第40話 明日香の告白は間違いから始まったことがみんなにバレてしまった!?

 あれから車は順調に進み、東京のお台場近辺を走行している。この調子ならあと一時間もかからないだろう。フジテレビでも見えるかなあと景色を眺めていると、明美さんから声をかけられた。


「そういえば翔琉君に聞いてみたいことがあったんだけどいい?」

「はい、何ですか?」


 僕は視線を景色から車を運転している明美さんに向ける。


「翔琉君は明日香と付き合ってるってことでいいのよね?」

「はい、そうですけど・・・・・・」

「付き合いだしてどのくらい?」


 僕は明日香と付き合いだした時を思い出す。全ての始まりは僕の下駄箱に一通のラブレター入っていたことだ。そのすぐ後に事の成り行きで間違えて僕の下駄箱に入れたことを知ったが、僕を選んで間違いなかったと思わせたい一心で今日に至る。


「一か月ぐらいですね」


 僕は自分で言いながらまだそんだけしか月日が経ってないんだと思った。明日香と付き合いだしてからの日々は濃厚で楽しかった。彼女ができる前の僕が今の状況を見たらなんていうのかな?


「あら、結構最近なのね。どっちから告白したの?」

「ちょ、お母さん!」


 今まで黙ってた明日香がこれ以上は恥ずかしいのか明美さんに食ってかかる。


「私も気になるから聞かせて」

「私も興味あります」


 母さんに続いて葉月も聞きたそうに言ってくる。加奈もさっきまで後ろで何か一樹と話してたのに黙っている。やっぱ女性は恋バナが好きな生き物なのか。この場には男は僕達しかいないと一樹を見ると諦めろと言わんばかりに首を振る。


「ちょっとみんなっ! ――っん~んぅ・・・・・・!?」

「お姉ちゃん、ちょっと黙ってようね~」


 ひよりちゃんが横から明日香の口をふさいでいる。シートベルトに縛られてるせいで余計に苦しそうだ。早く解放してあげるためにも僕は、観念して話した。


「実は、下駄箱に手紙が入っていまして・・・・・・」

「えっ、何。ラブレター!?」

「スマホがあるこのご時世にアナログな方法をするなんて愛があるわね」


 母さんたちはラブレターに反応するようにはしゃいでいる。自分たちの世代が使う手段だからうれしいんだろうな。


「お兄さん、お姉ちゃんからの手紙って文章硬くなかったですか? 文豪みたいな、

そうろう。みたいな言葉使ってないですか?」


 ひよりちゃんがなかなか失礼なことを聞いてくる。明日香も癪に障ったのかひよりちゃんの腕の力が一瞬弱まったタイミングで脱出しひよりちゃんに迫る。


「お姉ちゃん、嫌だな~。冗談だって・・・・・・顔が怖いよ」


 ひよりちゃんは恐怖を感じて明日香から距離をとろうとする。だが悲しいかな。今いる場所は走行中の車の中で逃げ場がない。この後あったことについてはひよりちゃんの名誉のために僕の胸の内にしまっておこう。ただ言えることは明日香は怒らせない方がいいってことだけだ。


「それでラブレターになんて書いてあったの?」


運転しながら明美さんが聞いてくる。ちなみにちゃんと前を見て安全運転している。運転に集中すると眠くなるかもしれないから気になってたことを聞いて話を繋いでるんだろうなあと理解する。


「それが体育館裏に来てほしいて・・・・・・」

「王道ね」

「お姉ちゃんらしいけど」

「それで明日香から告白されたわけね」


 興奮したように明美さんが聞いてきた。


「それが逃げられました」


 僕の言葉で話の出鼻をくじかれたようにみんなズッコケた。車も一瞬左右にぶれたような・・・・・・危なっ! 明美さんにはちゃんと安全運転してもらわないと。


「な、何で逃げたの。明日香?」


 明美さんの追求から目をそらすように車の窓に写り込んでる景色を見ながら、


「・・・・・・いざとなったら緊張しちゃって思わず逃げっちゃたの」

「お姉ちゃんが心臓に毛が生えてるようなメンタルのお姉ちゃんがそんな乙女チックのこと――」

「――何か言った?」

「・・・・・・な、何でもありません」


 明日香のひと睨みでひよりちゃんが押し黙る。その表情はうかがい知れないけどひよりちゃんの様子から察するに相当の怖さのようだ。


「あはははっ! そんな理由じゃないって! 明日香は相手を間違ったんだよ」


 加奈が空気を読むことなく爆弾を投下した。


「ちょっ、加奈ちゃん!? それは言わないでよ!」

「別に秘密って言われてないし、こういうことは早い方がいいんだって」

「それはそうだけど・・・・・・」


 明日香がチラッと僕を見る。その表情は今にも泣きそうだ。僕にどう思われるか不安なんだな。まぁ偶然聞いてしまったから知ってたんだけど。良くも悪くも空気を読まない加奈は後で絞めるとして、明日香を安心させるためにもここは僕もそのことを知ってたことをカミングアウトするしかない。


「あの――」

「どういうことですか。明日香さん?」


 僕の声に被せるように隣から声がした。隣を見ると葉月が明日香に聞いている。その声は少し怒っていそうな声だった。


「あの・・・・・・」

「お兄をからかって遊んでたんですか。もしそうなら明日香さんのこと軽蔑します」

「ちょっと葉月。落ち着いて」

「ひよりは黙ってて」

「ひぃっ、お母さん」


 ひよりちゃんは自分の手に負えないと思ったのか明美さんに助けを求める。


「好きにやらせておきなさい」

「そうよね。恋愛はいくつもの壁を乗り越えないとできないし」


 母さんたちは放任主義でほっとくようだ。どこか面白がっている節があるが。


 明日香はぽつぽつと語りだす。僕のカミングアウトのタイミングは機を脱してしまった。

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