第44話 明日香の願い事
「待って、翔琉君。私最後に行ってみたい場所があるの」
その明日香の表情に心奪われて言葉が出てこなかった。
「じゃぁ私先に行ってるね」
ひよりちゃんが気を利かせて先に集合場所に向かっていった。
何とか気を取り戻すと質問した。
「それで行きたいところって?」
「あ、あの、そんな大したところじゃないんだけど・・・・・・それでもいい?」
「明日香の行きたいところならどこでも行くよ」
「・・・・・・ありがとう」
明日香の顔が少し紅い。これは照れてるな。だんだん明日香の表情が分かってきた。
「こっちに来て」
僕は大人しく明日香についていく。どうやら同じフロアにあるようだ。
僕達が向かった場所は、四階の外に鐘がある場所だった。その鐘は、海ほたる 幸せの鐘といい、何でも大切な人へ想いを込めて鳴らすと、伝えたい言葉は音の波となって、その想いは深まりきっと心に届くと言われてるらしい。
「こんなところに鐘なんてあったんだ」
「私も偶然見つけたんだけどどうしても翔琉君と一緒に鳴らしたくて」
「いいよ」
僕と明日香は鐘の下まで行くと垂れ下がっているロープを掴む。
「思いを込めて鳴らすといいらしいよ」
明日香の言葉に頷くと、ロープを左右に揺らした。
カラーンッ!! コローンッ!!
音が鳴り響く。
明日香を見ると真剣に願ってる様子だ。
「何を願ったの?」
「んぅ~、内緒。心の中で願った方が叶うかもしれないし」
明日香にはぐらかせた。
「まぁ、いいけど。それにしても二人で鐘を鳴らすなんて、まるで教会で結婚式を挙げてるみたいだね」
僕の言葉に反応するように明日香の顔がみるみる紅潮する。その反応を見て、今自分が何を口走ったのか理解して恥ずかしくなった。その場を静寂が支配した。
「あら、あの二人若いわね~」
「昔を思い出すわ」
その言葉に反応するとツアー中のおばさまの団体がこちらを見て初々しいものを見たと言わんばかりの顔で微笑んでいる。
「い、行こうか」
「そ、そうね」
僕達はその場を逃げるように後にした。
一階を出たところで一樹達がいた。
「二人とも、やっと来たか。んっ、どうしたんだ。顔が紅いぞ」
「な、何でもないよ。それよりどうしたんだ。もう集合時間になるんじゃないか」
「そうなんだけど、加奈がみんなで写真を撮りたいと言ったからお前ら待ってたんだよ」
そう言われて僕は展望デッキでみんなで写真を撮りたいと思ってたことを今更思い出した。いろいろありすぎてそのことがこの短時間で抜け落ちていたようだ。
僕はさっきの恥ずかしさを忘れるように加奈たちの方に行く。明日香と視線が交差すると恥ずかしさが込み上げてきてお互いに目をそらしてしまう。
ダメだ。なかったことに出来ない。その様子を見た加奈は怪訝そうな顔をするが何も聞かないでくれる。こういう時は空気読むくせに普段は何であれなんだろう。まあどうせわざとやってるんだろうけど。
それにしても、加奈たちの背後にまたオブジェがあった。これで何個目だ。それぐらいあっちこっちにオブジェがあったような気がする。ここにあるオブジェは、とんでもなく巨大なモニュメントだ。プレートにはカッターフェイスと書いてある。何でも海底トンネルの掘削に使用したシールドマシンのカッターの実物を、そのままモニュメントとして展示しているそうだ。初めて実物を見た。しかも高さは、14.14メートルのカッターフェイスは当時世界最大規模だったそうだ。
僕達はそのモニュメント前に集まると、加奈が通りすがりの人にデジカメを渡し、写真を撮ってもらった。
「後で焼き回ししてみんなにあげるから。もし、データが欲しいなら言ってね。スマホに転送するから」
僕達は母さん達が待っているであろう駐車場に戻り、海ほたるを後にした。
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