第56話 海での遊びを満喫する
しばらくして僕と明日香はみんなのところに戻った。
「遅かったな。んっ、何か二人とも顔紅くないか?」
「「な、何でもないよ」」
一樹に言われ僕と明日香は慌てたように誤魔化した。それ以上何も言われなくてホッとすると加奈と目が合った。何か意味深にほくそ笑むと何事もなかったように言った。
「みんな集まったし次は何しようか?」
何するにしても結構遊びつくしたしな。バナナボートには乗ったしビーチバレーもやった。昼食前にはそれなりに泳いだし後ななのがあるんだろう。ウ~ンと悩んでいると、葉月が挙手して言った。
「ちょっとの間、自由行動にしませんか。私ちょっち疲れたので」
「さんせ~い!」
すぐにひよりちゃんが同調する。
「じゃあ、しばらく自由行動にしようか。一樹、向こう岸まで泳がない?」
「そうだな。せっかくだから泳ぐか」
一樹と加奈は海に飛び込むと直ぐに人ごみに紛れて見えなくなった。
「・・・・・・あいつら元気あるね」
「そうだね。・・・・・・あの翔琉君。ちょっと歩かない」
「いいよ。葉月たちも来る?」
「いえ、お二人でどうぞ。せっかくだからひよりと砂遊びでもしてるんで」
葉月はその場にかがんで砂を掘っている。そこにひよりちゃんも加わった。何だか二人とも楽しそうだからいいか。
「じゃぁ、歩こうか」
「うん!」
明日香が嬉しそうに手を繋いでくる。僕はまだ心臓がドギマギしてるが、明日香はそれ以上のことをしたからか耐性が付いたのかあまり気にしてないようだ。何だが葉月たちの視線を感じるが気にしたら負けだ。僕はその場を逃げるように明日香の手を引いて歩き出した。
しばらく海岸に沿って歩いていると、貝殻や瓶の破片、変わった形をした流木など沢山のものが流れ着いていた。明日香はそのうちの一つを拾った。
「ほら見て翔琉君。この貝殻太陽の光に照らすと虹色に輝いてきれいじゃない」
「そうだね。明日香はこういう物が好きなの?」
「そういう訳ではないけど、たまたま目に留まったものは気にならない?」
「確かに」
僕も何か拾うかな。
何か漂流物がないか探していると、明日香が持っていた貝殻を耳元に当てる。
「こうすると波の音が聞こえるけど何でだろうね?」
「それは、貝殻を耳に当てると、耳との間にわずかな隙間ができるでしょう。 この隙間にノイズが入って来て起こる様々な現象が、あの波の音なんだよ。 隙間から音が入って来ると、音は貝の渦巻きの中で色々な干渉を起こして、 また、中で共鳴もするから貝の形によっては聞こえ方が違うかもしれないね」
「へぇ~、翔琉君よくそんなこと知ってるね」
「この前見たテレビでたまたまやってたんだよ」
それからしばらくの間、明日香と貝殻の見せあいっこをしながら楽しんだ。
葉月とひよりちゃんのところに戻ると人だかりができていた。
何だ? またトラブルか。
僕は急いで葉月たちの元に戻ると葉月が僕に気付いて「お兄~!」手を振っている。その表情は楽しそうだ。どうやら僕の心配は杞憂で終わったようだ。
「葉月、どうかした?」
「これを見てください! ひよりと一緒に作った最高傑作です」
次の瞬間人混みが出来てた理由が分かった。その場所に立派な城が立っていたのだ。
「えっ、すごっ!」
「本当にすごい。砂でこれ作ったの!?」
明日香も驚いて開いた口が塞がらない。
「お兄、せっかくだから写真を撮ってくれませんか?」
「いいけど」
僕は荷物の中からスマホを取り出しカメラ機能で構える。
葉月とひよりちゃんが砂のお城を挟む様に両サイドに立って決めポーズをとる。
僕が二人をカメラでとらえてシャッターを押そうとした瞬間まさかの出来事が起きる。
海からいつもより高い波が来て砂のお城の半分ぐらいを削り取ったのだ。
「あ~、せっかく作ったのにぃぃぃぃぃ~」
「苦労したのに」
葉月とひよりちゃんがショックのあまり膝をついてうなだれている。
その様子を見て多くのギャラリーが一斉に視線を逸らした。
「え~と、どんまい」
僕はそれしか言うことができなかった。
それからちょっとして一樹と加奈が戻ってきた。
「葉月ちゃんたちどうしたんだ?」
「ちょっとね」
半壊した砂のお城があるからか直ぐに事情を察して「あ~あ・・・・・・」と同情する。
「それよりこれでもやらない」
そう言って加奈はスイカを取り出す。
「そのスイカどうしたんだ?」
「「スイカ!?」」
スイカという単語に反応して葉月とひよりちゃんが跳ね起きた。
今までの意気消沈が嘘のようだ。
「さっきそこで秋穂さんと明美さんに会って海といえばスイカじゃないって渡されたんだよね」
「母さんたちが来てるのか。それにしても姿が見えないけどどこにいるんだ?」
「秋穂さん達は何か積もる話もあるからって先に別荘に戻って行ったわよ」
母さんたちは学生の時の友人って言ってたし、それが久々に会えば話したいこともあるだろう。それにしても知り合い同士の子供が付き合ってるなんて世間も案外狭いかもしれないな。
「じゃぁ、さっそくスイカ割りでもしましょう」
「やるのはいいけど叩く棒はどうするんだ」
「ここにあるぞ」
一樹が棒を掲げている。
「何でそんなもの持ってるんだ?」
「これもスイカと一緒に渡されたんだよ」
「用意がいいことで」
加奈がスイカを砂浜にセットする。
「誰からやる?」
「あの~、私やったことないんだけど」
