第51話 僕と明日香は羽目を外す

 僕達は昼食前にビーチバレーで汗をかいたのと体に着いた砂を洗う意味で海で軽く泳いでいた。


「何か知んないけど海といいプールといい浸かると疲れが取れるような気がするんだけど何でだろう」

「翔琉君もそう感じるんだ。私も」


 僕と明日香は二人で海の浅瀬で軽く浸かっている。

 一樹と加奈は近くを泳いでいる。さっきあんなにビーチバレーをしたばっかりなのにあの二人は疲れというものを知らないようだ。

 ひよりちゃんは体長が回復したのか浮き輪を膨らませてその上に座っている。葉月はひよりちゃんが座っている浮き輪に手を置きぷかぷかと漂っている。あの二人なら心配ないと思うが時々来る波に流されないか心配だ。


「明日香、ありがとう」

「何? 突然」

「いや、僕は今まで一樹達としかいなかったし、あの二人の陰に隠れて存在感もなかったと思うんだ」

「そんなことないよ。私にはずっと翔琉君しか視界に入ってなかったし・・・・・・」

「えっ!?」


 明日香は自分が口ばしってしまったことを理解して紅くなる顔を隠すように「今のは忘れて!」と、顔半分海に潜らせる。


「!? しょっぱっ!! ゲホッ、ゲホッ・・・・・・」


 明日香が口の中に海の水が入ったのか軽くせき込んでいる。


「ははは、明日香もドジなとこあるね」

「笑わないでよ。私も恥ずかしいんだから」

「ごめんごめん。話を戻すけど、明日香と付き合いだしてから僕も自分を変えようと自覚したら世界が広がって見えるようになったんだ。今まで陽キャラって普段から目立つような生まれ持った人がなるのかと思ってたけど、自分の内面を変えるとこうも変わるとは思わなかったよ」

「私はあまり変わってほしくないな」

「・・・・・・それって、僕には陰キャラがお似合いってこと?」


 僕は明日香の言葉に軽くショックを受けていると、明日香は「違う、違う」と手を慌てて振った。


「そうじゃなくて、翔琉君がこれ以上かっこよくなったら、翔琉君の魅力に気付いた女子が群がってくるんじゃないかなあって不安になったの」

「大丈夫だよ。僕には明日香が一番だから。この先も明日香より魅力がある人なんて現れないよ」

「私も翔琉君が一番だからね」


 僕達は恥ずかしくなってお互いに視線を逸らす。


「それにしても明日香と付き合うことができたのは加奈のお陰かな」

「そ、そうだね。ラブレターを加奈が翔琉君の下駄箱に入れたおかげかもね。あの時は何をしてくれてるんだと思ったけど私の一番は翔琉君ってことを見抜いてたんだね」

「あいつは昔からそういうことに鼻が利くからな。自分のことには鈍感だけど。そのせいで加奈のことを見続けてる一樹が不便でならなかったよ。だけど今はあの二人も結ばれてよかった」




 その頃の一樹達は――


「くしゅんっ!!」


 加奈がクシャミをした。


「加奈、風邪か」

「誰かがうわさでもしてるのかな」


「は、はっくしゅん!!!」


 加奈に続いて一樹もクシャミをした。


「一樹も風邪?」

「そんなことは無いと思うけど、いったん陸に上がるか。ちょうど昼らし、何か温かいものでも食べようぜ」

「さ~んせ~い~」


 一樹と加奈は海から出た。



「ところでずっと気になってたんだけど、翔琉君って結構筋肉あるよね」

「それは筋トレしてるから多少はあるんじゃないかな」

「ちょっと触ってみてもいい」

「構わなけど」


明日香が恐る恐る手を伸ばすと、「失礼します」と律儀に断ってから僕の腕をモミモミと揉む。


「結構硬いね。さすがは男の子だね。他の男の人もみんなそうなのかな」

「さあどうだろう。僕も他の男の人は触ったことないからわからないな」

「そうなんだ」


 モミモミ・・・・・・モミモミ


「あ、明日香、ちょっとくすぐったいんだけど」

「あとちょっとだけ」


 モミモミ・・・・・・モミモミ


「も、もう無理!」


 バシャッ!!!


 僕は明日香にもまれてない反対の腕で盛大に明日香めがけて海の水をかける。

 海の水を盛大に顔にかけられて明日香は何が起きたか分からず目をパチパチさせている。


「ご、ごめ――っぷうっぷ」


 明日香に謝ろうとしたら、今度は明日香に海水をかけられた。


「仕返し。ほら、ほ~ら」


 明日香は両手で海水を掬うと僕にかけてくる。


「やったな~」


僕も海水を明日香にかける。ここからはただの海水の掛け合いっこだ。漫画とかドラマなどでよくあるシチュエーションだけど実際にやってみると楽しかった。


 因みに、この海水の掛け合いっこは一樹達が呆れて声をかけてくるまで続くのだった。

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