめん」


 さすがに加奈達もやり直ぐだと思ったのか謝ってくる。


 それから別荘に戻って目覚めた明日香は事の顛末を知るなり怒って、みんなを説教した。僕も途中で気づいていながら黙ってたことで同罪だった。僕達は正座でそれを聞き入れるしかなかった。この時の明日香の表情が般若みたいの表情で一番怖かった。


 ちなみに、明日香が目覚める前に火の玉のことを聞いたらみんなそんなことはしてないと言った。最後の仕掛けはラジカセでお経のテープを流して恐怖心をあおることが最後だったようだ。

 もしかしたら僕と明日香が見たのは本物だったんじゃ。このことをわざわざ明日香に知らせてさらに怖い思いをさせることもないだろうと僕の胸にしまい込んだのだった。

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