第54話 僕の感情は怒りさえ凌駕する
僕は、明日香をナンパしてた男を殴り飛ばした。その様子を見た取り巻き達は何が起きたか分からず立ち尽くしている。
「な、何しやがるんだ」
取り巻き達が何やらわめいているが一睨みすると黙る。所詮口だけでこういう修羅場はくぐってないんだろう。
最初は殴るつもりはなかった。ナンパしてる男の背後から明日香に声をかけてその場を離れるつもりだった。それでもしつこいと腕の一つでもひねれば諦めるだろうというぐらいの気持ちだった。だけど、明日香が叩かれるのを見た瞬間、頭の中が真っ白になって気づいた時には殴ってしまった。
「お兄・・・・・・」
「お兄さん・・・・・・」
後ろから葉月とひよりちゃんの心配そうな声が聞こえてくる。それにより冷静になることができた。つい、カッとなって殴ってしまったが、よく考えるととんでもないことをしてしまったんじゃ・・・・・・それによく見るとそこら中に野次馬がいるし、携帯のカメラのシャッター音がどこともなく聞こえてくる。これって後でネットでさらされるんじゃ・・・・・・学校にバレたらよくて謹慎、悪かったら退学処分ってことも・・・・・・そう思うとタラタラと冷や汗をかく。
ガラガラ・・・・・・
音がしてハッとすると男が立ち上がるとこだった。
「いきなり何をしやがる。こんなことしてただで済むと思ってるのか!」
「え~と、正当防衛?」
僕は、この場を誤魔化さなくてはと咄嗟に言葉を紡いだ。
「何が正当防衛だ。俺がお前に何をした!」
男の口からごもっともな意見が飛んできた。
それはそうだよな。この後どうしようと必死に考えを巡らしてると、
「正当防衛です。お兄は殴られた明日香さんの彼氏なんですから!」
葉月から暴論ともいえる言葉が飛んできた。その理屈ならやられてる人の代わりにやってもいいってことになるんじゃ。ただここは葉月の言葉に乗っかるとしよう。
僕が両手をぶらぶらさせてると男が飛びかかってきた。僕はその飛びかかってきた男の足を払って転ばせるとこれ以上暴れない様に馬乗りになって押さえつけた。
転ばされたせいで来ていたアロハシャツが砂まみれになった男が喚き散らす。
「ふ、ふざけるな! たかが胸を揉んだだけじゃないか!!」
「――は、胸?」
男の言ったことが理解できなくて、明日香を見る。恥ずかしそうに胸を隠している。葉月とひよりちゃんも男を睨みつけている。
「あ~、なるほど」
理解した。とりあえず落ち着こう。こういう時は深呼吸だ。す~は~す~は・・・・・・
「――って落ち着いてられるか! お前、普通に犯罪じゃないか。何がやったかだっよ。ふざけるな」
僕は馬乗りになったまま、男のアロハシャツの襟をつかみ前後にゆする。
「く、くるしっ・・・・・・は、はなせ・・・・・・」
男が息絶え絶えに何か言ってるが僕の耳に届かない。
「ぼ、僕だってまだ明日香の胸触ったことないのに・・・・・・」
本音がボロッとこぼれる。
「あの、お兄・・・・・・」
葉月から遠慮がちに声がかかる。
「その人、伸びてませんか」
僕は掴んでた男を見ると、体がだら~んとして白目をむいてる。しかも口から泡のようなものがこぼれてるような。
「あ、やっちまった」
僕はすぐに手を放した。すると男の後頭部が勢いよくちょうど倒れていたテーブルの角に当たり鈍い音が聞こえた。
うわ~、痛そうとどこか他人事のように見ていた。これでも起きないということは本当に気絶してるようだ。まさか死んでないよな。何かやりすぎたような気がしてきたけど後のことはその時考えればいいか。
僕が明日香に近づくと、明日香が身をよじらせる。
「どうかした?」
さらに一歩踏み込むと明日香も一歩下がる。
えっ!? もしかして避けられてる。何で? 男を殴ったのがいけなかったかなあ~。でもな~、あれぐらいしないと僕の気が収まらなかったことも事実だしな~。
「お兄さん、さっき呟いてた言葉を思い出してみてください」
ひよりちゃんが困ってる僕に助け舟を出してくれるようだ。僕は何を言ったか今までの言動を思い出す。その中で明日香が気にしそうなのは・・・・・・
「あ! もしかして僕がボソッと呟いたのが聞こえたとかないよね。まさかね」
「そのまさかです」
僕は真っ青になり慌てて明日香に言い繕う。
「ち、違うんだ! さっきの言葉の
「安心していいですよ。お兄にはそんな度胸ないですから。それにお二人は未だに手をつなぐのがやっとでキスすら済ませてないんでしょう」
「な、何でそんなこと知ってるんだ」
「普段のお二人の態度を見てたら誰だってわかります」
何か妹に自分の恋愛事情が筒抜けだと思うとなんか恥ずかしんだけど。
「わかってるよ。葉月ちゃん。ちょっと恥ずかしいだけだから。翔琉君もなんか避けてるみたいになっちゃってごめんね」
どうやら普段通りの明日香で安心した。だがこの時失念していた。気絶している男には取り巻きが二人いたことを。
辺りを見渡すとちょうど逃げ出してるところだった。まだそこら中に野次馬がいる。その中に逃げられたら人ごみに紛れて見失ってしまう。僕は慌てて追いかけた。
すると、取り巻きの一人がすっこけた。誰かが足を引っかけたようだ。
「あんだけのことをしといてどこ行こうって言うんだ」
仲間がやられたのを見て、もう一人が一目散に逃げる。
「くそっ、俺だけでも――――クッ、がっ!!」
もう一人の男の急所に何か物が当たったか悶絶している。
「私の親友に手を出しておいてただで済むと思わない方がいいわよ」
僕は追いつくと、一樹と加奈が取り巻きを押さえていた。それにしても男が何で悶絶してるのかと思ったら加奈が昼に飲もうと買ってきたペットボトルが入ってるビニール袋をフルスイングしたようだ。痛そう。その様子を見てるとなんか縮み上がりそうだ。一樹も同じ気持ちのようだ。これは男のあるあるかもしれない。
それからちょっとすると野次馬の誰かが呼んできてくれたのか警備員が男たちを連れて行った。
因みにその時には気絶してた男も目覚めていてちょっとホッとした自分がいたのだった。
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