第50話 僕は明日香たちとビーチバレーを嗜む

「次は、ビーチバレーやってみない。ちょうどコート空いてるし」


 加奈に言われ、砂浜を見るとネットが設置されてバレーボールが二個置かれていた。


 バレーボールを手に取ると空気がいい具合に入っている。これなら思い切ってやれそうだ。空気がパンパンに入ったボールでバレーでレシーブなんてしたらあまりの痛さで腕がれてやってられなくなるもんな。


「それでチーム分けどうする?」

「・・・・・・私はパス・・・・・・まだ気分悪くて・・・・・・うぷっ・・・・・・」


 ひよりちゃんがグロッキーな状態で呟いている。バナナボートで酔ったのがまだ直ってないようだ。三半規管が弱いんだろうな。


「なら私は審判をする傍らひよりの面倒を見てます」


 葉月が審判を買って出た。


「なら私たち四人だけだし私と一樹対翔琉と明日香のカップルペア対決でどう?」

「別にかまわないけど力の差ありすぎないか」


 僕の申し出に加奈と一樹が顔を見合わせるとまたまた~って顔をされた。


「これで妥当だと思うわよ。私たちは昔から翔琉の力は知ってるし、明日香もこういっちゃなんだけど運動神経抜群よ。そこらの女子どころか男子にも負けないんじゃない。まっ、私の方が強いけどね」


 これは加奈がいつもやる相手をおちょくって挑発する奴だ。僕は耐性があるけどない人がおちょくられると・・・・・・チラッと明日香を見る。


「・・・・・・言ったわね。加奈ちゃん。後で吠えずら掻かせてあげるんだから。やるわよ、翔琉君!」

「あ、はい・・・・・・」


 明日香は十分挑発される人だった。


「二十一点先取のワンセットマッチでいいわね」

「それでいいよ」

「吠えずら掻かせてやる!」


 僕の彼女が怖い。僕はこの時明日香を怒らせてはいけないと心に刻んだ。


「そうだ。普通にやるんじゃ味気ないから何か賭けないか?」


 一樹の提案に加奈が答える。


「負けた方がみんなの昼食を奢るってどう?」

「受けて立とうじゃない」


 明日香が瞬時に答える。


「なら決まりね。サーブ権もあげるわ」

「後悔させてやるわ」


 頼むから明日香を刺激しないでという僕の想い虚しく加奈はほくそ笑んでいた。あ、コイツ分かってて煽ってるな。僕もちょっと腹が立ってきた。こういうやつは一回ぎゃふんと言わせた方がいい。


「翔琉、俺たちは楽しくやろうぜ」

「悪い、一樹。僕も本気でやる時が来たようだ。だから一樹も本気できた方がいいぞ」

「それは楽しそうだ」


 僕達はそれぞれのコートに散った。攻撃は明日香のサーブからだ。

 こうして僕達の戦いの火蓋は切って落とされようとしていた。


 明日香がサーブを打つとボールはネットを超え加奈の元へ。ボールは無回転で加奈の手元で変化して加奈がボールをはじいた。


「へぇ~、やるじゃない」


 明日香がまたサーブを打つ。今度は加奈がレシーブをし一樹がトスを上げる。そこに加奈がタイミングを合わせて飛んだ。僕はそれに合わせてブロック態勢に入る。その時何か揺れるものが視界に入った。それは弾むように揺れる加奈の胸だ。それに気を取られてブロックの飛ぶタイミングがずれる。


「しまった!?」


 加奈のアタックしたボールは僕の腕に当たりコートに落ちる。


「はい、同点」


 転がったボールを拾った明日香に肩を掴まれる。


「・・・・・・翔琉君!」

「は、はい!!」


 鬼気迫る声で振り向くのも怖い。


「ちゃんとやってよね」

「ご、ごめん」

「(胸なら加奈ちゃんのじゃなくて私のを見なさいよ。私だってかなと同じぐらいあるのに)」

「な、何か言った?」

「何でもないわ。この試合勝つわよ」


 それからは点の取り合いで十九対十九の同点までもつれた。後二点取れば勝ちだ。


「はぁ、はぁ・・・・・・なかなかやるじゃない」

「加奈ちゃんもね」


 次のサーブは僕だ。出来ればここで二点取って終わりたい。僕はサーブを打った。ボールは一樹の正面に飛んでいった。一樹が余裕綽々という感じでレシーブ態勢に入る。これは取られると思った時、海から突風が吹き、ボールの軌道が変わって一樹の前にドライブ回転がかかってたように沈み込む。


「ま、マジか!」


 一樹は前に飛び込むようにしてボールに食らいつく。だが、ボールは飛び込む一樹をあざ笑うように手前に落ちた。

 運が味方した形だが一点は一点だ。次をとったら勝ちだ。

 僕はサーブを最後はアンダーサーブでボールを空高く上げた。今まで一回も打ってなかったから奇策になるはず。


「甘いわよ」


 ボールは加奈の方に飛んでいる。加奈とボールの位置が重なる次の瞬間、僕はあまりの計画通りにほくそ笑む。何も意味なくアンダーサーブをしたわけではない。ボールを高く上げればそれをとるために空を見上げるしかない。そして今の天気は快晴だ。そのことから導かれることは一つだ。ボールと太陽の位置が重なると、


「ま、眩しい!?」


 一瞬視界を奪われた加奈は体勢を崩しボールをあらぬ方向へ弾く。それを懸命に追いかけていく一樹を見ながら買ったと思った瞬間、一樹が懸命に足を延ばしてボールに触れたと思ったらこっちのコートに蹴り返してきた。そのボールは運悪くネットに当たって落ちたけど今のは危なかった。完全に油断してた。ネットを超えてたら入れられてたかもしれない。さすがはサッカー部のエース。


「そんなのあり~」


 加奈が地面に座り嘆いている。


「負けだ負けだ」


 一樹も疲れたーて感じでこっちに歩いてきている。


「翔琉君」


 明日香が僕の方に駆けよってきて手を出したので僕も手を出すとハイタッチした。


「やったね。私たちの勝ちよ」


 何か明日香の態度が普段通りだ。試合の時だけ豹変するんだろうか。


「あ、明日香、もう大丈夫?」


 僕は恐る恐る聞いた。


「? ? ? 何が」


 明日香は言われたことが分からないように首をかしげている。


「いや、別に何でもない」


 触らない祟りには触れない方がいいだろう。きっとさっきまでの明日香は幻聴か何かだったんだろう。疲れてるのかなあ、僕・・・・・・


「加奈ちゃん、約束は守ってね」

「分かってるって。だけどあんまり高い物にはしないでね」


 こうしてビーチバレー対決は幕を下ろした。

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