明日香が言った。道理でさっきから大人しかったわけだ。
「もしかして、ひよりちゃんもない」
「私は昔、親とやったことあります」
「えっ、でも明日香はやってないって」
「あ~、お姉ちゃんその時熱で寝込んでたから」
「子供がつらいのに何してるの?」
みんなが思ったことを加奈が代弁する。
「いや楽しいことやってれば熱なんて吹き飛ばして出てくるんじゃないかなって」
「
「何ですか、それ?」
みんな呆れたような視線をひよりちゃんに送り明日香に同情する。
「じゃぁスイカ割を説明するより見せた方が速いわ。最初は葉月がやってくれる?」
「何で私なんですか?」
「この中で一番うまそうだし・・・・・・ダメ?」
「別にかまいませんけど」
加奈がどこからか取り出した目隠しを葉月に付ける。そして、一樹から棒を受け取ると準備完了だ。
「あ、そうだ。ちょっと待って」
僕はそういうとスイカの下にレジャーシートを敷く。
「砂浜で割るとスイカの断面に砂が付着して、食べるには適さない状態になる可能性もあるからレジャーシートを敷いたら予防になるんじゃないかと思って。ないよりはいいでしょう」
「翔琉、ナイス! 気が利くじゃない」
「では気を取り直して」
みんなで葉月をくるくる回す。平衡感覚がなくなったところで回すのをやめ、みんなで指示する。
「真っ直ぐ」
「右、右、」
「あ、今度は左」
葉月は指示を聞きながら右に左に動く。そして、スイカに近づいたと葉月が判断して棒を振り落とす。
結果は――
ピキッ!
葉月の振り下ろした棒は見事スイカに当たり表面にひびが入った。だけどスイカを割るに至ってない。どうやらパワーがたんなかったようだ。でも罅が入ったってことは次に当てられる問われる可能性が高い。それにしても一発で当てるとは。葉月はあんまりフラフラしなかったし三半規管が強いのかもしれない。
「惜しかったわね。でもこの様子じゃ直ぐに終わるかもしれないし明日香やってみる」
「そうね。面白そうだしやってみようかな」
明日香も目隠しをし準備万端だ。
「右右」
「そのまま真っ直ぐ」
明日香は指示に従って順当にスイカに向かっていく。だが、スイカまであと五メートルぐらいのところで異変が起きた。それは、加奈が全然違う方に指示を出したからだ。
「明日香、そっちじゃ――ふがっ!?」
何者かに口を塞がれる。
「ごめんね翔琉。加奈に言われてやってることだけど俺も面白そうなこと好きだから便乗しちゃった」
この声は一樹か。何とか手を振りほどこうともがくが外れない。視線で葉月とひよりちゃんにどうにかしてくれと訴えるが、みんなして明日香に的外れな指示を出していく。ここには誰も味方がいないのか。その状況にショックを受けてる間にも明日香がスイカと全然関係ない方に向かっていく。というか僕の方に近づいてきてる。
明日香がとうとう目の目に来て止まった。そっして何かを察したようにみんな離れていく。一樹も僕を解放して離れた。よくわからないがチャンスだ。僕は意を決して言った。
「明日――」
次の瞬間ボウッ!という風切音が耳に聞こえたと思うと明日香が棒を振り下ろしていた。気のせいかちょっと掠ったような。
明日香が目隠しを取る。
「あれ、何で翔琉君がいるの。スイカは・・・・・・全然違うところにある。結構難しいのね」
みんなこうなることが分かっててこの場を離れたのか。お陰で肝が冷える思いをした。
「次は僕がやるよ」
これ以上長引かせるわけにはいかないとスイカを割ることだけに集中する。スイカの位置は大体把握したから大体の位置はつかめる。不安は僕の三半規管の強さだが思ったほど目が回っていない。僕は誰も信用ならないと指示を無視する。自分の勘だけで動く。この辺りかと当たりをつける。棒を構えた次の瞬間――
「翔琉君。ちょっと右だよ」
明日香の声が耳に届いた。僕は言われたとおりに少し右に動く。彼女の言うことを信じない彼氏がいるだろうか。否、断じていないだろう。もし嘘だとしても笑って許そう。
僕は勢いよく棒を振り下ろす。
バキッ!
手にスイカを叩いた衝撃が伝わってくる。
次の瞬間、スイカは綺麗に割れた。
「もう終わり、もうちょっとやりたかったのに」
「私たちもやりたかったです。お兄のせいで」
何かみんなからジトッとした目で見られる。明日香は満足した表情だが。
加奈も一樹もこの状況を楽しんでるだけでそれほど残念そうにしてない。
だけど、葉月たちは残念そうにしている。さすがに一回はやらせるべきだったか。だけどあれ以上やっていたら加奈たちに何をやられるか分からない。すっかり忘れてたが、こういう悪戯みたいなことは昔から好きだった加奈のことだ。油断ならない。
でも流石に葉月たちが不憫になり、
「今度何か一つだけ言うこと聞くよ。出来る範囲でだけど」
「お兄、本当」
「お兄さん、男に二言はありませんね」
「出来る範囲でだよ」
二人とも聞く耳を待たないで何にしようか話し合っている。こうなったらなるべく無難な願いが来ることを祈るしかない。
僕は現実逃避するみたいに言った。
「せっかくだからスイカ食べよう」
みんなでスイカを食べる。途中から塩も振る。塩も母さん達から渡されていたようだ。用意が行き届いている。スイカを食べ終わると日が傾いて暗くなるまでみんなで遊びつくしたのだった。
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