第43話 僕は海ほたるでの探索を満喫する

 僕は、フードコートを抜けた先にある展望デッキに向かった。外に出ると快晴で海からの潮の匂いがして気持ちいい。展望デッキを歩くと、魚の頭をしたベンチに、各所に様々な形の撮影用のオブジェを配置してある。時間があればみんなで写真を撮るのもいいかもしれない。メールで送って聞いたらすぐに返信が帰ってきてOKを貰えた。そして、集合時間の十分前に展望デッキで集まって写真をとることになった。

この展望デッキは三百六十度見渡せることから景色を眺めると富士山やスカイツリーが見えて東京湾を一望できる。船もチラホラ見える。あとは、みんなが来た時に見ればいいかと思い、別の場所に移動した。

 四階降りると、土産店に軽食物、明日香たちが向かった足湯に葉月たちがいるゲーセンが見える。まず、ウミナカプラザを物色すると海ほたるくん&海ほたるちゃんグッズが目に留まった。どうやら海ほたるのゆるキャラのようでとても愛くるしい。

 僕は、明日香へのプレゼントにキーホルダーを買った。

 店の外に出ると、ピアノの音色が聞こえてきた。その音の方に行くと多くの人だかりが。その隙間からピアノが見える。看板には海ピアノって書いてあり、どうやら今流行りのストリートピアノのようだ。誰が弾いてるのか見ると見覚えある奴が演奏していた。何と、一樹だ。その前を見ると加奈がうっとりとした顔で演奏を聴いている。昔から何でもできる奴だったが、まさかピアノも引けたなんて。

 僕は二人の邪魔をしたら悪いかなっとその場を後にして足湯に向かった。


 足湯に入ると、奥の方に母さん達が喋っているだけで明日香の姿がない。とりあえず近くの足湯に入って見ると、葉月がいた。


「来たんだ。お兄。一足遅かったね。さっきひよりちゃんが明日香さんをゲーセンに連れってたよ。何でも明日香さんが好きな景品があったとかで」

「へぇ~」


 明日香の居場所は分かった。後で行くつもりだったし、次はゲーセンに行こうかな。その前に足湯を満喫しようっと。


 僕は、靴と靴下を脱いで、脇に置くと、そっと足を足湯に付ける。


「気持ちい~」


 足湯は初めて入ってみたけど、足からじんわり温まってきて疲れが取れそうだ。こうしてただボーとしてるのもいい。

 そして、適度に温まったら明日香がいると思われるゲームセンターに移動した。

 ちなみに葉月と母さん達は気づいたらいなくなっていた。一言ぐらい言ってくれてもいいのに。

 気を取り直してゲームセンターに入ると、たくさんのUFOキャッチャーがお出迎えした。景品を眺めながら明日香を探すと直ぐに見つかった。近づくと明日香とひよりちゃんが真剣な顔をしてUFOキャッチャーの景品とにらめっこしていた。あまりに集中してるのか僕に気付かない。そっと覗くと取ろうとしてるのは某スパイアニメのフィギュアだった。それも三種類あり、全部そろえると台座をつなぎ合わせることもできる仕様だ。

 しばらく眺めてると箱についている輪っかにアームを通すのを苦戦してるようだ。隣にも別のUFOキャッチャーが設置されており、横から覗くこともできないんだろう。


「もう、何で入らないの!」

「お姉ちゃん、両替りょうがえしてくるね」

「お願い!」


 ひよりちゃんが振り向きざま背後で戦況を見ていた僕にぶつかった。


「すいません。・・・・・・ってお兄さん」

「えっ!? 翔琉君! もしかして見てた?」

「あまりにも集中してたから声かけない方がいいと思って。あのフィギュアが欲しいの?」

「あまり可愛いくないでしょう。ぬいぐるみじゃなくてフィギュアがいいなんて」

「そうかな。趣味なんて人それぞれだし僕もフィギュア結構持ってるしね」

「そういえば家に飾ってあったね。じゃぁ、もし私の趣味が・・・・・・やっぱ何でもない」

「(お姉ちゃん、お兄さんなら大丈夫だって。お姉ちゃんがコスプレイヤーだって知っても引かないから。それどころか喜ぶんじゃないかな。趣味だって合うだろうし」

「(えっ!? 翔琉君もコスプレするの!)

「(そうじゃなくて・・・・・・はぁ~、もういいや)両替してくるね」


 明日香とひよりちゃんがボソボソ言ってたようだが、ひよりちゃんが呆れたような顔をして両替しにその場を離れた。

 僕は、しばらくUFOキャッチャーを観測する。見たところアームの右側の方が力があるみたいだ。


「ちょっとやってみていい?」

「えっ、うん」


 僕は百円を投入してアームを動かす。まずは、セオリー通りに輪っかの中に力が強い右側のアームが入るように狙う。


「よし!」


 うまい具合に入った。

 アームが上がると箱の右側が少し前に動いた。もう一回百円玉を投入する。今度は左側のアームで狙ってみる。今度は箱の左側が前に少し動いた。


「翔琉君上手いね。何かコツあるの。私は横は見えるから狙えるけど縦に動かす距離感が分からなくて。それでひよりとやってるんだけどなかなか取れなくて」

「僕は昔からよくやってるから、感覚ていうか空間認識みたいな感じで大体の距離感が分かるんだよね。こればっかしは説明できないからやりながらコツをつかむしかないと思うよ」

「そうなんだ」


 明日香が落ち込んでいる。どうしたらと思っていると、両替したひよりちゃんが戻ってきた。


「どうかした?」

「何でもない」

「ふ~ん。あっ、それよりお兄さん取れそう?」

「地道にやってればとれると思うけど時間がないし違うやり方を試してみるよ」


 このフィギュアをゲットできれば明日香も元気になるだろう。


 さっきまでのやり方を交互に繰り返せば歩くように前に来ていずれは落ちると思う。だけど、そのやり方では時間とお金が無駄にかかる可能性がある。

 新たに百円玉を投入しようとするとひよりちゃんが差し出してくる。


「使ってください」

「いや、それは取っておいてよ。結構使っちゃったでしょう。ここは僕に任せて」


 アームを動かして右側のアームが箱の前の右角に当たるように狙いを定める。

 狙い通りに当たるとアームを中心に回るように回転して落下した。ゲットしたら鳴り響くゲームセンターのBGMを背に取り出し口からフィギュアが入った箱をとると明日香に手渡す。

 受け取った明日香の表情はみるみる輝いていく。


「ありがとう! 翔琉君。これ欲しかったんだ~!」

「お姉ちゃんって単純」


 ひよりちゃんの皮肉も聞こえないほどうれしいらしい。

 まだ少し時間があるから残りの二体にも挑戦する。

 結果として、五百円玉二回投入でとれた。ちなみに三百円分余ったので店員を呼んで他の台でやらせてもらった。そこで、夢の国のぬいぐるみをゲットし、ひよりちゃんにプレゼントした。二人の喜んだ顔を見たらやってよかったと思う。

 時間を確認すると集合時間まであと十分ぐらいだ。もうそろそろ下の階に降りてった方がいいかもしれない。


「もうそろそろ時間だから下にいかない?」


 そう言って歩き出す僕の背中に明日香が呼びかける。


「待って、翔琉君。私最後に行ってみたい場所があるの」


 その明日香の表情は恥ずかしそうに、だけど何かを決心したような表情だった。

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