第38話 僕と明日香の母親は幼馴染だった件
僕達は準備万端に朝食を済ませ家の前で明日香たちが来るのを待っていた。一樹と加奈も家が近いこともありもう来ている。出発時間は午前九時を予定している。スマホを取り出して今の時間を確認すると八時五十分だから後十分ほどだ。
「わぁ~、おしゃれですね! 秋穂さん!」
「フフフッ・・・・・・ありがとう。加奈ちゃんもきれいになったわね」
「ありがとうございます!」
加奈と喋っている見た目が二十代前半にしか見えないこの女性は僕と葉月の母親、
僕の視線に気づいたのか葉月は、
「お兄、なんか変なこと考えてない?」
「いや、今日も葉月は可愛いなあと思っただけだよ」
「きゅっ、急に朝っぱらから何言いだすの! お兄のバカ! 明日香さんに言いつけてやるんだから!!」
顔をサクランボの様に紅く染めると加奈たちの方に駆けて行った。
「相変わらず仲いいな。それに秋穂さん、今日も美しいな」
「お前、自分の母親が親友からそんな目で見られてると思うとゾッとするな」
「安心しろ。いくら俺でも人妻に恋愛感情を抱くほど馬鹿じゃない。ただのあこがれみたいなものだ。例えるなら好きなアイドルのプライベートを見た感じかな。それに今は、加奈という彼女がいるから女に困っていない」
「聞く人が聞いたら最低ともとれる発言だから気をつけろよ」
僕達がそんなやり取りをしてる時、車の音が近づいてきたのでその方向を見た。
遠くから黒い車が近づいてきて家の前で止まった。車種はトヨタのアルファードだ。
車の中から明日香とひよりちゃんが降りてくる。
「翔琉君、おはよう」
「お兄さん、おはようございます!」
「・・・・・・ああ、おはよう」
「お兄さん、もしかしてお姉ちゃんに見惚れてます?」
ひよりちゃんに聞かれてギクッとした。明日香と付き合いだしてからデートは学校帰りが多かったので制服姿の明日香しか見ていない。だけど今日は私服姿なのだ。あまりの新鮮で吸い寄せられるようにまじまじと見てしまう。
明日香の格好は、ホワイト系のカットソーに頭にはホワイト系のハットを
「・・・・・・翔琉君、そんなにみられると恥ずかしい」
「ご、ごめん!」
そんなやり取りをしていると車の運転席から女性が降りてくる。その姿は明日香があと数年、年をとったらこんなふうになるのかなあと思わせるほどそっくりだった。
「この男の子が明日香の彼氏?」
「そうだよ。お母さん」
恥ずかしがっている明日香の代わりにひよりちゃんが答える。僕はひよりちゃんの言ったことに驚いた。
「お母さん・・・・・・二人のお姉さんじゃなくて!?」
「あら嬉しいこと言ってくれるじゃない。明日香の彼氏にはもったいないぐらいのいい男ね。私がもう少し若かったらね~」
「お・母・さ・ん!!! お父さんに言いつけるよ」
明日香がドスの利いた声で母親に詰め寄っている。
「冗談だって。それに四十を超えたおばさんに言いよられても困るでしょ。ねぇ~?」
「はぁ~」
僕はまたも驚かせて良く返事が出来なかった。この見た目で四十を超えてるの。僕の母親と言い、近頃の四十代ってどうなってるんだ。僕達の母親だけ特別なんだろうか。
「あら、明美じゃない」
「秋穂!?」
僕の母親が明日香の母親に抱き着いている。
「秋穂、何でここにいるの?」
「何でってここにいる翔琉の母親だからよ。それに前の食事会の時に聞いた名前が翔琉の彼女と同じだったからもしかしたらと思ったけど、やっぱりそうだったのね」
「じゃあ、翔琉君って秋穂の息子なのね。こんなことがあるなんて世間は思ったり小さいわね」
そんな様子を見ていた僕達を代表してひよりちゃんが聞いた。
「あの、お母さんって秋穂さんと知り合いだったの?」
「知り合いも何も幼稚園からの幼馴染で腐れ縁よ」
「幼馴染なのにお互いの子供にあったことなかったの?」
「会ったことははあるんだけどその時は明日香も翔琉君も赤ん坊だったから。だから、あの時の男の子がこんなイケメンに成長しておまけに明日香の彼氏になってるんなんてとても驚いてるんだから」
「それにお互い夫と未だにラブラブだからいない時にしか会わないのよね~」
「だけど二人が結婚すれば親族になるんだしそうなったら大きな家を買ってみんなで暮らそうかしら。どう思う? 明日香」
明日香の顔がみるみる赤くなって「し、知らない! 行こう! 翔琉君」と手を引っ張られる。
明日香は恥ずかしさで気づいてないかもしれないが、不可抗力とはいえ手を繋げてることに心臓がバクバクする。明日香とは手をつないだことはあるが未だになれない。こんな事当たり前にできる奴は何人も付き合ったことがある奴だけだと思う。
「あの人たちはほっといて荷物を入れよう」
「お姉ちゃん、いい加減お兄さんの手を放さないと荷物おけないよ。離れたくないならいいけど」
「えっ!?」
ひよりちゃんに言われ明日香は手元を見ると今更気付いたように手を放した。
「さっさと入れましょう」
明日香は誤魔化すようにトランクを開け荷物を入れる。
「それぐらいで恥ずかしがちゃって。私たちは平気よ。ねっ、一樹」
加奈が一樹の手を取る。
「う、うっとおしい」
一樹が加奈の手を振りほどいた。
「ごめん、一樹が恥ずかしがってたわ」
その一幕を見ていた僕達は思わず笑ってしまった。その後は何もなかったように荷物を入れ、忘れ物がないことを確認すると、別荘がある千葉県木更津市に向かって出発するのだった。
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